徳島のむかし話/徳島県教育会編/日本標準/1978年
「むかしの子どもも、今のこどものように、親の言うことをあまり聞かなかったようじゃ」と、はじまり、「夕飯を食べなくていい。外で立っておれ。てんぐはんにさらわれたほうがよいわい。」と外へ出された六助。
泣き声が聞こえなくなって、もうなかへいれてやろうかと、雨戸をあけて、「六助、六助。」とよんだが、どこにもいない。近所の人たちにも来てもらいあちこちさがしまわったが、とうとうどこにも見つからなかった。
それから二十年たっても、五平さん夫婦は五つの年にいなくなった六助のことがわすれることができん。ところが、六助がやってきて「ただいまもどりました。」という。五平さん夫婦はびっくりしてたが、よくよく見ると、子どものときの六助とおんなじものがある。
六助が立派な若者になってもどってきたので、夫婦は夢を見ているようじゃった。「おまえ、いったいどこで、何をしてくらしておったんじゃ。」と聞くと、「ほれはまたあとで言います。」という。そして、六助は、三日後、「今晩わたしの友だちが二十人来るけん、ごちそうを廿人分作ってください。友だちとお別れの会をするのです。お別れの会がおわったら、なんでも話します。ただ、友だちが来ても部屋をぜったいにのぞかないようにしてください。のぞいたらまたもとのところへもどりますから。」という。
のぞくなといわれると、次にくるのは、のぞくこと。ちょっとみるくらいならかまわんじゃろうと、足あとを立てないようにそっとざしきの障子へあなをあけ、のぞいてみると・・・。
またてんぐのところにもどることになった六助に、五平夫婦は、年に一度でいいから、帰ってくれと頼んだ。それ以来、お盆の十六日になると、五平夫婦は、いっしょうけんめいご馳走をこしらえて座敷に並べ、てんぐになったむすこのかえりをまった。夜が更けると、てんぐになったむすこがどこからともなくもどってきて、両親と話をしたという。
五平夫婦がなくなっても、このあたりではお盆がすんだ十六日に、ご馳走をこしらえ、てんぐさんがくるのをまつ習慣ができてしもうたと。
年に一度会う、七夕の織姫と彦星を思わせます。