靴下にはそっとオレンジを忍ばせて

南米出身の夫とアラスカで二男三女を育てる日々、書き留めておきたいこと。

あなたを信じているという姿を見せ続けること

2014-01-26 11:29:26 | 子育てノート
長男が、社会科の時間に、iPhoneを取り上げられた。

中学校には、用いてはいけない時に使っていると、「取り上げられる」というルールがある。

長男曰く、「落としてしまったので、拾い、そのままスクリーンの点滅を眺めていた。操作をしていたわけでもなかったのに」と悔しそうに。

学年初めの九月にも、同じ社会科のクラスで取り上げられたという「前科」があるので、二回目からは、本人ではなく、親がオフィスに取りに行かなくてはならない。

授業中ゲームで遊んでたんじゃないの? と一瞬思いつつも、言葉を呑みこみ。

「疑わしい行為」を避ける。「疑わしい行為」から嫌疑をかけられ、思わぬ罪を着せられるということ、社会に出てからもあるからね、そんな話をする。

体験から、嘘をついているかの検証が難しい場合は、黙って子供の言葉を信じる姿を見せるのがいいと思う。どうせ分からないのだし、「ホントは遊んでたんじゃないのお?」と言葉をかけられても、どちらにせよ自分は信じられてないんだなあという気持ちを持つだけ。

といって子供が嘘をついている時の様子というのはだいたい分かるので、今回は多分本当なのだろう。



運転しながらそんなことを思っていると、昔出会った親子のことを思い出した。

私は教える側にいて、クラスには、学生や社会人に混ざって高校生もいた。セメスターも半ばを過ぎたある日、その高校生のお母さんから電話があった。「息子のクラスでの様子はどうでしょうか?」 実はその男の子、初めの数クラス出席しただけで、その後の二ヶ月程顔を見ることがなかった。そう告げると、絶句するお母さん。「週二日のクラスの度、一クラスも欠かすことなく、建物の前に車で送り迎えしてきたんです」と。

大学の授業というのは、特にゼミなどのより専門的な課題に教授と共に密に関わるようになる以前の一般教養レベルならば、小中高の義務教育(こちらは高校も義務)のように、わざわざ休んだ学生に連絡をとるということはしない。途中来なくなったとしても、大人なのだし、それぞれ事情があるのだろうなという程にしか捉えない。

それでも彼は高校生だし、もう少し気を遣った方がよかったかなとも思いつつ、電話を切り。するとしばらくしてもう一度かかってくる、一度三人で会ってもらえますかと。


授業が終わり、約束の時間に、その日またもや顔を出すことのなかった息子さんと共に、教室に現れるお母さん。ニコニコと「息子は頑張っていますでしょうか?」と。いつものように迎えに来て、何気なく立ち寄ったという雰囲気。隣の息子さんの、もう何とも言えない表情。二人を見比べ、ちょっと私の頭の中混乱しながらも、座りましょうかと勧め、出席簿を見せ説明する。

えっ! どういうことでしょうか?!と驚くお母さん。呆然とした顔で、息子さんの顔を見つめている。黙ってうつむく息子さん。

それから、その時点での成績、これから休んだ分を取り戻すことは可能か、それにはどれほどの課題をこなし、どれほどの点数をテストやクイズで取り続ける必要があるかなど、具体的に話し合う。

帰り際、息子さんに先に教室を出て行かせ、「ありがとうございます」とお母さん。ウインクして、微笑み。

その日以来、息子君、見違えるように真面目に出席、とてつもない量のエキストラの課題もこなし、無事セメスターをパスした。最後の授業で、「よく頑張ったねえ」と声をかけると、本当に嬉しそうに頷いた。



当時、長男が三歳で長女が一歳とまだ子育て始めたばかりだった私、年齢もちょうどお母さんと息子君の間くらい。一連の流れが、全くよく分からなかった。

なぜお母さんは、電話で話したにも関わらず、わざわざ演技して知らなかったふりをしたのだろう?

どうして息子君は、その日以来、がらりと態度を変え、あれほど頑張れたのだろう?



今、いい親子だったなあと思う。そして思春期の子供達を前に、あのお母さんの気持ちがより分かる。

あなたを信じているという姿を、見せ続けること。

それは、そんなものが「本当のあなた」じゃないのよ、

そう教え続けることでもあるのかもしれない。

そんな眼差しに触れ、はっと目が覚める瞬間。




あれから十年以上たち。

あのお母さんと息子君の笑顔を想いつつ。


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4 コメント

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Unknown (mirumiru)
2014-01-28 15:04:55
咄嗟のとき、頭ではわかっていても言ってはならない一言が出てしまうことが度々。そういうときは、感情が先にでて、疑いを通り越して怒りになっています。
まだまだ修行不足の母ですが、ここに紹介していただいたママさんのエピソード、今後役に立ちそうです。冷静でいる、信じる、こういう母の姿をみて、子供たちは学んでいくのですね。
いつもありがとうございます。
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mirumiruさんへ、コメントありがとうございます! (マチカ)
2014-01-29 10:56:24
本当に良く分かります。「言ってはならない一言」何度発してきたか分かりません。そして今でも、特に疲れていたり、予定が立て込んで時間に追われている時、同時にいくつものことが起こった時など、要注意です。自分で警笛を鳴らすよう心がけていますが、すっと隙をついて物事が起こったりするんですよね。修行な毎日です。

こうして後からようやく少し意味が分かるようになるといった出来事、ありますね。あのお母さんのウインクと微笑みに、大いに励まされます。

本当に、子供というのは身近な大人から学びますね。伝えていきたいと感じることを、日常に「体現」できたら、そう思っています。

こちらこそ、温かく気づかされるコメント、いつもありがとうございます。残りの週、どうぞお楽しみくださいね。
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Unknown (アメ)
2014-03-17 23:06:20
マチカさん、こんばんは。
少し前の記事に今更コメントをしてすみません。

先日息子がちょっとしたトラブルを起こし、息子の言い分を聞いているうちに、嘘をついているのかいないのかわからなくなり、母親なのに…と、とても情けなくなってしました。相手がいるトラブルではないので息子の話のみの判断でした。たぶん本人の言い分通り紛らわしい行動を取っただけだと思うのですが、何となく信じきれない自分自身にモヤモヤとしていました。その時にふと頭に浮かんだのがこちらの記事でした。


>>嘘をついているかの検証が難しい場合は、黙って子供の言葉を信じる姿を見せるのがいい


初めて読んだときに、いつかこういう場面に遭遇した時はそうしよう!と思ったのですが、そのいつかがまさかもうくるとは…(笑)そして実践できずに疑いまくり…(笑)何事も近道はないんだな、と身をもって実感しました。たくさん経験されたからこそたどり着いた答えを、いつもシェアして下さりありがとうございます。育児の励みになります。長々と失礼しました。
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アメさんへ、コメントありがとうございます! (マチカ)
2014-03-20 06:58:31
アメさん、お気持ち私なりにとてもよく分かります。私自身、「嘘をついているのかいないのかわからなくなり」ということ、胸張って言うのも何ですが、ホント今まで何度もありました。そしてこれからもあるでしょう。(笑)

そして、「疑う」ことも、その後の予防やその子を導いていくためには、必要である場合もあるとも思います。ただ、嘘か本当か分からない状況で、「疑っているという様子を見せない」よう心がけるようになりました。

何か行動する場合、人には様々な意図や思いが混ざっていて、「真っ白」ということである方が、珍しいのではないかと思います。だからこそ、傍にいる者として、どこにフォーカスしていくのか。白い部分を信じる姿勢を見せることで、こちらだよと示していけたら、そんなように感じています。

アメさんご自身が行き先を見出す上で、こんな風に、少しでも何らかの参考になれること、とても光栄で、嬉しいです。こちらの方こそ、育児の励みになりますよ。

一つ一つ悩んで、少しずつ踏み出す先を見出し。子育てに向き合う者同士、どうぞこれからもよろしくお願いします。

シェアしてくださって、ありがとうございます! 残りの週も良い日々をお過ごしくださいね。日本の春を想いつつ、斑雪のアンカレッジより。
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