どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

愛しい人の贈り物・・ウクライナ

2024年03月05日 | 昔話(ヨーロッパ)

      世界の水の民話/日本民話の会・外国民話研究会:編訳/三弥井書店/2018年

 

 遠い昔、浜辺に住んでいたアザという娘が、とてもハンサムな若者を愛していた。ところが動乱の時期になり若者はトルコとの戦いにでていった。

 若者は戦争に出ていく前に金の指輪を渡して、「待っていてくれ、忘れないでくれ」「もしこの指輪をなくしたら、君の不実のあかしだ」と、いいのこします。

 娘は贈り物を大事にし、何年もずっと若者の帰りをまっていましたが、若者は戻ってきませんでした。

 あるとき、娘が海へ洗い物をしにいき、物思いに沈んでいて、指輪をするっと海に落としてしまいました。そこへいきなり波がきて贈り物は消えてしまった。哀れなアザは、大事な贈り物を取り戻そうと波に飛び込んだが、おぼれてしまった。

 いらい、海はアゾフー不幸な娘、愛しい人の帰りをまつことができなかった娘の名でよばれるようになった。

 

 このアゾフ海域はクリミア戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦など、多くの重要な歴史的出来事の舞台。いまは、ウクライナとロシアの戦争の最前線。古くは、ギリシャ、ローマ、ビザンチン、オスマン帝国などの影響を受けてきました。
 この地域には、ウクライナ人、ロシア人、クリミア・タタール人など、さまざまな民族が共存していましたが、いまはどうでしょうか。


アザラシ女房・・アイルランド

2024年02月28日 | 昔話(ヨーロッパ)

     世界の水の民話/日本民話の会・外国民話研究会:編訳/三弥井書店/2018年

 

 人間の女の姿をして岩の上で髪をとかしていたのは、アザラシの化身。そのことを知っていた一人の男が、女のそばにある上着を、さっと取り上げて、それをもって家に向かって一目散に走った。女は、上着を取り戻すため男のあとを追っていくしかなかった。その上着がないとアザラシはもとの姿に戻って海に帰れないからだ。男は家に入ると、すぐに上着を暖炉のそばにある中二階のずっと奥のほうに投げ込んだ。

 海に帰ることができなくなったアザラシの女は、男の家に住み、時がたつうちに数人の子が生まれた。その子どもたちの足の指と指にはガチョウやアヒルのような水かきがついていた。

 ある日、男が収穫したカラスムギを中二階に運び入れることを思いついた。中二階にはずいぶん長い間上がったことがなかったから、その間に投げ込まれたものでいっぱいだった。男はガラクタをつぎつぎに上から下に投げはじめた。そうしているうちに、あの上着も投げてしまったのだ。下で夫の仕事ぶりを見ていた女は、上着をすかさずそれをとって、自分が座っている椅子の尻の下に隠した。男は中二階が片付くと、カラスムギの袋を運び入れた。夫が仕事を終えて外へでていくと、女は上着をもっと安全な場所に隠した。

 夕方近くなると、女は家の中をきれいに掃除し、夕食の準備をした。それから子どもたちの一人一人の体を洗い、服をきちんと着せ、テーブルにつかせると、自分は外に出て、上着をはおると、浜辺に向かって一目散におりていった。

 

 羽衣伝説のひとつですが、アザラシというのは、地域の特徴を表しているようです。その後、誰も女の姿をみたことがないという結末なので、子どもたちがどうなったかが気になりました。


海底の王国に行った船乗り・・イタリア

2024年02月20日 | 昔話(ヨーロッパ)

     世界の水の民話/日本民話の会・外国民話研究会:編訳/三弥井書店/2018年

 

 イタリア版「浦島太郎」。

 難破した帆船の船乗りが、離れ小島の浜辺につくとすぐ力がつきて気を失い、そのまま眠ってしまった。
 誰かが起こす声がして目を覚ますと大きな亀。男は好奇心が強く亀に誘われままネプチューンの海の王国へ。船乗りは王に迎えられ、王の娘と結婚し、幸せな日々を過ごします。

 ある日、船乗りは両親に会うため、地上に戻りたくなった。王女は考えを変えるよう泣いて頼みます。だがどうしようもないとわかると、蓋をした小箱をあたえ、けっして捨てないようにと頼んだ。
 船乗りが故郷にかえってみると、なにもかも変わっており、亀に出会ってから百年がたったことに気がついた。気落ちした船乗りが小箱を開けると、昏睡状態におちいり、目を覚ますと、長く白い髭の老人にかわってしまっていた。老人はたちまち皺だらけになり、地面に崩れて、あっという間に息をひきとった。

 

 男は、亀を助けることもなく、海の王ネプチューンのところへいき、すぐ王になりますが、よほど見込まれたんでしょうか。


よい妻

2023年09月06日 | 昔話(ヨーロッパ)

    金のリンゴと九羽のクジャク/東欧の昔ばなし2/直野敦・訳 赤坂三好・絵/小峰書店/1987年

 

 ある貧しいお百姓が、居酒屋から帰ってきて自分の妻に言いました。「商人たちはなんであんなにひまがあって、しかも楽な暮らしをしているんだろうね。おれたちは、汗水たらして働いているのに、いつも貧乏なんだがなあ」。妻は答えて言いました。「商人たちはお金があるから、穀物を安く買って、その値段が高くなるまで、それを取っておいて、高い値段で売るんですよ」

 夫は、雌牛が一頭いるから、商売するといいだし、雌牛をつれて歩いていきます。ところで、夫の商売はびっくりするほど。ヤギをつれているおばあさんにあうと、ヤギと雌牛をとりかえ、つぎにそのヤギをオンドリに、オンドリをこじきが帽子の下にあるものとかえようとして、こじきの帽子の下には、なんにもなく手ぶらで家に帰っていき、居酒屋にたちよると、三人の商人に子細を語りました。

 お百姓が「妻はこうなったことに心から満足しているというでしょうね」というと、商人は、「あなたのおかみさんが、きっといやな顔をするにちがいない、というほうに金貨四百枚をかけましょう。だって、もし、それでもにこにこ顔をして満足していたら、それは世界にふたりといない女の人でしょうからね」

 賭けによばれた妻がなにひとつ夫を非難しないのは、お話の流れ。お百姓は四百枚の金貨を手に入れることに・・・。

 

 もうひと工夫したタイトルが欲しい話。

 同じように、妻が夫のしたことに文句をいわない例もありますが、ほかの昔話とちがって、商品経済が発展しはじめた状況を反映しています。

 

 それにしても、東欧という言葉も聞くことが少なくなりました。チェコスロバキアの話と紹介されていますが、この本の出版が1987年と、旧ソビエト解体前の発行。1993年、チェコスロバキアも連邦制を解消し、チェコとスロバキアに分かれています。

 どの国の昔話というのは便宜的なものであって、本来 昔話は、国境とは無縁なのかもしれません。


死神をだましたお百姓・・ポーランド

2023年09月04日 | 昔話(ヨーロッパ)

   金のリンゴと九羽のクジャク/東欧の昔ばなし2/直野敦・訳 赤坂三好・絵/小峰書店/1987年

 

 こどもがいない夫婦が出てきても、すぐに子に恵まれるところからはじまるのは、よくみられる昔話の冒頭。いい星めぐりがやってきて息子が生まれるところからはじまります。

 同様のグリムの昔話では、神さまや悪魔にであいますが、これを断り、死神に名づけ親になってもらいますが、この話では、「行いの正しい人」ということで、こじきのつぎに死神が登場します。

 名付け親になれば親類も同然なので、死神は百姓を自分の家に招いて、人間の「命のともしび」を見せてやりました。お百姓は、自分のろうそくの灯が、死神の言葉によれば、あとわずか十年で、彼の息子は八十年の長さがありました。(グリムでは、後半にでてくる場面が前段であらわれます)

 お百姓は死神に自分の生命のともしびをのばしてもらうよう頼みますが、死神は行いの正しい人間として、そんなことはできないと断り、その代わり、医者になるようにすすめます。そして、「あなたが病人の家に往診を頼まれたら、わたしもあなたについていって、病人のところへいきましょう。もし、わたしが病人の足元に立ったら薬をあたえなさい。まくらもとにたったら、薬は与えないで、”この病気は治りようがありません。わたしにも手のほどこしようがありません”といいなさい」といいます。

 お百姓は医者になり、あちこちからたっぷり礼金をもらい金持ちになりました。やがて伯爵の息子の病気を治すようによばれてて出かけますが、死神はまくらもとにたっています。伯爵から、「財産の半分をやる!」といわれ、自分の命がまだ九年のこっていることを知っていたお百姓は、伯爵と相談し、大工たちにベッドの横に巻き上げ機を作らせ、ベッドを回転させ、死神を追い払います。そして伯爵の息子がバター・ミルクでのどをうがいすると症状は改善します。

 死神は、その一か月後の同じ時刻、朝ごはん時にくることになっていました。死神がドアをいくらたたいても、お百姓は聞こえないふり。死神は、からだを小さくしてドアのかぎ穴から家にはいり、伯爵の息子の代わりに、お百姓が早く死ぬことになると、脅します。

 お百姓は、死神がかぎ穴からはいったことが信じられないので、飲み干したビールビンの中にはいられたら信じるともちかけます。死神がビンのなかにはいると、お百姓はビンの蓋を固く締め、深い湖の底へ沈めました。

 それから二十年、死人はひとりもいませんでした。ある年の夏、日照りがつづき、どの井戸も水がかれ、お百姓たちは、湖だけに残っていた水をくみ上げました。そして底のどろさらいをしたとき、ひとりのお百姓がスコップでビンをたたき割り、死神はふたたび自由の身になりました。

 さあ、それから死神の大がまでの刈り取りがはじまりました。はじめにだましたお百姓、それから刈り取られたのは、もうとくに死ぬはずになっていた人々です。人々はばたばた死んでいき、つぎつぎとはやりの病気にかかりました。そして、人びとはその病気を「コレラ」と名づけました。

 

 すっぱくなった牛乳、バター・ミルクが薬としてでてきますが、つまるところなんでもよかったのかも。”死”が”刈り取り”と訳されているのがみょうにリアルです。


いうことを きかないウナギ・・イタリア

2023年08月28日 | 昔話(ヨーロッパ)

   ながすね ふとはら がんりき/愛蔵版おはなしのろうそく4/東京子ども図書館編/2000年

 

 外国では比較的短いイタリアのわらい話。

 ある時、ベニスの近くのチョギヤの町の漁師が、かごにいっぱいウナギをいれてベニスにやってきました。そして、ゴンドラの船頭に、運河をわたりたいんだが料金はいくらかとききました。

 「ひとりあたま五銭」ときいた漁師、「あんりゃー、そりゃ高くつくわ。これだけ頭があるもんな」と、漁師はかごの中のウナギを見ながらいいました。

 「ンだば、水へへえれ。お前たちにゃ、泳いで、わたってもらおう。おら、向こう岸でまってるからな」。

 漁師はかごのウナギをぜんぶ川に流し、それからひとりぶんの料金をはらい、向こう岸に腰をおろして、ウナギを待ちました。待って待って、待ちました・・・。

 

 松岡享子さんの味わいのある訳が生きています。


3びきのくま・・イギリス、”3びきのくま”絵本版

2023年07月23日 | 昔話(ヨーロッパ)

 この話は、1834年から1837年にかけて書かれたロバート・サウジという詩人の創作で、昔話の条件にかなっているので、ほんものの昔話?として使われてきたといいます。(岩波書店の訳者のことばから)

 あるお話し会で、小さい子も熱心に聞いていたのが印象に残りました。絵本もたくさん出ています。

三びきのクマの話(イギリスとアイルランドの昔話/石井桃子 編・訳/福音館書店/1981年)

 この本は何回か読んでいたはずなのですが、語るのを聞いて、覚えてみたいとあらためて目をとおしてみました。
 例によって、一冊だけではなく、文元社からだされている山室静編著も参考にしてみました(新編世界むかし話集1 イギリス編/山室 静 編著/文元社/2004年)

 石井訳では
 ちいさいおばあさんがおかゆをたべてしまって、三匹のクマが叫ぶところ。
 おっきなクマは「だれかが、おれのおかゆをたべたな!」
 中くらいのクマは「だれかが、おれのおかゆをたべたな!」
 ちっぽけなクマは「だれかが、ぼくのおかゆをたべたな。そして、すっかりたいらげちゃった!」

 これが文元社では
 デカグマは「だれだ、おらのオートミールにさわったのは!」
 中グマは「だれかがわたしのオートミールにさわったのは!」
 チビグマは「だれかがあたいのオートミールを、みんなたべっちゃったわ!」

 三匹のクマの表現、おかゆとオートミールのちがい。クマの性別をうかがわせるセリフ。

 これ以外にも微妙な表現のちがいがあります。
 
 さらにほるぷ出版では麦がゆと訳されています。クマのところに入ってくるのはゴールデロックという女の子。
 石井訳では、ちいさなおばあさん、文元社版では小さな女の子。

岩波書店の木下順二訳(ジェイコブス・作/イギリス民話選/ジャックと豆のつる/木下順二・訳 絵・瀬川康男/岩波書店/1967年)では、小さなおばあさんとオートミールと訳されています。

・さらに篠崎書林版(ブリッグの世界名作童話集1/フローラ・アニー・スチール・再話 小林忠夫・訳/篠崎書林/1988年)では、おかゆ、かんしゃくもちのゴールデイロックス。


    3びきのくま/ポール・ガルドン ただ ひろみ・訳/ほるぷ出版/2020年新装版

 3びきのくまのところにやってくるのは、無邪気な感じのキャンディという女の子。前歯が欠けています。”おかゆ”は、キャンディの目の高さのやや高いところ。

 ちいさなこぐま、ちゅうぐらいのこぐま、でっかいおおぐまと、くまと、説明の文まで大きさがちがいます。

 3びきが椅子に座って本をよんでいますが、もっている本は、おおぐまの本がいちばん小さく描かれています。

 ベッドがどの階にあったのかは不明です。


    3びきのくま/スズキコージ文・絵/鈴木出版/2015年初版

 スズキコージさんのものは2015年と最近の出版。

 スズキさんのは、やや短くなっています。
 きんいろのかみのおんなのこがでてくるのは、ほかにもありますが、やんちゃなおんなのこが天衣無縫といった感じです。

 くまのいえにやってくるところ。
    あたい かえりみちが わかんなくなったちゃった。
    あれえ、あそこに ちっこい おうちがあるわ。
    それに ドアもあいているし。(手書き文字です)
 くまの朝食をたべるところ。
    でっかいまめのスープ      うわあ、アッチッチイ
    ちゅうくらいのさらのスープ   うーん まだまだ、アッチッチイ
    ちっこいおさらのスープ     うん、ちょうど いいわ。
 いすにすわるところ
    みあげるぐらいのいす      うわあ、この いす いわみたいに かたいわね
    つぎのいす           うわあ、わたみたいに フワフワだわ
    ちっこいいす          あっ、このいす あたいに ピッタリ

 このあとも擬音語がうまく生かされています。

 訳されているのは繰り返しが多すぎる感じもしますが、スズキさんのものは別のリズムのようです。

 くまの朝食を「おかゆ」「オートミール」と訳されているのが多いのですが、スズキさんは「豆のスープ」とされています。



    3びきのくま/バーナデッド・絵 ささきたづこ・訳/1987年初版

 バーナデッド版の最後。くまから追いかけられる場面ですが、窓から飛び出すというのが多いのですが、女の子は階段をかけおります。
 そして、くまが追いかけるというのはあまりありませんが、バーデッド版では、くまが女の子をおいかけ、髪が キラキラきんいろにひかるので、まぶしくてつかまえられませんでしたとあります。

 くまのベッドは、2階にあり、窓から飛び出すとたしかに足をくじたり、骨折したりしそうなので、バーデッド版は、そのあたりも配慮したのかもしれません。

    3びきのくま/L・N・トルストイ バスネッツオ・絵 小笠原豊樹・訳/福音館書店/1962年初版

  出版年からいうと、最初にふれるのはトルストイ版が多いでしょうか。女の子には名前がなく、クマのお父さんは、ミハイル・イワノビッチ、お母さんはナスターシャ・ペトローブナ、クマの子はミシュートカとロシア風。

 朝食はたんにスープとあります。そして椅子に座りながら女の子がスープをおわんで飲むというのが、ほかのものとの違い。

 絵も、お父さんクマが薪を背負い、お母さんクマが野イチゴ?、子クマがキノコをもっていますから、単に散歩しただけでなく、食材も調達してきたようです。


おなかの皮が ぼろぼろにむけた牝ヤギのお話・・ロシア

2023年07月18日 | 昔話(ヨーロッパ)

  子どもに語るロシアの昔話/伊東一郎:訳・再話 茨木啓子・再話/こぐま社/2007年

 

 昔話を聞いている子どもは、お話しの世界をイメージしているといいますが、「おなかの皮が ぼろぼろにむけている」牝ヤギのイメージはどうでしょうか。

 あるお百姓が、おなかが半分なく、あとの半分も、皮がぼろぼろにむけている牝ヤギをみつけ、かわいそうにおもい、納屋にねかせてやりました。ところがこの牝ヤギ、お百姓とウサギがでかけると、家に入り込んで、中からカギをかけてしまいました。

 かえってきたウサギが、家に帰ってきて、入り口をあけようとしても、戸があきません。「中にいるのは、だれ?」と、ウサギが聞くと、「あたしさ、半分腹なし、半分皮むけの牝ヤギさ。すぐに出て行って、おまえをの腹をけとばしてやる!」と、大声で答えたので、ウサギはびっくりして逃げ出し、道ばたで泣いていました。そこへオオカミがやってきて、おいだしてやろうと、戸口でどなりますが、牝ヤギが「あたしさ、半分腹なし、半分皮むけの牝ヤギさ。すぐに出て行って、おまえをの腹をけとばしてやる!」と大声を出すと、オオカミがあわてて逃げ出してしまいます。

 ウサギの話を聞いたオンドリも、「オンドリがきたぞ! 肩にサーベルをかついで、牝ヤギの心臓をつきさし、頭を切り落とそうと、オンドリがきたぞ!」と、大声を出しますが、牝ヤギに、脅されて、逃げ出してしまいます。

 次はミツバチ。牝ヤギに脅かされると、ミツバチは怒って、家のまわりをブンブンとびはじめ、壁に小さな穴を見つけ、そこから中へ入り込むと、牝ヤギのおなかを、いきなりチクンと、さしました。牝ヤギは、びっくりぎょうてん。そのまま逃げて行ってしまいました。

 ウサギは、無事家に入って、思う存分食べたり飲んだり。そしておなかがいっぱいになると、ゴロンと、横になって、寝てしまいました。


はんぺらひよこ・・スペイン

2023年07月10日 | 昔話(ヨーロッパ)

       世界のむかしばなし/瀬田貞二・訳 太田大八・絵/のら書店/2000年

 

 目が二つ、手が二つ、足が二本と、人のからだは対称的ですが、これがすべて一つというのは想像しにくい。しかし昔話では、半分人間がでてきたりします。ここでは、足は片足、はねはかたつばさ、目は片目のひよこが主人公。

 はんぺらひよこは、ごうきのかたまりで、にいさんひよこたちより、ずっとつよく、やりたいことは、なんでもやるし、いきたいところは どこでもいくというしまつ。

 あるとき、はんぺらひよこは、「おかあさん、ぼくは王さまにあいたい。マドリッドのみやこへいってくる。」と、いいだし、おかあさんがとめるのをふりきって、ぴょこん、ぴょこん、野原をこえて、でかけていきました。

 だいぶいったところ、はんぺらひよこが、小川にさしかかると、「水草で道がつまって、ながれることができない。どうかつまっている枝や水草を、おまえさんのくちばしでおしながして、わたしをたすけてくれないか。」と、水がさらさらいいますが、「なんてことをいうんだ。無駄足をくってられないや。ぼくは王さまにあいに、みやこへのぼるところなんだ!」と、水の頼みに耳を貸さずに、ひよこは、ぴょこん、ぴょこんと、とおりすぎました。

 焚火から、「つばさで、あおいでくれないか」、風から、「からみあった枝や葉をちょっとどけてくれれば、いきがつけるんだ。」と、頼まれても、ひよこは無視して、王さまの宮殿にやってきます。

 宮殿のなかにわをとおりすぎようとすると、料理番につかまって、火にかけたなべの水のなかに、投げ入れられてしまいます。ひよこが、「水さん、水さん、おぼれさせないでよ! それいじょうのぼってこないでよ、おねがいだ」と、大声をああげますが、水は、「わたしがこまっているときに、おまえは、たすけてくれなかったね。」と、ますますのぼっていきました。そのうち水は、あたたくなって、あつくなって、ひどくあつくなってきたので、「そんなにひどくもえないでよ! 火さん」と、ひよこは大声をあげますが、火から無視されてしまいます。

 焦げてしまったひよこを、料理番は窓のそとへすてました。するとそこへ風がふいてきて、木よりもたかくまいあげました。そして、風はいちもくさんに、ひよこを、お寺のとんがりやねのてっぺんにふきつけて、そこにくぎづけにしてしまいました。

 

 どうやら風見鶏の由来らしい話ですが、調べてみるとちょっとちがうようです。


キューピッツとうさんの知恵・・ドイツ

2023年05月10日 | 昔話(ヨーロッパ)

     雪の白いのは/シャハト・ベルント編 大古幸子・訳/三修社/2006年

 

 土地はほんのわずかしかなく、雌牛が一頭いるだけの農夫のキューピッツとうさんが町へ行こうとしたとき、途中でお金のたくさん入った財布を見つけました。ちゃんと拾ったことを届けないと罰せられます。自分だけならなんとかなりそうだが、女房はだまってはいないだろうと策を講じます。

 まずは、ふたりいっしょにテンの罠を仕掛けます。そして夜になると、キューピッツとうさんは、市場で買った大きなウナギを罠の中においておきます。翌朝、奥さんが罠をみてみると、そこにはウナギ。はじめは食べたくないと言っていた奥さんも、においに誘われ、おいしいおいしいと言って食べました。

 つぎの日、奥さんの目を盗み、肉屋で買った脂身を細かいサイの目に切り、窓から外へまき散らしました。夫婦がちょうど寝床に入ったとき、外で犬たちの鳴き声がきこえ、奥さんは、外を見て「窓の外は真っ白よ。雪が降ったんだと思うわ。」とさけびますが、キューピッツとうさんは、「脂身が雪みたいに降ってきたんだ。拾い集めて家の中に運び入れよう」と、脂身をふたりで拾い集めました。そして、翌朝、朝食用に焼いて食べました。

 ここで、キューピッツとうさんは、はじめて財布のことを奥さんに話し、だれにも話さないようにいいます。

 だれにも話さないと言っていた奥さんは、村長の奥さんに財布を拾ったことを話してしまいます。絶対にいわないといっていた村長の奥さんも、村長に財布のことを話してしまい、村長は役所に報告しました。

 二、三日して役所からよびだされ、財布のことを問いただされたキューピッツとうさんは、「お金なんぞみつけませんでしたよ」と申し立てます。役人が奥さんをよびだし、財布のことを問いただすと、本当のことだといいます。そして、「テンの罠で大きなウナギを捕まえたり、夜に脂身が雪のように降ってきたのは、ほんの二、三日前だったじゃないの」と、亭主にたずねました。これを聞いた役人は、キューピッツのいうほうが信用できるといいました。

 こうしてキューピッツとうさんはお金を自分のものにしました。

 

 昔も、ネコババはダメとされていたのでしょうか。


悪魔にもできなかったこと・・ドイツ

2023年05月06日 | 昔話(ヨーロッパ)

     雪の白いのは/シャハト・ベルント編 大古幸子・訳/三修社/2006年

 

 むかし三人の兄弟が、悪魔と協定を結びました。悪魔は兄弟に、欲しいだけのお金をいつでも手にはいるようにしてあげました。その代わりに、十年後には、悪魔のものになることになっていましたが、それぞれの兄弟がだした問題をもし悪魔が解決できなかったら、自由になれるという条件がついていました。

 そのときのために、一番上の兄は、馬を買い人を雇って小高い所に絶えず石を運び上げました。二番目の兄は、人を雇い、大きくて太い樫の木をものすごく細かく打ち砕き森の中にまき散らさせました。しかし、一番若い弟は、十年後のことは気にもかけないで、たえず居酒屋に入り浸り、飲んだり食べたりして楽しく日々を過ごしていました。

 十年後、一番上の兄は、悪魔に、山の石を30分以内に砕いて砂粒にするよういいます。二番目の兄は、森の中にあるかけらをつかって、もういちど一本の樫の木に組み立てるよういいます。悪魔はふたりの問題をいとも簡単に解決し、ふたりは 悪魔のものになりました。

 一番若い弟は、居酒屋でなかなか酒を飲み終わらず問題をだしません。時間が十分にあるという弟に、いらいらした悪魔が問題をだすように叫びます。弟は悪魔を外に連れ出し、片脚をちょいとあげて、ブーッと一発放ち、「さあ、今のやつを取り戻してきてくれ」といいました。

 悪魔は問題を解決できず、若い弟は自由になりました。

 

 あれこれ考えずに、知恵比べを楽しむ昔話でしょう。


二ひきのよくばり子グマ・・ハンガリー

2023年05月04日 | 昔話(ヨーロッパ)

     子どもに聞かせる世界の民話/矢崎源九郎編/実業之日本社/1964年

 

 世の中に出て幸せをつかもうと二ひきの子グマが旅に出ました。何日も旅を続け、おかあさんからもらった食べ物も残らずなくなってしまいました。

 のろのろ歩き続ける二ひきは、道の真ん中に落ちている大きなチーズを見つけ大喜び。ところが、このチーズのわけかたでひと悶着。兄が切っても弟が切っても、自分がもらう分が少なくなると口喧嘩。

 そこへ、ひょっこりキツネがやってきて、二ひきから喧嘩のわけを聞くと、じょうずにわけてあげるといいます。

 キツネがわけたチーズは、一つのほうがずっとおおきいものでした。大きさが違うと二ひきがさけぶと、キツネは大きいほうのチーズを食べてしまいます。そしてキツネは、残ったチーズを二つにわけます。こんどもおおきさがちがい、キツネは 大きいほうを食べてしまいます。

 なんどか繰り返すうち、ちょうど同じおおきさになったときは、チーズはちっぽけな、ちっぽけなかけらになっていました。そして、「さあ、これでいいでしょう。さようなら。」というと、キツネはさっさと、いってしまいました。

 

 よくばりをいましめる話で、形は違え、どこの国でもありそうな話。


モイラの水・・シチリア

2022年10月03日 | 昔話(ヨーロッパ)

     シチリアのメルヘン/シルヴィア・シュトゥダー=フランギニーノ・カンパーニャ・編 あべ ゆり・訳/花風社/1999年

 

 王さまが大事にしていた一本の果物の木が丸裸になっていました。王さまが三人の王子の意見を求めると、一番上の兄が見張りに立つことに。

 夜になり庭に腰を下ろした王子は、眠気に襲われ、目覚めたときにはもう日は高く、別の木がまた一本、丸裸になっていました。二番目の王子が見張りに立ったときも同様でした。

 つぎの末の王子は、腰を下ろさず、庭の中を歩き回って見張っていました。夜も更けたころ、巨人の大きな腕があらわれ果物をつかみ取ったとき、王子は、剣を抜き、大きな腕を切り落としました。姿を消した巨人の血のあとをおいかけると、ある井戸のふちまで つづいていました。

 翌日、巨人を退治するため、三人の王子は、長い縄を一本、それから小さな鐘をひとつ用意すると井戸へ出かけます。深い井戸を見た上の二人の王子が尻込みしたので、末の王子が体に縄を結びつけ井戸の中へおりていきました。深い深い井戸の底につくと、そこにはすばらしい庭園がひろがっていて、三人の世にも美しいおとめが立っていました。むすめたちに案内されて巨人が寝息を立てているところに忍び寄った王子は、ほんのひと振りで頭を切り落としてしまいました。

 三人のむすめは、王家の血をひいていました。この井戸からむすめが引き上げられますが、昔話の定番通り、末の王子は井戸の底へ置き去りになります。末の王子はとりあえず巨人の館を探検しますが、ここで一頭の馬に合います。

 一方、王さまは末の王子が戻ってこないことを悲しみ、昼夜嘆き続けたので目が見えなくなってしまいます。お医者が言うことには「モイラの水」で目を洗うと、ふたたび光が見えるというのですが、水のある場所がわからず、ふたりの兄が水を探すにでかけます。

 さて末の王子は、馬から、王さまが目が見えなくなったこと、モイラの水は、この馬の姉で女神モイラのところにあることを聞き、モイラの女神のところへ出かけます。そこまでいくため、勢いよく開いたり閉まったりする扉、大きなはさみがちょきんちょきんと刃を鳴らしているところ、二頭のライオンの間をすり抜ける必要がありました。

 馬の指示通り、この三つの関門をとおりぬけると、噴水のある美しい庭園にたどりつきます。小瓶を取り出し噴水の下に立て、ザクロの実を三つ摘み取った王子が宮殿のなかにはいると、女神モイラが七枚のベールに包まれて眠っていました。そのうつくしさに、思わずくちづけをしてしまいます。そのときなぜか突然いてもたってもいられなくなった王子は、ベールと小瓶をつかむと馬にまたがり、宮殿から走りだします。

 目を覚ました女神は、二頭のライオンと王子を追いかけました。ここからおなじみの逃走がはじまり、王子がザクロの実を投げると、血の河、イバラで覆われた山、激しく燃える山があらわれます。二頭のライオンは燃える山で焼け死んでしまいます。

 このあと、「モイラの水」を探していた上の兄たちとあい、せっかく探した秘薬を兄たちに渡してしまいます。それというのも、馬がそうするよう言ったのです。

 王さまの眼が治ったころ、馬は魔法で大勢の従者たちをつくりだし、王子とともに父親の王国へ向かいます。

 ここでも兄たちとあい、捕らわれますが、馬とともに、牢屋に入ると、どうしてもというので馬の体をナイフで切り裂きます。すると、突然ひとりの麗しい若者があらわれました。若者は女神モイラの弟で、魔法をかけられ馬に姿を変えていたのです。城門までたどりついたふたりは、魔法の力で軍隊を手に入れると、街に猛攻撃をかけました。臆病な兄たちは、すぐにひれ伏し許しをこいます。

 ようやく目が見えるようになった王さまと再会した末の王子が喜びにひたっていたとき、どこからともなく美しい女性が現れました。女神モイラでした。そして、ベールをとり、くちびるまでうばった末の王子が、自分の夫、偉大なる王となるものと、宣言し、末の王子は、女神の国を治めることになりました。

 まだ末のむすめがいました。(いつのまにか王女になっています)。この王女は、女神モイラの弟の妻となり、王さまの国を継ぐことになりました。

 

 端折りましたが、だいぶ長い話。三人の王子、三人の王女、三つの難関と、まさに昔話のパターンです。

 「いやはや、なんともうらやましいかぎりのお話ですね」と、結びます。


かじ屋と妖精たち

2022年05月24日 | 昔話(ヨーロッパ)

      かじ屋と妖精たち/イギリスの昔話/脇朋子・編訳/岩波少年文庫/2020年

 

 ニールは、母親を早く失くし、アラスデア・マクイーチャンというかじ屋の父親と二人暮らし。

 父親は、息子が一人前になるまでは、よくよくきをつけるよう知り合いから忠告を受けていました。ニールが、いかにも妖精たちがさらっていきそうな若者だったのです。妖精たちは、気に入った人間を見つけると、自分たちの光の国へ連れていき、死ぬまで躍らせるのだと言われていました。

 アラスデアは、妖精たちの魔力を遠ざけるため、夜には必ず小屋の戸口にナナカマドの枝をかけるようにしていました。

 ある日、父親はどうしても一晩、留守にしなければならなくなり、夜には、かならず戸口にナナカマドの枝をかけておくようにニールにいい、出かけます。

 アラスデアがかえってくるとニールは、家の掃除はしていないし、家畜の世話もせず、ベッドに横になっていました。身体はやせこけていて弱弱しく、肌は黄色く、しわだらけ。何日かたっても息子の様子はそのままで、食欲だけは底なしになり、朝から晩まで食べ物を欲しがってばかりいた。

 困り果てているアラスデアのところへ、ある日、物知りで知恵があることで有名な名高い老人がたずねてきました。老人は、息子は取りかえ子といい、それを確かめるために、あるかぎりの卵の殻に水を入れ、取りかえ子のよく見えるところに並べるようにいいます。息子だとおもっていた何者かは、それを見ると「生まれてこのかた八百年、こんなへんてこりんなことには、ついぞおめにかかったことがないわい!」と、金切り声を張り上げました。

 アラスデアの話を聞いた老人は、「そいつが寝ているベッドのすぐ前で、火を燃やし、なんで火を燃やすのかと聞かれたら、すぐに、そいつをつかんで、火の真ん中かにほりこめば、そいつは屋根からとびだしていくじゃろう」と、いいます。

 アラスデアが、老人のいうことを実行すると、取りかえ子は、悲鳴をあげ、屋根から飛び出していきます。

 それから、アラスデアは息子を連れ戻すため、老人の言う通り、満月の夜に、草の生い茂った丘にでかけます。満月の夜だけ開く扉から、聖書と短剣、オンドリをかかえて、妖精が歌ったり踊ったりする場に、踏み込みます。

 剣を敷居のうえに突き刺すと、妖精は人間の手で鍛えられた鋼鉄にはさわれず、塚の扉は閉まりません。聖書は、魔法よけになり、オンドリのなきごえは妖精の楽しみの終わりを告げるラッパのようなものでした。

 親子が妖精の国をでたとき、妖精は息子が声を失う呪いをかけました。ニールは、かじ屋の仕事を、これまでと同じように手伝いをしましたが、妖精の呪いで、一言も口をきけなくなります。

 やがて、息子が救い出されてから、一年と一日がたったとき、アラスデアは、新しい諸刃の剣を作る仕事にかかっていました。父親が刃の形を整える仕事にかかろうとしたとき、ニールの頭に、妖精の国ですごした日々がよみがえりました。妖精のかじ屋が、まぶしく輝く剣をどんなふうに仕上げていたか、技と呪文との両方を駆使して、どんなふうに刃を鍛えていたか、思いだしたのでした。ニールが剣の仕上げを自分の力で鍛えると、「この剣は、持ち主を、けっして裏切らないよ」と、一年と一日ぶりに声をはっしました。この時を最後に、妖精の国ですごした記憶は、すべて消えてしまいます。その後、ニールは、氏族で一番のかじ屋となりました。

 

 父親と息子がでてくると、ほとんどが息子が主役になりますが、このように父親が活躍する昔話には めったに、お目にかかりません。こんな話もあるのだというのを再認識しました。


ボガードとお百姓さん・・イギリス

2022年04月02日 | 昔話(ヨーロッパ)

     むかしばなし イギリスの旅/アイリーン・コールウエル・再話 アンソニー・コルバート・絵 室の会・訳/新読書社/1985年

 

 怪物との知恵比べですが、突飛な知恵比べでないので、小さい子でも楽しめる昔話です。

 ずんぐりして、けむくらじゃらで、そのうえ、腕の長さがお百姓さんの倍もある怪物ボガ-ドが、お百姓にむかって「出ていけ!ここはおれの土地なんだぞ」と、怒鳴りました。ところがこの土地は、最近お百姓さんが買ったものでした。

 お百姓さんは、強そうな怪物がおそろしくなりましたが、せっかく手に入れた土地を諦めることもできません。そこで取引をもちかけます。畑でとれた作物を二人で分けることにし、地面の上に生えているものか、下にあるところを選ぶようにいいます。ボガードが上をえらんだので、お百姓はその土地にジャガイモを植えました。とりいれどきがくるとボガードが手にしたのは、しなびた茎と葉っぱばかりでした。

 ボガードが二年目に選んだのは下の方でした。お百姓は大麦を植えたので、ボガードが手に入れたのは、根っこと切り株でした。

 こんどは小麦をまき、畑にできたものを、めいめいで刈り取って、それぞれが自分の刈った分をとることにします。

 ボガードのうではながく、このままでは小麦の大部分が持っていかれると考えたお百姓さんは、かじ屋のところに相談にいき、細かい鉄の棒を何本もつくってもらい、その鉄棒を小麦の間のあちこちに、さしこんでおきました。

 やがて刈り入れがはじまりますが、ボガードは、お百姓さんがさしこんでいた鉄の棒をたたいてばかりいるので、鎌の歯がすぐこぼれてしまいます。鎌の歯を研ぐために、なんども手を休めなければならなかったボガードは、畑のすみっこをかっただけで、仕事をあきらめ、地面を踏みつけると、ぽっかりと穴があき、ボガードはそのなかにとびこんでしまいます。

 

 これまでイギリスの昔話にボガードという怪物はでてこなかったのですが・・。