語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年
王さまが、たいそうな金持ちの商人の財産をとりあげようと、手に入れてきたいものをいいだしました。
「ひとつはどんどんへっていくもの、二つめは、どんどんふえていくもの、三つめはへりもせずふえもしないもの、最後はへってもまたふえるもの」。
証文を書き、王さまの頼みごとをもとめるように手配し、八方手をつくしさがしますが、どうしても見あたりません。このままでは、財産は残らず王さまのものになると、すっかり気を落としてしまいました。商人が元気のないことを見た女房がわけを尋ねますが、商人はなにもいいません。女房がしつっこく尋ねると、とうとう商人はわけを話して聞かせました。話を聞くなり女房は、「そんなものだったら、あたしがお嫁にきたとき里からもってきたわよ。いまもちゃんとしまってあるわ」といい、「城にいって、おもとめになった四つのものは、女房が持っています。」というように商人にいいました。
王さまは、女房をよぼうとしますが、女房は、信用のおける召使をよこし、召使からお妃、お妃から王さまに四つのものをわたそうとします。使いの者からそれを聞いた王さまは、それに耳を貸さず、また使いをだしました。同じことを四度目繰り返すと、商人の女房は、お盆に、牛乳のはいった器を一つ、ヒヨコ豆を一粒、ヤハズエンドウ豆を一粒、草を一本のせて宮廷に出かけました。
こたえは、器に入ったものかと思うと・・。商人の女房のいうことには!
へりつづけるものは、寿命
ふえつづけるものは、人間の欲望
へりもせずふえもしないものは、人の運命
へってもまたふえるものは自然
それでは、器に入ったものの意味は?
「あなたにおつかえするものたちは、ロバか馬のいずれかでございます。大店の女房を人前によびだすことになっても、それをとめようとしないのは、畜生でございます。だからロバや馬が大好きなものを、こうして持ってまいったのです。それから王さま、あなたがご自分を子どもであると思いなら、その牛乳をお飲みくださいませ。もしわたしたちの王さまであるとおっしゃるなら、なにももうしあげることはございません」