調査員の「目」

 日常の何気ない雑感とつれづれ日記。

さらば財務省!(高橋洋一著/講談社)

2008-03-20 | 書評系
 昨日会社帰りに本屋に立ち寄って、目に留まった本。

 ■さらば財務省!(高橋洋一著/講談社)税込1785円
著者:高橋洋一氏。1955年東京生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。 1980年、大蔵省(現、財務省)入省。理財局資金企画課長、プリンストン大学客員研究員、国土交通省国土計画局特別調整課長、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)などを歴任したあと、2006年から内閣参事官。早稲田大学政経学部非常勤講師を兼務。2007年に財務省などが隠す国民の富「埋蔵金」を暴露し、一躍、脚光を浴びる。著書には「財投改革の経済学(東洋経済新報社)」がある。
~目次~
まえがき
序 章 安倍総理辞任の真相
第1章 財務省が隠した爆弾
第2章 秘密のアジト
第3章 郵政民営化の全内幕
第4章 小泉政権の舞台裏
第5章 埋蔵金の全貌
第6章 政治家 vs.官僚
第7章 消えた年金の真実
終章 改革をやめた日本はどうなる
(以上、282ページ)

 意図せずして与謝野前官房長官のみならず自らの出身官庁である財務省をも敵にまわしてしまった内閣府参事官・高橋洋一氏の著書。以前、同様のタイトルで「さらば外務省!(天木直人著/講談社)」という本が出たが、高橋氏の本は単なる暴露本や恨み・つらみが見え隠れするものではなく、氏の「理系官僚としての活動記録」とでも言った方が良いような内容になっている。

 「中学生のときに、大学レベルの数学が理解できた」という氏は東大理学部数学科・経済学部経済学科を卒業、学者・研究者を志望していたにもかかわらず、ひょんなことから「何となくなりゆきで(!)、大蔵省に入ることに決めた」と淡々と振り返る。そんな数学的、論理的な問題解明能力に秀でた理系アタマの氏は「問題さえ解ければ、役所はどう思うか、どのような影響を与えるか、などということにはまるで頭が回らなかった。その点はうかつだったと思う。」とも述べ、一時は大蔵省”中興の祖”とまで持ち上げられながらも、今になっては財務省をはじめとした官僚・一部政治家から疎まれ、最終的に退官せざるを得なくなった遠因を自らの理系的なシンプル性格にあることを認めるかのような真摯な文章は本書を読むに値すると感じられた。

 本書を読み進めていくと、氏が携わった小泉改革や安倍政権での公務員制度改革での舞台裏が語られているが、読んでいて嫌悪感を感じざるを得ないのが財務官僚の権謀術数とともに官僚のリーク情報に踊らされるマスコミ(いやマスゴミだろう)の態度だ(結果的に大本営発表のごとく我々国民も何が事実なのか分からなくなっている)。ほかにも意外なのは「東大法学部卒の官僚は計数には弱い。知識や理論のほとんどは知り合いの学者から仕入れている。」という記述や「日本は財政危機ではないと知る財務省」などと言った見出しもあって非常に興味深く読むことができた。

 旧帝国陸軍や海軍でも陸軍大学校や海軍大学校での成績でその後の出世がほぼ決まっていて、頭は良かったかもしれないが結果的に国を敗戦に至らしめてしまったように、高度成長期はうまくいっていた東大法学部を頂点とする官僚システム(過去の成功体験)もこのままいったらまた国を破滅に至らしめるような気がするのは私だけだろうか。国民の側にも東大法学部を首席、2位で卒業して現役で司法試験に受かって国家公務員一種試験に1位、2位で受かって財務省に入るような人たちに任せておけば大丈夫というような無謬性神話みたいなものが潜在的にあると思うが、本書を読めば残念ながらそれが間違っていることがよく分かる。

 氏が序章の「誰も気づかない霞ヶ関の失策」の中で「(「変動利付国債」に関して)金融機関の含み損は5兆円近くにも上る」と指摘しているが、今後どのような問題に発展していくのかこちらも注意が必要かもしれない。

 いずれにせよ、高橋氏には大学教授の仕事のみならず本の執筆や論文の寄稿などにより、その数学的専門能力の高さを日本のためにさらに活かして頂きたい。