靴下にはそっとオレンジを忍ばせて

南米出身の夫とアラスカで二男三女を育てる日々、書き留めておきたいこと。

子育てノート、バランス

2013-03-17 03:00:01 | 子育てノート
大切なのは「バランス」

 無条件に愛することが大切です、いっぱい抱きしめてあげましょう、信じてあげましょう、少々のことは目をつぶって大らかに、のびのびと育てましょう! そんな言葉を育児書やどこかで聞いては、その子のしたい放題させ、否定的な言葉を一切使わず、「いいのよいいのよ」とニコニコ微笑み続ける母になってみる。

 しばらくして、小さな時にしっかり躾けておかなければ、後から取り返しのつかないことになります、最近叱られたことのない子供というのが増えてきて、そんな子は何かあるとすぐに挫折してしまうのです、何をしていいのかよくないのかの境界を、よく分かっていない子が増え集団生活が成り立ちません! そんな世間の声を聞くと、子供達の日常生活の逐一まで口を出し、頭ごなしに叱り飛ばす母に変わる。

 振り返ると、あちらに揺れ、こちらに揺れ、そう何度も繰り返してきました。特に子育てを始めたばかりの頃は、周りに溢れる情報に翻弄され、その「揺れ」も半端ではなかったかもしれません。ようやく揺れ幅も少なく、丁度よい加減というのはここら辺かなと感じ始めたのは、随分と後になってから、四人目五人目の育児が始まってからといっても過言ではありません。

 今ならば、たくさん抱きしめ、のびのびとさせ、無条件に愛しつつ、その子の心の底の部分は信じながらも、心の底以外は大丈夫と信じ込むことなく、境界から向こうへは行かないよう躾けていく、それら全てが必要で、それらの「バランス」こそが大切なのだと言えます。無条件に愛するだけでも、信じるだけでも、いっぱい抱きしめるだけでも、細かいことは咎めず大らかにのびのびとさせるだけでも、厳しく叱って躾けるだけでも、十分ではないのです。どの方法が正しい正しくないというのではなく、全て正しさの一面であり、そしてあくまでも一面でしかありません。

 大切なのは、「バランス」です。そう分かったからといって、実際に実行できているかといえば、それはまた別の話です。日々子育てをしていれば、次々と問題も生まれますし、失敗の繰り返しです。それでも、「何らかのメソッド」に頼るよりも、巷に溢れる様々なメソッドを参考にしつつ、その時のその子自身に向き合い、それらのメソッドの間で最適な「バランス」をとっていこうとすることで、子供達に対する姿勢も随分と違ってくると感じています。

 一つの姿勢を、画一的にどんな子にもどんな状況にもただ当てはめるのではなく、その子がおかれた状況や、その子の性質や性格、その子自身をよく見、その時々によって適切な姿勢をバランスよく使い分けることです。

 たくさん抱っこしてやりながらも、その子がお友達を叩いたり、物をむやみに壊すのなら戒める必要がありますし、叱りながらも、無条件に愛しゆったりとのびのびさせる必要もあります。

 言葉にせずとも表情や声のニュアンスだけで、何をしたらいいかを感じ取る子もいれば、びしっと強く言われて初めて気がつく子もいます。前者の子には、厳しく叱る必要もないでしょうし、後者の子には、ゆったりと笑っているだけでは、境界を次から次へと越えていってしまいます。そして同じ子供でも、時と場合によって、違った対応が必要になることもあるでしょう。 

 植物に喩えると、また分かりやすいかもしれません。植物の成長には、光・水・土が必要です。光ばかり当てていても、水がなければ枯れてしまい、光や水があっても、土の栄養分が必要です。またそれらの要素を与え過ぎても与えなさ過ぎても、植物は健やかに育つということがありません。日差しの強い日は、直射日光を避け、日陰に移す必要もあります。たっぷりと水が必要の日もあれば、少しだけの水でよかったり、全く必要の無い日もあるでしょう。土への肥料なども、多過ぎず少な過ぎずと調整する必要があります。植物を成長させるためには、その時々の状態をよく観察し、光、水、土をバランスよく調整していく必要があります。

 ヒトは植物よりも複雑です。感情、感性、思考が絡み合い、日々変化していきます。ですからそのバランス加減も、植物のようにシンプルにとはいかないかもしれません。それでも、ヒトには言葉や仕草や動作などの表現の術がありますから、黙っている植物よりも、より分かりやすいともいえます。

 まずは、その子自身に向き合い、表に現れてくるもの、そしてその奥にある心や気持ち、そういったものをよく観察し、その子に今何が必要かを感じ取ることです。そうして、あちらに揺れこちらに揺れと繰り返すうちに、以前よりは今、今よりは明日と、徐々に少しずつでも、その子により最適な加減というのが見えてくるはずです。



子育てに最適なバランス

 子育てで心がけたい「バランス」を、的確にすっきりと表していると感じるのが、「利き手で抱き、もう一方の手で押す」という、「両手のバランス」です。両手で抱え込むのでもなく、両手で突き放すのでもなく、一見相反して見える動きを同時にすること、「抱きつつ押す」というバランスです。

 両手で抱え込んでしまっては、子供は成長することができません。歩き始めた子供を抱きかかえていたら、歩く力が育たないようにです。歩かせるには一歩一歩引き下がり、子供との距離を広げていく必要があります。二歩歩いたのなら三歩、三歩歩いたなら四歩、そう少しずつ後ろに下がっていくこと、それが「もう一歩の手で押す」ということです。
また両手で押しやり突き放してしまっても、すぐに倒れてしまいます。幼児は、周りの人々の喜びに満ちた笑顔に答えるように、一つ一つのことをできるようになっていきます。歩いた先に待っている笑顔や歓声、抱きしめられる腕の温もり、それらに励まされることで一歩一歩足を踏み出していくのです。どんな状況でも、例え押しやりながらも、常にそんな温かい眼差しで見守ること、それが「利き手で抱く」ということです。

 そして覚えておきたい重要なことは、この「抱く」と「押しやる」が、全く同じ力加減ではないということ、押しやるよりも抱くことに常により重きをおいていくということです。利き手の方がもう片方の手よりも強く力が入るのです。叱った後は思いっきり抱きしめてやり、間違いを起こしても必ず良くなっていくと信じ、「こんなことしてたら駄目じゃない!」と諭しながらも、欠点も弱さも含めその子を受け入れ、「何てことしたの!」と叱り戒めつつも、心の底で愛し続ける。子供はどんなに咎められ叱られたとしても、両手で突き放されているのか、利き手で抱かれているのかを感じ取るものです。

 普段の生活から親の愛情を十分に感じさせるのも大切です。抱きしめ、背中をさすり、膝に据わらせ、手をつないで歩き、冗談を言い共に笑い、愛情のこもった眼差しと声の調子で接し、そう常に温もりや愛情を示すことにより重きをおく。この力加減が子供を無理なく健やかに成長させるバランスだと感じています。

 私自身、常により「抱く」ことに力を入れると心がけることで、子供達との関係がスムーズになってきたと感じています。教えなければ、しっかり躾けなければ、将来のこの子のために、そう厳しく叱り、決め事を守らせ。この子のために、この子を愛しているから、それでもそうして元にあるはずだった愛も、いつしか境界を守らせることに必死になり奥深くへと隠れてしまい。「こうしなさい」「こうであるべき」、そんな頭ごなしで批判的な物言いばかりでは、子供の心は閉じ、こちらの声は届きません。そして子供はただ怖いから、怒られないためにいいなりとなり、主体性も育ちません。突き放しつつも利き手でしっかりと抱き、普段から愛情を感じさせるよう心がけることで、子供の扉は開き、こちらのアドバイスや要望も心に届きやすくなります。

 大地に根を張る力が「安心する力(安心場にたどり着く力)」だとすれば、成長する力は、地面の上に芽を出し、天目指し高く高く伸びていく力です。幹が一見スクスクと伸びているように見えたとしても、根がしっかりと張っていない木は、風が吹き荒れ嵐になれば、すぐに倒れてしまいます。利き手でしっかりと抱くこと、それが丈夫な根を育みます。そして、その利き手の動きに、もう片方の手とのバランスが加わることで、頑丈な幹が育つのです。利き手でしっかりと抱き、尚且つもう片方の手で押しやっていくこと、この一見矛盾して見える動きのバランス、それが、成長を育む鍵です。


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