午前6時50分、曇天、気温16度。今朝は風も加わり、かなり荒れた天気になってしまった。雲は権兵衛山やアラスカの森にまで降りているようで、小入笠へ延びている尾根を境にして、その先はまったくの空白となっている。
しかし、そう言っている間にもどうやらその尾根でも収まらないのか、雨混じりの霧が第4牧区にまで流れ込みだした。きょうは一日こんな天気が続くだろう。風の音とともに素っ頓狂なカラスの声がした。
昨日独り言ちた通り昼飯を済ませて、雨具を身に付け、近くの林へキノコの様子を見にいってみた。そのついでと言うのか、こっちの方は仕事になるが、この春に新しく電気牧柵と有刺鉄線を併用して新しく区画した第2牧区の牧柵の状況も点検した。
牛たちの下牧まで早くも半月を切ってしまったが、第4牧区の牧草次第では、この牧区の草が必要になるかも知れないからだ。ここならまだ全頭が食べるに足る充分な草がある、心配ない。
牧柵に沿って急な草地を下っていく。案じていたよりかそれほど鹿の被害がなかった牧柵を頼もしく、そして安堵して眺める。疎林を通して聞こえてくる沢音も快く耳に響く。まるで、牧柵に見てくれとせがまれたかのように途中で止めることができず、誘われるようにして沢を渡り湿地帯を抜け、落葉松の林を急登し、とうとう古い牧柵と交差する所まで行った。
牧柵の修理の必要な個所は3箇所だった。沢まで戻り、近くの岩に腰をおろした。その美しい水の流れと水音と、そこを渡って上方へと続く牧柵を同じように美しいと思い、またしてもしばらく眺めた。ささやかな自己満足と、4か月前のことが当時と変わらないままに甦ってきた。
牧場の中の風景はどこへ行ってもそういう個人的な記憶が必ず重なり、自分にしか見えない風景を見ているのだと思っている。それが、牧守だけに与えられた報酬だと。
キノコはまだ少し早かったのか、ようやく顔を覗かせたばかりだったから、そのままにしてきた。今週末にもう一度行ってみるつもりだが、それにしても、もうかつてのように多くは望めないだろう。
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本日はこの辺で。