教科書の科学に逆らうタンパク質の新しい役割
Defying textbook science, study finds new role for proteins
どんな生物学の入門書でもいいから開いてみよう。あなたが最初に学ぶことの1つは、我々のDNAにはタンパク質を作るための『指示(instructions)』が明確に記されているということである。
Scienceで1月2日に発表される研究結果は、そのような教科書のサイエンスに反抗する。研究が明らかにしたのは、タンパク質の基礎単位であるアミノ酸は設計図、つまりメッセンジャーRNA(mRNA)がなくても組み立てることができるということである。研究者チームは、Rqc2というタンパク質が、どのアミノ酸を加えるかを指定する事例を観察した。
「この驚くべき発見は、生物学についての我々の理解がどんなに不完全かを反映する」、ユタ大学生化学部のポストドクターで筆頭著者のPeter Shen博士は言う。
細胞を工場であると仮定すると、リボソームはタンパク質組立てライン上の機械である。リボソームはDNAという遺伝子コードにより決められた順序で、アミノ酸をタンパク質に結合していく。
もし何かが間違った方向に進んだ場合、リボソームは立ち往生するかもしれない。するとそこへ品質管理の作業員が呼び出される。混乱を片付けるためにリボソームは解体されて設計図であるmRNAは廃棄され、既に一部が作られたタンパク質はリサイクルされる。
しかし、今回の研究はその品質管理チームのメンバーの驚くべき役割を明らかにする。そのメンバーはRqc2と呼ばれ、酵母から人間まで保存されているタンパク質である。不完全なタンパク質がリサイクルされる前に、Rqc2はリボソームに20種類のアミノ酸のうちたった2種類、アラニンとスレオニンだけを加えさせるよう促す。そして2つはどんな順序でも良い。
『指示』を失ったにもかかわらず動き続けるクルマの自動組立てラインを考えてみよう。その組み立てラインはできることを適当に見つけて、ひたすら組み立て続ける: ホーン-ホイール-ホイール-ホーン-ホイール-ホイール-ホイール-ホイール-ホーン。
余計なホーンとホイールがたくさん取り付けられた出来損ないの車のように、アラニンとスレオニンの明らかにランダムな配列が組み込まれた省略タンパク質は一見して奇妙であり、おそらく正常に機能しないだろう。
しかし、この無意味な配列はおそらく、特異的な目的のために役立つ。そのコードは、破壊されなければならない不完全なタンパク質であることを合図しているのかもしれないし、またはリボソームが適切に動作しているかを確認するためのテストの一部である可能性がある。
これらのプロセスのどちらか(または両方とも)は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病のような神経変性疾患において不完全である可能性をエビデンスは示唆する。
研究者は活動中の品質管理機構を急速に冷凍(flash freeze)し、低温電子顕微鏡法という技術を微調整して視覚化した。新しいRNAシーケンシング技術により、Rqc2/リボソーム複合体には立ち往生したタンパク質にアミノ酸を加える能力があることが示された。理由はRcq2がtRNAも結合したからである。彼らが観察した特異的なtRNAは、アミノ酸のアラニンとスレオニンを運ぶtRNAだけだった。
研究の決め手は、立ち往生したタンパク質には多くのアラニンとスレオニンから成る鎖が加えられると認められた時である。
記事出典:
上記の記事は、ユタ大学健康科学によって提供される素材に基づく。
学術誌参照:
1.Rqc2pと60Sリボソーム・サブユニットは、mRNAから独立したアミノ酸の伸長を仲介する。
Science、2015;
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150101142314.htm
<コメント>
いわゆるセントラルドグマを完全に無視する「タンパク質がタンパク質を作る」という流れが明らかになったという記事です。
下図の黄色がRqc2タンパク質、ダークブルーと青緑がそれぞれtRNAです。緑色で表された作りかけのタンパク質に、中央の明るい点の位置でアミノ酸が付加されている様子です。