食事と炎症と癌の関連: 重要なファクターが発見される
Relationship between diet, inflammation and cancer: Key factor found
Children's Hospital Oakland Research Institute(CHORI)の研究チームは、スフィンゴ脂質として知られる脂質のカテゴリーが、食事と炎症、そして癌という3つの関係を結びつける重要な要素であるかもしれないことを発見した。
今週JCIでオンライン発表される論文でJulie Saba医学博士と彼女の研究チームは、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)というスフィンゴ脂質の代謝産物が、結腸の炎症と炎症性腸疾患(IBD)、そして炎症関連大腸癌に関与するというエビデンスを提供する。
S1Pは哺乳類食品(mammalian food product)に含まれ、ヒトの正常な細胞でも作られているが、それとは反対にスフィンガジエン(sphingadiene)と呼ばれる大豆または植物タイプのスフィンゴ脂質は、これらの病態から保護する可能性がある。
炎症と癌の関係は100年以上前から認識されてきた。この関係は特に結腸発癌において明らかであり、IBD患者は一般集団より大腸癌の罹患率が高い。発癌すなわち細胞の形質転換のプロセスにおいて、炎症がその最も早い段階に関与するというエビデンスが増えつつある。その段階で細胞は癌の特性の多くの面を獲得する。
国が工業化するにつれてIBDと大腸癌の罹患率が上がるという観察は、食事と栄養の変化が大腸炎と大腸炎関連大腸癌に関与することを示唆する。哺乳類食品等に含まれる生理活性(bioactive)スフィンゴ脂質は発癌において基本的な役割を果たし、その理由はプログラム細胞死経路とストレス応答、免疫と炎症を調節するその能力による。
スフィンゴ脂質の代謝の影響は特に大腸癌で密接な関係があるが、その理由は、腸と上皮細胞が食事のスフィンゴ脂質の分解によって産生される代謝産物にさらされるからである。中でも、哺乳類のスフィンゴ脂質の最終的な分解産物であるS1Pは細胞の成長と発癌を促進する炎症誘発性のシグナル脂質である。
悪性の形質転換と大腸癌が進行するにつれて遺伝子の変化が腸の組織で生じ、それにはS1Pを産生する酵素のスフィンゴシンキナーゼ(SPHK)の増加と、S1P分解を触媒する酵素であるS1Pリアーゼ(SPL)の減少が含まれる。これらの変化は腸粘膜でのS1Pの蓄積につながる。
S1P蓄積の炎症と発癌への影響を調べるため、研究者は腸組織でSPLを欠損するマウスを生み出した。彼らは化学物質により大腸炎関連大腸癌を誘発するモデルマウスを用いて、その応答の特徴を記述した。
その結果、コントロールマウスと比較して変異マウスはより多くの炎症を示し、腫瘍の発生率はより高かった。マウスと細胞培養実験の組合せを使用して、科学者はS1Pの下流にあるカスケードを特定した。それは最終的に2つの腫瘍抑制タンパク質、PTENとCYLDのサイレンシングにつながる。
S1Pが癌を促進するのとは対照的に、スフィンガジエンと呼ばれる大豆または植物タイプのスフィンゴ脂質はS1Pに代謝されることができず、代わりに腸組織でSPL濃度を上昇させ、それによりS1Pの代謝・分解を増強することが研究者によって示された。
さらに、マウスへのスフィンガジエンの経口投与は、炎症ならびにIBDの徴候、腫瘍の発生を減少させた。加えて、IBD患者の結腸ではS1P関連の遺伝子発現が増加していることを研究者は示した。
今回の研究では、哺乳類のスフィンゴ脂質が炎症と発癌を促進する可能性が示唆される。また、植物/大豆スフィンゴ脂質はS1Pに変換されず、抗炎症性であり、いくつかの癌シグナル経路の活性を低下させる。食事に含まれるスフィンゴ脂質が結腸発癌を増強するか阻害するかは、それがS1Pに代謝される能力次第であることが示唆された。
今回の発見は、食事と炎症と癌の機械論的な関連を明らかにすると共に、大腸癌リスクが高い患者、例えばIBDの人たちの化学予防的治療薬としてスフィンガジエンをさらに研究することを支持するエビデンスを提供する。
記事出典:
上記の記事は、UCSFベニオフ小児病院オークランドによって提供される素材に基づく。
学術誌参照:
1.スフィンゴシン-1-リン酸リアーゼのダウンレギュレーションは、STAT3により活性化されるマイクロRNAによって結腸発癌を促進する。
JCI、2014;
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141028145439.htm
<コメント>
前回に続いて、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)についての記事です。
本文によれば、STAT3はmiR-21を介してPTENも抑制することが明らかになっていて、今回の研究ではS1PはSTAT3を活性化させてmiR-181b-1を誘導し、cylindromatosis(CYLD)もサイレンシングすることが明らかになりました。さらに、IBD患者の結腸の生検でもS1PとSTAT3シグナルが促進されていました。
2009年にも同グループによるスフィンガジエン(sphingadiene; -eneは二重結合の意)についての記事が出ていました。