今日も元気で頑張るニャン

家族になった保護猫たちの日常を綴りながら、ノラ猫たちとの共存を模索するブログです。

シリーズ「ノラと家猫と」 その5 エピローグ・みんなが幸せに 

2018年06月29日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その4 「奇跡の絆」より続く;

ノラか家猫かと言っても、猫には選ぶ機会がないし権利も与えられない。選べと言っても答えは出せないだろう。でもクウは再び家猫として戻り、灰白くんはノラの世界に戻っていった。自分にはクウが強運の持ち主だと思える。灰白くんは今は潤沢に食にありつけるが、B婦人の容態次第ではとんでもない結果にもなりかねない。もちろんそんなことを灰白くんが知る由もない。

人間社会で暮らす限りそのルールには従ってもらう。と思うのは人間の勝手で、猫の知ったことじゃない。共存するなら譲り合いの精神が必要だが、残念ながら人間にはそれがない。猫の世界にもルールがあるのに、それを無視して自分たちのルールを押し付ける。そして、家猫になればお前たちは安全だぞと脅しをかける。何故なら、人間は地球生物の絶対王者、神の如き存在だからです。

一方知識人と呼ばれる人を中心に、そう思わない人たちも少なくない。先日の新聞でも「5つの自由」と呼ばれる動物福祉の特集をやっていた。その内容は別の機会にしますが、妻の考え方と似ている。欧米では根付きつつあるこの考え方が、動物を器物とした法律を持つ日本ではずっと遅れているのです。地球は人間だけのものではない。人間に邪魔だからと他の動物を駆除するのなら、爆発的に増えて自然を破壊する人間こそ、真っ先に駆除すべき対象なのではないか。

               
              クウ(右向)、キー(左向)とちび太(手前)

でも、だからと言ってB婦人に我慢を強いるのは極論だ。B婦人は本来気遣いのあるとても明るい人。「子ニャンを救え」に出てきたように、貯水池に落ちたキー(当時黄チビ)を「助けてあげて」と頼んできたのもB婦人なのです。しかし婦人が抱える重度の猫アレルギーは、理屈の通じることのない生理的問題だ。いくらノラたちに罪はないと言っても、問題の対象をどうにかする以外解決しない。人間はノラたちのように、嫌だからその場を離れるというわけにはいかないのだから。

ノラの問題、餌やりの問題、地域猫の問題、家猫として保護の仕方の問題、これらの問題はいずれも、B婦人の悩みのように善意の人たちを巻き込んだひとつひとつの問題の集合体であって、その背景には"地球上の他の生物とどう共存していくのか"といった奥深い倫理上のテーマを抱えている。だから、関係者があっち向いたりこっち向いたりしていてはまとまるはずがないのです。

               
                   ちび太(左)とみう(右)

幸い、再び潤沢に食事にありつけるようになった灰白くんの鳴き声はだいぶ小さく穏やかになった。白黄くんとも2匹並んで食べるようになり、喧嘩の唸り合いも殆どなくなった。落ち着いてきた頃、Bさん宅を訪ねて様子を伺ってみた。奥様は不在だったが、会いたくなかったのかどうかはわからない。「うーん、」とBさんは言った。「こっちにとっては家の正面だからね。」「たまに喧嘩の声もするし・・。」 少しは改善したかの問いにBさんは否定的な表情を見せた。奥様の状況が改善してないことが察せられた。当家にとっては裏だが、特別に音がよく聞こえるように配慮していたつもりだったが、やはりBさんには不満なのだ。

灰白くんと白黄くんは交互にわが家の家裏にいるようだが問題は、白黄くんがいるときに灰白くんが来ると追い払おうとするので灰白くんが近寄れない。そして離れたところから鳴くので声が大きくなる。灰白くんは1才そこそこのはずでまだ若く、白黄くんには敵わないらしい。当家にとっての問題は、夜明けから夜更けまで、何度も何度もねだりに来ることだ。食べても20分くらい経つとまたねだりに来る。いちいち対応すれば例の「大食いランキング」で言っても超横綱の遥か上、まるで底なしの胃袋だ。その異様な食欲をいまだに理解できないでいるのです。今朝も4時過ぎに鳴くので飛び起きてあげた。寝直そうとしたら5時前にはまた鳴き始めた・・。

               
            珍しく2匹揃った灰白くん(手前)と白黄くん(奥)

妻と相談して、とりあえず灰白くんを家中に保護することにしました。現在"お友達になろう"プログラム実行中。この2匹、いずれにしてもこの秋が終わる頃までには何とかしようと思っていた。寒くなればソトチビがまたやって来るかもしれないからです。灰白くんのお迎えにはもう1人、いやもう1匹、ニャーにも了解してもらわなければならない。

クウはその後、雨降って地固まるが如くわが家の一員らしくなってきた。まだ到底触れないが、自分が横を歩いても逃げなくなった。そしてご飯時になると全身を足に擦り付けてくる。今はちび太とキーと、子ニャン3匹の破壊力に閉口しています。

               
                  ニャー(奥)とキー(手前)

思えばこのところクウのことで振り回されてきました。しかし他にも問題山積です。ニャーにはついにストレス症状が出始めて、先日は家の中でスプレーをしました。みうの目と耳は再び悪化し、左目の周りは涙?のせいか毛が抜けてしまった。キーとクウは手術の申し込みをしなければならないし、保護者さん探しをスタートするはずだったリンは最近ぷくぷくと太ってしまい、只今思案中です。ちび太は相変わらず元気だがやがり里親さん探しを再び始めるか思案中。お店のテンちゃんは単なる夏バテならまだいいけど、最近は食欲がなくなって元気がない。ダイフクやモドキやミケも見なくなったし、新顔の情報もあります。

先の新聞特集で滝川クリステルさんが言っていました。日本のボランティアさんたちは、目先のことに追われて動物たちとどう向き合うべきか考える余裕がないと。このブログの屋台骨でもある「ノラたちとの共存を目指して」シリーズ。いよいよ佳境に入って、次のテーマは動物たちと人間性という倫理的な考察、その次はノラの幸せという形而上学的な考察です。いまのところまだ頭の中で漠然としていますが、今回の経験で少しづつ姿形が見え始めた気がするのです。

               
               ニャー(上)、リン(下左)とキー(下右)

シリーズ「ノラと家猫と」
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(後編) 2018.6.15
その2 事件勃発・高齢保護者の限界      2018.6.17
その3 ノラへの道(前編)             2018.6.20
その3 ノラへの道(後編)             2018.6.20
その4 奇跡の絆                    2018.6.28
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シリーズ「ノラと家猫と」 その4 奇跡の絆 

2018年06月28日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その3 ノラへの道(後編) より続く;

その日は1日だるかった。頭がボーッとして、身体が火照っているような感じだった。仕事が山のように溜まっていたが、どうにも手がつかずお茶濁しのようなことばかりしていた。自分は風邪をひいたことが殆どないので気付かなかったが、実は相当な熱だとわかったのは翌日のことでした。

ノラと家猫の違いって何だろう。同じことを何度も何度も問い返し、「不条理を生きる」の中ではその答えを"運命"だとした。「ノラが家猫になるとき」では、ノラの中に家猫同様の愛くるしさを見出した。同じ猫なのにまったく平等じゃない。それは彼らが人間社会の中で生きているからだ。とにかく人間社会には、格差や不平等が多すぎる。自分も含めて、人間の心には不条理が多すぎる。

クウがわが家を出ても、人間社会の中で生きようとする限りこの不条理からは逃れられない。灰白くんや白黄くんを避けてわが家から離れれば、食にありつける可能性はもっと低くなるだろう。クウはまだ子供。ノラとして放たれた経験もない。心配は尽きないが、行方不明となった以上は助ける手立てもない。それでもクウは、この至らない保護者を恨むことすら知らないんだろうなあ。 などと嘆息しながら、やたらにスリスリしてくるテンちゃんを余計に愛おしく思うのでした。

しかしそのとき、自分は大切なことを忘れていたのです。というより、その何かを本当に理解していなかった。自分がどんなに心配しても、結局クウは思い通りにはならない。いや、思い通りになんてもってのほか、というのが妻の考え方。それは妻が育った環境を思えば納得できる。妻の実家は筑摩山地の西側中腹にある農家で、眼下に松本盆地、その向こうには北アルプスの壁を一望にし、晴れた日には槍や穂高から乗鞍の頂まで全てが見える。天と地が融合し、雲の切れ間から何本もの光柱が盆地に注ぐ光景は、最近テレビで見るどんな景観よりも雄大で、優美で荘厳なものだ。こんなところで育った人間はいったい・・。東京育ちの自分には到底理解できないことでした。

人間と違って動物たちは自然の申し子。だから自然の匂いを多く残した人間ほど、動物たちにとっては身近な存在なのかもしれない。その日、自分が店でボーッとしていた頃、妻は午前中爆睡してしっかり休んだ。しかし小さい頃に畑仕事を手伝った娘は、トシをとっても体力根性まるで違う。昼には回復し、家の掃除やらなにやらに追われたらしい。午後になってふとリビング前の置き餌を見ると減っていて、しかも残りが日に当たっていた。目を覚ましたときに白黄くんを見かけたので、食べた主はわかっていた。

新しいのに変えなければ、そう思いつつ、思い出したようにドア開け作戦を試みたのです。キーとリンを1階の和室、ニャーとみうとちび太を2階の部屋にそれぞれ待機させ、リビングの網戸を少し開けた。1時間ほどビデオを観て、やはりクウの気配はどこにもない。諦めて今度は庭の草むしりを始めた。狭い庭だが伸び放題の雑草、前から気になっていた。30分ほどむしっていると、何か視線を感じた。しかし振り返っても誰もいない。顔から垂れる汗がうっとおしくなって、もうそろそろ切り上げようかと手を止めたそのとき、また何かの気配と視線を感じて振り返ると、2mほどの至近距離にクウがちょこんと座ってこっちを見ていた。

「クウ、あんた、いたのォ。」 思わず声をかけた。身体の細いクウはさらに痩せていたが、穏やかな目をしていた。クウは妻の顔を見ながら置き餌の方にそろそろと向い、食べ始めた。置き餌は古いままだった。「あら、ちょっと待ってなさい。」 妻はためらいもなく家に戻り、クウの好きな缶詰をドンブリに入れて、再び外に出て待っていたクウの目の前に置いた。そしてクウが食べ始めたとき、妻は一計を案じたのです。

クウの食べ始めたドンブリを取り上げ、開いていた網戸の隙間からリビングの中に置いたのでした。そして自分も中に入ってリビングで待機した。クウは思案していたが、妻がまたビデオ1本観終わる頃には姿を消していた。妻はでも、クウは間違いなくまた来ると思ったらしい。案の定、夕食の準備を始めてしばらくした頃、リビングに目をやるとクウがドンブリ飯の最中だった。そっと近寄り、網戸を閉めようとしたがちょっと遠い。窓の直ぐ内側で食べているクウは警戒心も全開だろう。窓を閉めるには開き過ぎているし、網戸を閉めるにはさらにクウに近寄らなければならない。どちらも、うまくいくとは思えなかった。

そこで妻は食事中のクウからそっと離れ、勝手口から外に出てリビングに回ると、網戸の隙間からクウの尻尾が外に出ていた。そーっと網戸に近づいて隙間を閉めた。クウの尻尾が、中へと消えた。

               
                やっぱりキーとクウは大の仲良し

クウは暴れこそしなかったけど、不安げに鳴きながら家の中をうろついていた。しかし妻が和室を開け、中からキーが飛び出してきて兄弟が再会すると、クウの表情は一変した。横倒しにされて、ベロベロに舐められるクウ。そのクウの喉元が、キーと同じように爆竹のごとく鳴ってキーとの二重奏になっていた。初めて聞くクウのゴロゴロだった。そのうちキーの荒っぽいお出迎えに、ニャー、みう、ちび太も加わってクンクン始めた。リンだけは、キーのとき同様ちょっとそっけなかった・・・。

閉店近くになって、自分はその一報を受けました。天地がひっくり返るほどの驚きだった。とりあえず同じSC内でワインとケーキを買って、祝杯に備えました。自分が忘れていたこと、それは妻とクウの間にある絆です。1ヶ月前の脱走の際にも無事帰還を果したあの絆でした。おそらく本人たちも気付いてないほど自然で、控えめで、対等で、自己主張のない絆。一切の見返りを求める事なくあるのは献身だけ。でも信じ合うということは、何よりも強いことなのだ。

               
                 この光景が戻ってきました

その夜は、人間と猫が一緒になって祝杯をあげました。妻の話を聞きながら、自分にはできないと何度も思った。自分もテツとは相互理解者だったと自負していたし、最近はニャーとも気心が知れてきた。そして彼らが何かを望めば自分のことを後回しにしてでも、献身的にその期待に応えてきたつもりだった。でも妻の話を聞いていて思うのは、そもそもが違うのです。そもそも、猫が人間に何かを望むなんて状況があってはいけないのだと。

自分はクウの帰還が心底嬉しかったし、安堵もした。でも、自分の大喜びとは裏腹に妻は素っ気なかった。クウはクウだ。もともと自分の所有物でもなければ従属物でもない。そう言っているように思えたのでした。

               
            その後のクウはリビングメンバーの中心に?
                 (左みう、中キー、右上クウ)


その5「エピローグ みんなが幸せに」へと続きます。

シリーズ「ノラと家猫と」
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(後編) 2018.6.15
その2 事件勃発・高齢保護者の限界      2018.6.17
その3 ノラへの道(前編)             2018.6.20
その3 ノラへの道(後編)             2018.6.20
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シリーズ「ノラと家猫と」 その3 ノラへの道(後編)

2018年06月22日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その3(前編)より続く;
※本記事の写真はいずれも脱走前のものです。

Bさんは自分同様第1期の入居者で、町のイベントにも大変協力的な話のわかる気さくな人。士のつく生業でまだ現役、仕事も忙しいらしい。近年は殆ど顔を合わすこともなくなっていた。奥様曰く、「苦情じゃないのよ、相談に来たの。もう少し何とかならないかなと思って。」 聞けば奥様は引越しまで考えていると言う。数年前に庭をリフォームし、そのときに植えた数種の名品ツルバラがいい按配で咲き始めていた。

「自分は殆どいないし気にならないけど、妻がね。」とBさんは控えめに言った。明らかに以前より困った状況なのに、トーンが下がっている。自分の出した回覧で、この問題を当家だけに押し付けてはいけないという雰囲気がこの街に広がったのかもしれない。それでBさんも言いづらくなった・・、そんな風に感じられた。 でも、それは自分の本意ではなかった。たとえ自分が吊るし上げ糾弾されたとしても、住民が本音で腹を割って話し合うことこそ重要だと思っていたのです。他ならぬノラたちのために。

確かにノラの問題は住民に共通した問題だけど、B婦人の悩みに関して言えば、やはり自分が原因なのだと思った。そもそも自分がこの家に住んでいなければ、ソトチビやみうやリン一家を家裏でお世話しなければ、灰白くんや白黄くんが現れることもなかっただろう。

B夫妻にはいきさつをありのままに話しました。奥様も自分が灰白、白黄くんを追い払っているところを何度か目にして、それだけではうまくいかないと思ったらしい。結局自分は、再び2匹を満腹にして不安を一掃する作戦を提案するしかなかった。そして、なるべく早く保護する。灰白くんだけでも保護すれば、騒音問題は解決するはずだと。

その翌日からは作戦を変えざるを得なかった。灰白くんと白黄くんには食事を潤沢に出しておかわりも直ぐにあげた。2匹は安心し、家裏の棚の上でくつろぐ灰白くんの姿が戻ってきた。白黄くんは、当家の横にある古い縁台を根城にしているようだった。つまり、クウが勝手口に近づく道は完全に塞がれた。

一方リビング側の3ヶ所にクウの好きだったレトルトを吊るし、リビングと和室(保護部屋)の前にカリカリの置き餌を出した。5日目となってはクウもお腹が空いているはずだ。あとは昨夜勝手口から見かけた猫がクウだと信じて、ひたすら待つしかなかった。

               
             猫とは思えないほどスタイルがいいクウ

夕方になって、窓際で寝ていたちび太が何かに反応した。クククククッと鳴き続けるちび太。しかし自分には何も見えない。そのうちキーもちび太に合流した。キーはリビングと和室を行ったり来たりして執拗に網戸の外を眺めた。鳴き続ける2匹。その先に、クウが現れた。細い体が一層細くなって眼光鋭くなっていた。クウはゆっくりと近づいて置き餌のカリカリを食べ始めた。そして、懐かしそうな目で網戸の中にいる2匹に目をやった。

しかし自分が玄関から出て行くと、クウは逃げていった。しまったと思ったときは既に遅し。でもクウがリビング側に現れたことは何とも心強かった。置き餌をたっぷりと継ぎ足してまたのクウの来訪を待ったのです。クウはその後日暮れ前にもう一度現れ、置き餌をしっかりと食べて行った。

それから裏猫2匹と中猫5匹の食事やトイレの世話をして、またクウお迎えドア開け作戦を決行した。今度はリビングの扉にもしっかりと隙間を作った。と、20時を少し過ぎた頃、クウが突然リビングから入って来たのです。やったという気持ちと慌てる気持ちと緊張と。クウは慣れた感じでリビングから廊下を通って和室方面へと消えた。そのとき、少し開いた勝手口を見て愕然とした。何を考えたのか、いつものように2ヶ所を開けていたのでした。勝手口から目を離さずに、慌ててリビングのドアを閉める。が、なかなか閉まらない。右窓なんだか左窓なんだか、それに網戸はどこだ。かなり慌てていた。ようやく窓を閉めたとき、駐車場の伸縮門扉がガラガラと開く音がした。妻が帰って来たのだ。その瞬間、何かが飛ぶように勝手口を通り抜けた。やばい! 慌てて勝手口から外を見るとクウがこっちを見ていたが、すぐさま飛ぶように消えて行った。同時に、家横にいた白黄くんが追って行った。

千載一遇のチャンスを逃がしたと思った。この結果をどう受け止めればいいのか。お腹を空かせていたはずのクウがとりあえず食べ物にありつけ、リビングからの入り方を覚えたことをよしとするか、慎重なクウがこの苦い経験でわが家から遠ざかってしまうのか。結局その晩も、さらには次の日も、クウは現れなかった。置き餌は時折なくなったが、白黄くんや灰白くんまでリビング側で見かけるようになって、クウ存在の確証にはならなかった。そして、その次の日もクウは現れなかったのです。

               
          保護者や同居猫に囲まれて"社会化訓練"中だった

キーとクウが風呂場から脱走して1週間、こんなことになるとは。この間、店に出放しの妻も毎夜ドア明け作戦で見張りを続けていた自分も、体力の限界でした。もう普通の生活に戻ろう。クウはきっとまた戻ってくる。自分にそう言い聞かせたが、悔しさやら切なさやら後悔やらで押し潰されそうだった。クウとの楽しいひとときが頭に浮かんでは消えた。キーにも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。たかが保護猫、たかがペット、でも、家出されればこんな思いをするのだ。自分は過去記事の中で、無力な猫たちのことを思うあまりに保護者への配慮に欠けていたとつくづく思った。

妻は言った、「大丈夫だよ。きっとどこかでしたたかに生きていくよ。」 しかし灰白くんよりもまだ人馴れしていないクウに、そんな技量があるとも思えない。でも、我々にはもうなすべきことがないのだ。信じるのみ。その言葉は力強くもあるがはかなくもある。自分は最大限の無力感に襲われていたのでした。そしてもうひとつ。ひと月前のクウの脱走のときに決意したように、もし戻らなければこのブログの筆を置く。その時期も迫っていた。ただ、今回の顛末だけはしっかりと書き留めておこうと思いました。少しでも、自分と志を同じくする人たちのお役に立てればと。こんな体たらくな経験が役に立てばの話ですが。

翌朝、妻を家に残して久々の店へと向かいました。妻には何も言わなかった。責任を感じていたのだろう。文句のひとつも言わずに1週間店に出続けて、朝から夜まで働いた妻にはただただ、しっかりと休養をとってほしかった。

               
        3匹一緒は見納め?(手前クウ、奥にキー、箱中にちび太)


その4 「奇跡の絆」へと続きます。

シリーズ「ノラと家猫と」
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(後編) 2018.6.15
その2 事件勃発・高齢保護者の限界      2018.6.17
その3 ノラへの道(前編)             2018.6.20
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シリーズ「ノラと家猫と」 その3 ノラへの道(前編)

2018年06月20日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その2より続く;
※本記事の写真はいずれも脱走前のものです。

キーが翌日の朝に帰還したことで、保護者夫婦は希望的観測に沸いていた。ひと月前は24時間後に帰還したクウ、今回はこれから未知の長さになるが、大丈夫だという予感に溢れていた。その日も店とテンちゃんを妻にまかせ、自分は"ドア開けお迎え作戦"に備えた。ただ、クウの所在はキーのように確認できてない。そこでまず、クウの呼び水として保護部屋のトイレ砂を4分割し、家の4隅に置いた。そしてクウの好きなレトルトを網に入れて2ヶ所に吊るした。あとはキーとちび太、呼び込み屋の2匹に期待する。

その日の午後、夕方近くなって見回りをしていると、5,6軒奥のお宅の門の前で灰白くんに会った。灰白くんはじっとこちらを見つめ、近づくと同じ距離を保ちながら離れていく。その動きを見て、ああ、昨夜の路上の猫は灰白くんだったんだ、と確信した。灰白くんはクウより太く顔も大きいがよく似ている。決定的な違いはクウの左前足の内側にある小さな模様だが、それを見極めるのは簡単ではない。

クウの所在はわからなくても、いると信じて待つ。クウはキーのようにリビング側から来る方法を知らないから、結局ひと月前と同じように勝手口の外を頻繁に確認するしかなかった。そして灰白くん白黄くんを追い払う。朝と晩はご飯をあげて、それ以外は追い払う。そんな不可解な行動に2匹は戸惑ったのだろう。灰白くんの声がまた大きくなり、白黄くんとの唸り合いも増えてきた。

あるとき、庭散歩(リード付)のニャーを家裏に連れていくと、灰白、白黄くんが蜘蛛の子を散らすように逃げていくことがわかった。ニャーは2匹のいなくなった家裏を執拗にチェックし、自分の臭いを擦り付けた、そして何とスプレーまでした。ニャーのスプレーはそのとき初めて見た。ニャーがいなくなってしばらくすると、2匹は何もなかったように戻って来る。

               
              中から灰白・白黄くんを見つめるクウ

その日の晩はドア開けを勝手口だけとし、自分と妻はリビングで待機した。灰白白黄くんは何故か姿を見せなかった。夜が明ける直前の時刻、リビングでうたた寝をしながら勝手口に目をやると、誰かが覗き込んでいた。クウだ! 緊張が走る。クウは時間をかけて覗き込んでいたが、やがてするりと入って来た。よし、よしよし! 祈る気持ちで見ていると、廊下から保護部屋への扉が閉まっていた。ありゃッ・・・トイレに行った際に閉めちゃったか・・。しかしクウはそのままリビングまでやって来た。ためらいもなくピアノの上に乗って確認して、それから自分の直ぐ横を通って廊下に消えた。ただ、ピアノに上り下りしたときの感じがクウにしては重いような・・。

いずれにしても、その時の対処は簡単だった。まず勝手口の扉を閉めて、電気をつけて、妻を起こして、クウが中にいることを確認して和室(保護部屋)の襖を閉めた。途端に中で大騒ぎが。暴れに暴れて、少し襖を開けて覗くともう滅茶苦茶になっていた。と、断末魔のような叫び声。その声は、クウではなく灰白くんの声だった。

玄関から外を回って和室の網戸越しに確認した。間違いなく灰白くんだ。夜明け前の静寂にそのバカでかい声が響き渡る。とりあえず雨戸を閉め、さてどうしたものかと話し合った。灰白くんは騒々しいので近隣迷惑を考えて早めに保護したいノラ。しかしさすがに今は時期尚早でタイミングも悪く思えた。人の気配が動けば暴れまくる灰白くんを見れば、もう少し馴れてからと思う。それにこの騒動で、クウがますます寄って来なくなるかもしれない。

その一方で考えた。甘え鳴きも得意な灰白くんはどう見ても被保護経験があると思え、大人しくなるのも早いかもしれない。それに自分の目的がノラの保護であるのなら、ニャンコはみな平等、結果的にクウが灰白くんに代わっただけじゃないか。クウにこだわるのは私情ではないのか。近隣の人たちは、クウじゃなくて灰白くんの保護を望んでいるのだ。

かつて「不条理を生きる」という記事の中で、人間社会に蔓延する不条理、人間の心に潜む不条理について、ノラの子の目線で書きました。確かに保護対象が変わっても猫は猫。灰白くんとクウを差別することは不条理だ。家の中でも触ることすらできなかったクウ。キーがちび太と仲良くなって、ひとり浮いていた感じだったクウ。家中に興味のありそうな灰白くんに対して、クウこそノラにふさわしいんじゃないのか・・。

いやいや、自分は知っている。少しづつ人間に興味を持ち始め、所在が見える時間が多くなった。クウの心は開きかけていたのだ。第一ここで見放されてクウは生きていけるのか。どうしてもクウの将来を案じてしまう自分だった。偉そうなことを言っても、結局自分の心にも不条理が潜んでいたのでした。

               
            テーブルの下からちょっかいを出してくるクウ

夫婦は決断しました。外から回って雨戸を開けて、部屋の中から網戸を開けた。不安で気が動転していた灰白くんは、あっという間に白み始めた外の闇へと消えていった。

その日も自分が"ドア開け作戦"に備えた。灰白くんは朝になるといつもと同じようにやって来て、白黄くんと喧嘩した。多めの朝夕ごはんを2匹にあげた後は、水をかけたり小石を投げたりして家裏から追い払った。でも、人の動きを見透かしたように少ししか離れない。ニャーを出すと効果があるが、こんなことでいたずらにニャーを興奮させるのは、ニャーの精神衛生上悪影響を与えかねないので止めた。

その夜もドア開け作戦でリビングに待機したが、結局何もなかった。ある家出猫探しのお助けサイトによると、脱走猫が帰ってくる確率はかなり高いが、その70%は1日以内に帰って来たそうだ。つまり2日経つと帰って来る可能性がぐっと低くなる。クウはもう3日目だが、諦めるわけにはいかない。少なくとも1週間はドア開けお迎え作戦を続けよう、そう心に決めた。

次の日も同じように過ごした。灰白くんと白黄くんの喧嘩声がかなり大きくなっていたことが気になった。日も暮れた頃、勝手口から外を覗くと猫がいた。それは、クウにも見えたし灰白くんのようにも見えた。このところ何度か見間違えたのでまじまじと見つめていると、その猫はさっと暗闇に消え去った。

左前足の模様こそ確認できなかったものの、あの顔の細さ、大きな耳と目、黙ってこっちを見つめる目つきと瞳の大きさ、そして迷いのない俊敏な動き・・・。クウだと思った。疑心暗鬼ではあるが、クウさえ確認できれば100人力だ。早速中の猫たちを閉じ込めてドア開け作戦を開始した。灰白くんと白黄くんは、その時はいなかった。勝手口を開けてリビングで待機していると、玄関のチャイムが鳴った。

               
                 リビングでも落ち着いてきた

玄関から出ると、門の外にBさんご夫妻がいた。その奥様の悲痛な表情が、全てを物語っていたのでした。

その3 「ノラへの道(後編)」に続きます。

シリーズ「ノラと家猫と」
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(後編) 2018.6.15
その2 事件勃発・高齢保護者の限界      2018.6.17

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シリーズ「ノラと家猫と」 その2 事件勃発・高齢保護者の限界

2018年06月17日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その1後編より続く;

灰白くん白黄くんは"自然時計"だから夏場は早い。ご飯をあげてもまずおかわり催促があるので寝直しもままならず、結局朝はボーッとした状態で日課をこなしていた。その日は家の猫どものお世話の前に2階でパソコン仕事をしていると、下からキーの声がやけにうるさい。何だか籠もったような響くような。確認に下りていくと、その声は風呂場からだった。よくあるのです、うっかり風呂場に閉じ込めちゃうことが。でも、あんなに騒いでたのに気付かないなんて、と思いながら風呂場を覗くと、換気用の小窓にキーのおしりが見えた。

「えっ?」と思う間もなく、キーが外に向かって飛び降りた。「また脱走だ!」
風呂場の出窓は上下2段になっていて、上部の換気用の小窓は常時半開だが網戸を固定していなかった。とは言えその小窓から出るには、まず飛びついて片手の爪をかけてぶら下がって、その状態でもう片方の手で網戸を開ける必要がある。これまでかつての3匹もニャーも何度か風呂場に閉じ込めたが、そすがにそこまではしなかった。身体能力が違うのだ。

妻が風呂を洗った後、興味を持って入り込んできたキーに気付かなかった。「キーが外に出た!」と叫びながら玄関から飛び出した。キーはまだ隣家の庭にいた。と、その少し先にクウがいたのです。脱走したのは2匹だったのだ。なるほど、身軽なクウだったらやりかねない、などと感心している場合じゃなかった。

姿勢を低くして何度も2匹を呼び止めたが、ほどなくクウは消えていった。キーは少しこちらに近づいてきた。しかしそのうち、呼びかける自分の声にも反応しなくなって、他のことに興味を持ち始めた。このままじゃまずい。いつまで待っても出てこない妻に見切りをつけて、一旦家に戻ってキーの好物を手に飛び出した。しかし、キーはもういなかった。

               
                 脱走したキー(隣地にて)

大変なことになった。よりによって一番人馴れしてない2匹の脱走だ。ひと月前の3匹、その直後のみうに続いての脱走だった。何ということだろう。思い返せば、大事には至らなかったがニャーにも随分脱走された。(「ニャー脱走の軌跡」参照) ご近所に迷惑をかけるばかりで、結局当のニャンコたちも幸せにできないじゃないか。我々夫婦の保護者としての能力、いや資格が問われているのだと思った。

ただ、前2回のときよりは落ち着いていた。あのときはクウもみうも、結局みな帰って来たからです。妻のように彼らを信じよう。実際こちらから保護できない以上、それ以外に方法はなかった。自分はその日店を休んで、テンちゃんの世話を妻に頼んだ。そして支度を整えて午後からの"ドア開け作戦"に備えた。

しかし、ひと月前とは決定的に違うことがあったのです。
その日の午前中は近所見回りの他、頻繁に勝手口の外を確認した。3時間ほど経った頃、扉を開けるとキーが来た。しかしキーは家裏にいた灰白くんに威嚇され、逃げていった。昼頃にもキーが顔を出したが、今度は白黄くんに追いかけられた。キーの甲高い声が公園の方まで尾を引き、その後はどうなったかわからない・・。そうなんです。ひと月前と違って、今は灰白くん白黄くんが家裏近辺に棲息していたのです。この2匹にとって、キー(とクウ)はまさに招かれざるよそ者でした。

それで意を決して、灰白くんと白黄くんを家裏から追い払うことにした。だが追い払っても隣地に移動するだけでまた戻って来る。2匹の姿が見えないときは、ニャーたちを部屋に閉じ込めて勝手口を少し開放した。でもいつの間にか灰白くんか白黄くんが戻っている。もどかしさを覚えながらも、そんなことを繰り返した。

               
                  脱走前のキー(右)とクウ

夕方になって、リビングの網戸の内側で寝ていたちび太が何かに反応した。クククッと鳴いて外を見つめる。見ると、窓の外にキーがいた。キーも網戸にしがみついてちび太と鼻ツンツンし始めた。中と外で寄り添う2匹。自分がおやつを持って外に出たときはキーはいなかった。が、それから1時間ほどして同じ場所にまたキーが現れた。外に出て、おやつを見せて名前を何度も呼んだが、キーは迷ったような表情になって、やがて消えていった。

でも、これは大きなヒントになった。灰白くんと白黄くんを避けてリビング側から誘導する手があったのです。夜になって遅く帰って来た妻が早速ご近所見回りに行って、戻って来るなり「道路の真ん中にクウがいた。」 すかさず確認に行くと、公園の前の道路にクウが座っていた。が、自分が近づくと同じ距離を保つように離れていく。しばらく見詰め合った後、クウは傍のお宅の敷地へと消えていった。でも、あれはクウだったのか、それとも灰白くんだったのか。

その夜はニャーたちを閉じ込めて、勝手口、リビング、和室(保護部屋)の3ヵ所に隙間を開けて2匹の帰還を待った。夫婦揃ってリビングに待機し、自分は30分毎くらいに灰白くんと白黄くんの動きをチェックしたので、うたた寝すらしなかった。しかしキーもクウも、気配すらなかった。

4時を回って辺りが白けてきたとき、このときとばかりに本格的な捜索を行った。見つけても保護することはできないが、所在が確認できれば心強い。それぞれのお宅の車の下や物陰を重点的に捜したが、時間だけが空しく過ぎた。徐々に不安が大きくなる。40分ほどしてとりあえず白黄くんたちの様子を見ようと家に戻り、玄関を開けると、廊下にキーがいた。

               
             キー(下)とちび太;もちろん超甘噛みです

家は3ヵ所が開いている。「キーだ、廊下にいる!」 うたた寝をしている妻に伝え、どうしたものか思案しているとキーがキッチンの方に移動した。勝手口の扉は開いている。祈る気持ちでキーを追いながらまず和室への入口を閉め、勝手口を閉めてリビングに向かうと、妻がリビングの窓を閉めていた。「キーは?」「ここから出ようとして、諦めて2階に行ったわよ。」 その瞬間、全身の力が抜けるほど安堵したのでした。

2階の部屋は全て閉まっていた。自分が上がっていくと、キーは廊下の隅で怯えていたが、近づくとこっちの足元をすり抜けてダッシュで1階へと向かった。各部屋を開放すると気配でわかるのだろう、4匹ともキーを追った。そしてキーはリビングで4匹にクンクンされ、手厚いお出迎え受けた。そのクンクンはかなり長く、やがてキーはバタンと横になって、目を細めて爆弾のようなゴロゴロを始めたのです。よほど不安だったのだろう。キーのゴロゴロはその日昼近くまで続いたのでした。

キーはリビングから入ったのだ。だから逃げようとしたとき、他の隙間には頭が回らなかった。今にして思えばまったく紙一重の結果オーライでした。さて、次はクウの番だ。キーと違って気配すらまったく感じさせなかったが、昨夜見た路上の陰がクウだと信じて、必ず近所にいると信じて、必ず帰ってくると信じて、それまでドア解放作戦を継続することとしたのです。

               
                   野性味溢れるクウ

その3 「ノラへの道・前編」へと続きます。

シリーズ「ノラと家猫と」
その1・灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13
その1・灰白くん、白黄くんと地域問題(後編) 2018.6.15
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