(前編より続く)
当時のちび太は子ニャン特有の怖れ知らず。
相手が誰でも「あそんで~」とばかりに寄っていく。
店では番猫テンちゃんの他に、ダイフクやモドキが常連だった。
子ニャンにやさしいダイフクには時折遊んでもらえたが、モドキは違った。
ある日、ちび太はモドキにやられて怪我をした。
にもかかわらずその後も懲りずに寄っていく。
そして何日か後、ちび太が再びモドキに追い詰められて絶体絶命のときだった。

モドキはテンちゃんのようにやさしくはなかったが、それでも寄っていくちび太
(スタッフルームの中と外で)
離れたところでそれを見ていたテンちゃん。
テンちゃんはスタッフルームの前にある大型ラックに繋がれていた。
「ワオォォォォーッ!」 テンちゃんが滅茶苦茶に暴れだす。
リードをぐいぐい引っ張り、ついに商品ごとラックを倒すとそのはずみでフックが外れた。
その途端、リードをつけたままのテンちゃんが猛然とモドキに追い迫った。
逃げるモドキ、追うテンちゃん。
モドキとしてもテンちゃんに追われるのは初めてじゃない。
かつては間に入ったスタッフが大怪我をした2匹です。
このときは3人がかりで制止して、何とか事なきを得た。
我に返ったテンちゃんの傍には、いつものように無邪気なちび太がいた。

テンちゃんの安眠を邪魔するちび太 (この後寝床に乱入)
厳しい冬の終わり、推定年齢6ヶ月を越えたちび太は大きく成長していた。
狩りの練習を始めたちび太。飛び掛かられたテンちゃんが転げ回ることもしばしばだ。
テンちゃんがちび太を持て余すようになり、お泊り用のケージも小さくなった。
何より、SCのフェンス沿いでひとり遊ぶちび太にチビの面影が写った。
チビの不幸を繰り返すことだけは許されない。
待ったなしの対策が必要だった。

ちび太の傍若無人ぶりにたじたじのテンちゃん
若いちび太にはテンちゃんのようなリード暮らしは無理だろう。
春の足音が聞こえた頃、手術を受けたちび太はそのまま店暮らしとテンちゃんに別れを告げた。
そしてわが家の一員となったちび太は、ニャー、みう、リン一家と親交を深めていったのです。

テンちゃんとちび太の、店時代の最後となったツーショット
ちび太には店時代から里親さん候補がよく現れたが、条件合わずで流れていた。
しかしわが家に来た頃になって、いよいよトライアルへ。
順調に思われたが先住さんにストレスが溜まって隔離の身に。
様子を見に伺ったときは狭いケージの中で悲しそうに鳴いていた。
そのまま飼うのだと言う。
すかさず話をつけてちび太をわが家に連れ戻した。
それ以来、ちび太は妙にはにかむようになった。
そして悲しげな、遠吠えのような鳴き方をするようになりました。

わが家に引っ越す直前のちび太 (店裏からSC従業員用の駐車場を見渡す)
時は流れてその年の晩秋。
店の看板猫を務めていたテンちゃんの調子がおかしくなった。
年末の診断結果は慢性腎不全。しかも末期。
調べてみると、慢性腎不全の末期と診断されての余命は平均200日しかない。
年明けからテンちゃんの本格療養を決め、わが家に引っ越すことにした。
そして、ちび太とテンちゃんは再会することになるのです。

わが家での初日 (この10ヶ月後にテンちゃんもやって来る)
当初の心配をよそに、わが家に来たテンちゃんはすぐにみんなに溶け込んだ。
と言うか周囲をまったく気にしない。やはり家猫生活には慣れたもの?
テンちゃんは年齢的にだいぶ上で、しかもあのゴジラ顔と怪獣声。
何とも言えない威厳と風格を漂わせて一目置かれる存在になった。
そしてちび太は・・。
テンちゃんの倍近い大きさになっていたちび太。
怖がるでもなく喜ぶでもなく、それでも気になるのか距離を置いて見守った。
2匹がお互いに覚えていたのかどうかはわかりません。
旧交を確認するというより、新たな付き合いの始まりのようでした。

テンちゃんとの再会は、よそよそしくも懐かしくも?
梅雨になった頃、テンちゃんは輸液もできないほど痩せ衰えていた。
一方ちび太は飛び降りた際に強打した頬が大きく膨れ、日が経つに連れて見るも無残な顔になった。
そのちび太の頬が破裂して大騒ぎした日の夜、ついに力尽きたテンちゃんがばったりと倒れた。
介抱する保護者の脇から楽になったちび太が覗き込む。
そのときのちび太の心配顔は、今でも忘れられません。
翌早朝にテンちゃんは息を引き取り、ちび太は恩師でもある育ての親を失った。
ちび太が気立てのいい立派な青年へと育ったのは、テンちゃんあってのことでした。

テンちゃんは、今も空からちび太を見守っているに違いない
以上がちび太の背負っている物語です。
たかが猫1匹。
でもその物語は、小説にだって劣りません。
人間だって猫だって、その性格は生まれたときから備わっているわけじゃない。
いろいろな経験を通して形成されていくのです。
背負っている物語を垣間見れば、人なり猫なりを理解する上できっと役に立つはずだ。
「ねこのきもち WEB MAGAZINE 」に猫の心理学という記事がある。(2020年12月1日)
猫に記憶があるかという行動学的な検証について書かれています。
その結果は、猫が過去を記憶することを示唆するものでした。
猫にも人間のような思い出があると推察しているのです。
猫と暮らす人なら、頷けますよね。
ちび太も、テンちゃんの思い出を抱きながら彼の猫生を送っていくのだと思います。

ちび太は波乱万丈の物語とテンちゃんの思い出を秘めています (今日のちび太)