くだまき八兵衛

休みの日はたっぷり睡眠を取れるのが嬉しい

昨夜眠ったのは何時だっただろう

覚えちゃ居ないが深夜１時前には布団に入ったと思う

枕元のＣＤからは「殿様キングス」が流れていた

今朝は何度か目が醒めたが布団から出たのは１１時を過ぎてから

窓の外からは雨音が聞こえてくる

今日は雨なんだなあと思うと一気に憂鬱に…

明日が勤労感謝の日で祝日の前日だから

少しは店も忙しくなるかしらと期待していた

しかしこの雨が上がらなければどうなるか…


最近テレビ東京の「くだまき八兵衛」が面白い

元おニャン子やグラビアクイーン

芸能レポーターなどをゲストに呼んで

かつての暴露話をイニシャルトークで大解放

当たり障りのないイニシャルについては

番組ホームページで公開するが

それ意外はネットで憶測が飛び交うのである


グラビアクイーン特集では

ゲストの一人の大原かおりが

当時ある居酒屋で仲間の女の子と飲んでいたら

嘉門洋子が乗り込んできて

いきなり暴言を吐いた上に唾を吐かれ

殴り合いの大乱闘になったそうだ

大原も嘉門も巨乳が売り物のグラドルだった

その２人が居酒屋内で大乱闘とは

居合わせた一般客もラッキーだったと思う


他には芸能レポーターの石川敏男が

ゲイの噂が根強い俳優ＯがタレントＫ（勿論男性）と

サンフランシスコで挙式をした話

大物歌手のＫＹは完全な植毛

などの耳寄りな話をしたのだが

詳しくは来週放送の続編で…

因みに俳優Ｏの話の前に偶然にも

本人と思われる俳優のタイヤのＣＭが流れたのである

これって意図的？

こんな時に寝坊

今日はホントに焦った

仕事を終えて自宅に戻ったのが８時前

実は昼の３時半から日本舞踊の発表会を見に行く事になっていた

店から車で５分の処にある会場で行われる

その為には少なくとも自宅を２時には出たい

て事はシャワーを浴びたり支度をしたりするので

最低でも３０分前には起きなくてはならない

午後の一時半に起きれば何とかなりそうだ

まだ慌てて寝る事もなかろうとネットで遊んでいたのがいけなかった

ダラダラと起きていたら１０時になっていた

布団に入った途端爆睡したようだ


目が覚めて時計を見ると２時２０分

最初は寝ぼけてて

「休みなのに体内時計はいつもこの時間に目を覚まさせるのよね」

なんて再び眠りを貪ろうとした時

ハッと我に返った

確かに目覚ましをセットしたはずなのに

なんで？

もしかしたら無意識の内に目覚ましのベルを止めたのかしら


兎に角大急ぎで楽屋見舞いをお祝い用の封筒に包む

シャワーを浴びたいが時間がないので

取り敢えず顔を洗って着替えた

急いで部屋を出て大通りまで走る

日曜日なので渋滞している

何とかタクシーを停めたいところだが

こんな時に限って空車が来ない

駅まで歩くしかないようだ

今日は少し気温が高いようで

薄手のジャンパーにしておけば良かったと後悔


駅に着いたのは３時前だった

ロマンスカーがちょうど発車したところで

次の急行が間もなく到着した

この電車がスムーズに新宿に着き

そこから中央線に乗り換えて

会場に辿り着くのは４時前になりそうだ

今回の発表会は色んな人が踊るのだが

近所でお店を経営している花柳流のⅠさんは３時半頃の出番らしい

とても間に合いそうにもない

前の人たちの段取りが長引いて時間が押し気味だと良いのだが…


店のある駅に着いた

其処からはタクシーだ

車は５分で私を会場に運んでくれた

受付の女性にⅠさんの出番に付いて訊ねてみると

「今踊っている方の次です」との答え

ついでに楽屋見舞いをⅠさんに渡して欲しい旨を告げると

「下の階が楽屋になっているので直接お持ち下さい」との事

出番が迫っているのにまさか行けるわけもない

後でお店の方に届ける事にして座席に腰掛けた


Ⅰさんは長唄の「風流船揃」を踊られた

男踊りなのだが途中で女性にも変わるのだ

その時の仕草が何とも艶っぽくてウットリ

お扇子の捌きもいつ見ても素晴らしい

あっと言う間に幕が下りてしまったが

ホントに素敵な舞だった


一時はどうなる事かと思ったが

無事にⅠさんの舞台を見る事が出来て一安心

時計を見ると５時前だ

中央線沿線は中古ＣＤ店が点在している

今探している石川さゆりの「月の盃」が見つかるかも

吉田拓郎の作曲で是非とも手に入れたい

私は手始めに阿佐ヶ谷のレアと言う店を目指したのだった

こんな日もあるの

吉祥寺の女の子の店で働いているルナ子

女装はしていないが、かなり目を惹く風貌だ

ミッちゃんが贔屓にしているその店に

私も時々呼んでいただく

前回伺った時に当店の新人の話をしておいた

「ルナちゃん好みのイケメンが入ったのよ

　ホスト上がりだからノリも良くて

　盛り上げ上手よ～！」

ホスト上がりのイケメン

そのフレーズが琴線に触れたようで

２～３日してから店に遊びに来た


新人のトシは昼間コンビニでバイトしているので

当店に入るのは１１時からだ

ルナ子にそれを言っておくのを忘れていた

９時のオープンとほぼ同時にやって来たルナ子

狭い店内をキョロキョロ

この日、ヒデミは風邪をこじらせて休みだった

ルナ子とは犬猿の仲なので都合が良かった

それよりもイケメンは何処？

ルナ子の身体同様に必要以上に大きな目が獲物を探している


トシが来るまでの２時間

ターゲットになったのはマヤだった

ビールの一気飲みを何度も強要されていた

色んな話でルナ子の気を惹こうとするのだが

彼女の頭の中には勝手に美化した王子様のことしかない

「まだ～？」

ルナ子が何度目かの欠伸をした時だった

勢い良くドアを開けたのはお待ちかねのトシだった


見てくれとは大違いの乙女チックな仕草で

ルナ子はトシを見つめている

そのウルウルした瞳で

目の前の男が合格なのは一目瞭然だ

「こっちに来てッ！」

彼女の横に生贄を配置する

トシは覚悟を決めたようだった


それにしてもヒマね～

カウンターの中で軽いつまみを作っている私に

アイスペールを持って来たマヤが小さく呟く

他に若い男が来ればルナ子の餌食となっているトシも開放されるのに

ドアが開く気配はなかった


ルナ子の執拗なモーションはどんどんエスカレート

トシはほとんど貞操の危機に見舞われていた

その時だった

やっと次のお客様がご来店

しかしオカマの顔は曇った

昨日初めてご来店のＭさんだが

かなりのカマ好きなのだ

隣に座らせて会話の間中スカートの中に手を延ばして来る

それでも好きな物を飲めと勧めてくれるので

エッチな行為にも目を瞑った

あ～あ

さっきまでトシに同情していたが

今度は私たちの番だ

早く帰りたいよ～

Ａ子の店

昨夜は雨の影響もあってか店はヒマだった

営業前には小雨だったが１０時過ぎには

店前を傘の花が次々と足早に通り過ぎて行く

いつもなら何処かの店から聞こえて来るカラオケすら

今夜はまるで耳に届かない

それにしても寒くなったものだ

ついこの間まで団扇をせわしなく動かしていたのが嘘のようだ

深夜になると更に気温が下がり

足元からの冷気が身体の芯まで凍らせるようになるのだ

早く誰か来ないかしら～


駅の反対側で４年前に店を開いたＡ子

先日久々にメールが届いた

人を使わず一人で切り盛りしているが

最近はホントに暇だと言う

彼女は人柄が良いお陰で

中学時代の先輩や同級生に恵まれていて

お客さんの多くは昔ながらの慣れ親しんだ顔ぶれだ

ウチの店にも何度か彼らを伴って遊びに来た


Ａ子の店から少し離れた場所にＤと言う店がある

地元ではかなり知られたＴママの店だ

彼女の店のお客さんがある日

当時Ａ子が働いていたＭと言う店に遊びに来た

そのお客さんは彼女に惚れ込み店に頻繁に通うようになった

しかしＡ子は店のママと合わず辞める事になった

少しして彼女が不動産屋を色々訪ねるようになる

お客さんのバックアップで自分のお店をやる事になったのだ

先述のＤのＴママにしたら面白くない

「ウチのお客さんを取っただけでなく

　お店まで持たせてもらうなんて…」

ウチの店にはこのＴママも遊びに来てくれるので

私はＡ子の店に足を踏み入れるのは控えていたのだ


Ａ子が営業メールをしてくるなんて珍しい

よっぽど客足が途絶えているのだろう

この不景気に忙しい店なんてまず聞かない

何処もかしこも嘆き節だ

今週は給料日前の週で特に静かな日々が予想される

店で時間が空いたらＡ子の店を覗いてみようと思う

ナニやってんだか…

昨日の出勤時のこと

いつもの様にロマンスカーの座席が確保できたので

デパ地下で買ったおにぎりを頬張ろうとしていたら

やけに艶かしい女声が聞こえてきたのである

「あ～ん、ダメェ

　○○ちゃん酔っ払ってそんな事しちゃいけないのよ…」

声の主は私の斜め前に腰掛けている５０代後半の女性だった

パーマのかかったショートヘアは落ち着いたダークブラウン

しっかりとメイクを施された横顔は

歳を重ねても男性からのオファーは引きもきらないだろうと思わせる美貌だ

どちらかのお店のママさんだろうか

傍らに腰掛けた男性が彼女に先程から挑みかかっているのである

まるで同伴喫茶にでも迷い込んだかと思うような光景だ

６０代と思しき男性はママさんの方に身体を傾けて唇を奪い始めた

ママさんの顔がこちらの方を向いている

声とは裏腹に男の要求を喜んで受け入れているのだ

その時に彼女と目が合ってしまった

思わず視線を逸らしたのは言うまでもない


夜７時過ぎの新宿行きロマンスカーは

この季節、箱根の紅葉を楽しんだ行楽客のほか

仕事で疲れたビジネスマンや

私の様な夜の蝶まで幅広い客層だ

週末と違って車内はそれほど混雑していない

だからと言ってその様な光景は場違いで

彼らの周辺に腰掛けている人はホントに不快だったと思う

男の声が低く響く

ママさんに甘えて何かを欲しているのが聞いて取れる

グリーン車付きのロマンスカーなら

こんな不謹慎な場面もよくあるのかもしれない

何故ならその車両はほぼ人影がなく

車内販売と検札の車掌が通り過ぎれば

あとはナニをしようが貸し切りみたいなものだから…


私は４つも買ったおにぎりが喉を通らずに半分残してしまった

それにしてもこのカップルは一体どんな間柄だろう

絶対に夫婦ではないはずだ

不倫にしてはあまりにも大胆だ

やはりママさんとお客と言うパターンなのだろうか

箱根の温泉にでも行って来た帰りで

昨夜の旅館での秘め事の続きでも

此処でおっぱじめようと言うのだろうか

私は彼らの声を遮る為にヘッドフォンをした

大月みやこの歌声だ

全く目の前のカップルにお誂え向きではないか

ロマンスカーは新宿を目指してスピードを上げたのだった