統合失調症は単一の疾患ではなく、遺伝子的に異なる多種多様な障害である
Schizophrenia not a single disease but multiple genetically distinct disorders
ワシントン大学の新しい研究によれば、統合失調症は単一の疾患ではなく、8つの遺伝子的に異なった障害であり、それぞれが独自の症状の組み合わせを持つ。
統合失調症のリスクのおよそ80パーセントは遺伝であることが知られている。科学者はその特定の遺伝子を特定しようと奮闘してきた。
今回の研究では4,000人以上の統合失調症患者に対する遺伝子の影響を新しいアプローチで分析した。それにより統合失調症を8種類に分類し、その原因となる異なった遺伝子集団を特定した。
「遺伝子は単独では機能しない」、C.ロバートCloninger医学博士は言う。
「それはちょうどオーケストラのように協力して働く。それらの機能について理解するためには、その相互作用を知らなければならない。」
精神医学と遺伝学のウォレス・レナール教授であるCloningerと彼の同僚は、統合失調症患者とそうでない人々のDNAの変異を、それぞれの患者における症状とマッチング(matching; 組み合わせ、照合)させた。
彼らは統合失調症4,200人と健康なコントロール群3,800人のゲノム内に存在する約70万箇所の一塩基多型(SNP)を分析し、それぞれの遺伝子変異(variations)が互いにどのように相互作用して疾患を生じるかについての情報を得た。
例えば、研究者はいくつかの幻覚または妄想の症状に対して異なる遺伝子の特徴にマッチさせ、特定の遺伝子変異群は相互作用して統合失調症の95パーセントの確実性(certainty)を生じさせることを証明した。
別のグループでは、解体した言動(disorganized speech and behavior)は、あるDNA変異の組み合わせ(SNPクラスター)と特に関連していた。このDNA変異の組み合わせは統合失調症の100パーセントのリスクをもたらした。
※訳者註: ここでいう100パーセントとは、そのSNPクラスターを持つ人は100パーセント統合失調者患者であるという意味
それぞれの遺伝子は統合失調症との関連は弱いかまたは一貫しないにもかかわらず、相互作用する遺伝子集団のグループは、約70~100パーセントという非常に高くかつ一貫した疾患リスクを生じる。この遺伝子変異群を持つ人々は、疾患を避けるのはほとんど不可能である。
研究者は全部で42の遺伝子変異クラスターを特定した。このクラスターは統合失調症のリスクを劇的に上昇させる。
「これまで科学者は、それぞれの遺伝子と統合失調症との間に関連を探していた」、ワシントン大学の精神医学教授、ドラガンSvrakic博士は説明する。
「ある研究が関連を特定しても、誰もそれを再現することができなかった。我々は遺伝子が独立して作用しないという考えを見落としていた。遺伝子たちは協力して働き、脳の構造と機能を損なって疾患に帰着する。」
Svrakicによれば、研究チームが遺伝子の変異と患者の症状をそれぞれグループに構成すると、DNA変異の特定のクラスターが共に作用して特定のタイプの症状を引き起こすことが観察できたという。
次に彼らは、患者を症状のタイプと重症度によって分類した。例えば幻覚または妄想の異なるタイプ、またはイニシアティブの欠如、系統的な思考の問題、感情と考えの間のつながりの不足などである。
その結果、それらの症状プロファイルは「8つの質的に異なる障害」を説明するものであり、根底にある遺伝子の状態に基づいていることが明らかになった。
学術誌参照:
1.統合失調症の隠れたリスク構造の発見: 3つの独立したGWASでの確認。
アメリカン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー、2014;
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140915083548.htm
<コメント>
統合失調症のリスクを上昇させる42のSNPクラスターを特定し、それらのクラスターを異なる症状タイプと関連付けることができたという記事です。
興味深かったので購入してとりあえず少しだけ読んでみました。42のSNPクラスターの中で最もリスクが高いのは「19_2」というSNPの組み合わせです。このSNPクラスターには9人の統合失調症患者が含まれますが、正常なコントロール群は0人でした。これがつまりリスク100パーセントということになります。42のクラスターは70パーセント以上ということなので、60パーセント台のSNPクラスターはまだ存在するということなのでしょう。
19_2に含まれる遺伝子は、アクチン結合タンパク質ARPC5L、ゴルジ装置関連タンパク質GOLGA1、リボソームタンパク質RPL35、細胞移動のRas経路を調節するSCAI、そしてWDR38でした。
19_2と関連付けられる症状の分類は「中度の進行、解体した陰性の統合失調症(Moderate process, disorganized negative schizophrenia)」。これが「8つの分類」の1つです。症状の表現型セットは51_38とされ、これは「ひどく解体しているか緊張病性の行動(Grossly disorganized or catatonic behavior)」と説明されています。
論文には19_2の実例が挙げられています。「彼にはまったく幻覚(hallucinations)がなかった」という表現があり、これがつまり51_38の特徴なのでしょう。