日本の民話4 民衆の英雄/瀬川拓男・松谷みよ子・編著/角川書店/1973年初版
伝説とありますが、川の氾濫に悩まされた村の人のため泣きながらあっというまに堰を作ってしまった男の話。
阿蘇山のふもとのひのき村というところに、恐ろしく力の強い男が一人。
あるとき、父親が一日中何もせず横になっている息子を、きのことりにいかせると、きのこだけをとるのは面倒ときのこのはえている木を引き抜き、担いで帰ったことから「なば」(きのこ)と呼ばれるようになります。
ある日、”なば”が山で仕事をしている男たちに弁当を届ける途中で腹が減ってしまい、途中で弁当を全部食べてしまいます。
腹が減っていた村人たちは、寄ってたかって”なば”をを殴り、次々に責め立てる。するとなばは「おらが悪かった。みんなの分さ働くばい」と大泣きながら、何十人掛かっても下ろせなかった大松を、軽々と担いで村まで運んでしまいます。
ある年のこと、長雨が降り続き、町の川があふれて堰がくずれ、誰もかれも大弱り。
竹で堰をつくるため”なば”は、町中の鉈を借りて竹を切りにいこうとするが、鉈を貸してくれる者がいない。怒った”なば”が、素手で竹を引き抜き、束ねた竹をひきづりながら町の真ん中をガラガラ竹の音を響かせ通っていくと、店の戸は打ち壊され、品物はひっくり返ってどろまみれ。
遅れて堰をつくるところにくると、集まっている人々が「ぬしゃまたあそんどったじゃろ」「おそいおそい」と口々にののしります。
かっとした”なば”は、「そぎゃんぶつぶついうな。どけどけおらがしてやるけん」とまたたくまに、堰をつくってしまいます。
仕事が終わると”なば”は何も言わずに山へ帰ってしまいます。
町の人はいったそうな。
「あいつはたいしたもんじゃ。泣きながら堰おば作ってしまったばい」
それ以来「なばの泣き堰」といって、知らぬ者がないくらい有名になります。
百人力といいながら、泣くと力がでるというどこかユーモラスな男。
怪力が人々の暮らしの助けになるというのは、どこかほっとする話でしょうか。はじめから出番があるのではなく、人々が困っているところにタイミングよくあらわれます。