「ビリー・ミリガンと23の棺(上下)」ダニエル・キイス 1994早川書房
「THE MILLIGAN WARS」1994 アメリカに先駆けて出版
ちょっと、これは客観的に見たらどうよ。
下巻の訳者あとがきにもあるけど、ダニエル・キイスはビリー・ミリガンに肩入れしすぎ!
ここまで一方的な書き方をされてしまうと、いちいち訝しんだり怪しんだりしてしまうんだな。
(まあ、ダニエル・キイスも母親から受けたトラウマがあったりして、同輩として感情移入したのではないか)
制度的な落ち度とか、政治利用とかはあると思う。
日本のこれからだって、介護施設での暴行がどんどん問題になってくるだろう。病院での患者への暴行もあるようだし、暴行まではいかなくても扱いの酷いものはわたしも目撃している。おそらくはそういった形の人材(予算)不足による歪みはどこにもあって、外から見えない閉鎖空間では、弱い者に対してはさらにそれが起こりやすくなるわけだ。
・・・ビリー・ミリガン(と作者)は、それを利用したのではないか。
やっぱりね、25人目がいたんじゃないかと疑うね。
語らない部分ね。
作者(かなり作っていると思うからそう呼ぶ)も何か気付いている、または知っているのではないか。
なぜ、彼は患者(囚人)や介護人たちから慕われたのか。(下巻P113みたいなことをこつこつと?)
なぜ、長い間殺されなかったのか。
闇社会とつながる25人目が、裏から手を回してもらっていたのではないか。
作者が事実確認をしていない表面に見えるところでも。(P229ボーデンは本当に生きているのか)
また、彼は操りやすい人間を嗅ぎ取る能力も高かったのだろう。
結婚は騙されたことになっているが、実は財産保全のために隠させたのではないか。
批判的な人間の溜飲を下げ、社会の同情を買う計算だったのかもしれないじゃないか。
作中で悪者にされていた人物や事柄が、その表現に見合っただけの捜査と罰を受けただろうか。
結局、統合は治療によるものではなく、死のうとした(絶食)ことで達成されたことになる。
この絶食だって、死なないような措置が取られるという計算ずくだったと疑う。最高のタイミングで要求を繰り出しているしね。
ラストが美しすぎる。『考えた』感が漏れ出ている。(まあ、作品だから…)
自分の犯した罪(強姦)の被害者への悔恨と祈り、分裂の原因を作った義父への許し。
この義父の死も、怪しいと言えばあやしいんだよね。
エピローグのタイトルが「悪魔は手を伸ばした……」だから、作者もそれを疑っていたのかもしれない。でも、それを書くわけにはいかなかったんだろうね。依頼者の利益を守る肩入れする立場から、それは墓までもっていかなければならないのだろう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます