長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『シークレット・オブ・モンスター』

2020-06-21 | 映画レビュー(し)

 ブラディ・コーベット監督の第1作はサルトルの『一指導者の幼年時代』を原作としたミステリーであり、既に確固たるスタイルを見る事ができる。ヴェネチア映画祭ではオリゾンティ部門で監督賞、初長編作品賞を獲得した。

 第2作『ポップスター』同様、章仕立ての構成を取っており、スコット・ウォーカーの不穏で荒れ狂うような音楽に合わせて“序曲”と銘打たれた冒頭では、第一次世界大戦開戦から終戦までを追った記録映像が流れていく。映画の舞台は戦後間もないフランスの寒村であり、1人の少年の邪悪の萌芽を描く様はやはりファシズムの台頭を扱ったミヒャエル・ハネケ監督作『白いリボン』を彷彿とさせる。コーベットの俳優としてのフィルモグラフィにハネケの『ファニー・ゲームU.S.A.』がある事からもその影響は明らかだろう。35mmフィルムのくすんだ質感と夜の闇の深さ、ベレニス・ベジョ、リアム・カニンガム、ステイシー・マーティンらヨーロッパ俳優のシックさからも彼の志向する美意識が伺える。
 そんな中、唯一のアメリカ勢となるロバート・パティンソンがアクセントとして機能している事に注目だ。彼の1人2役も『ポップスター』へと引き継がれた手法である。

 『ポップスター』と並べることでコーベットが暴力史の俯瞰を試みているのは明らかとなったが、先述の『白いリボン』を前にすると生煮え感は否めず、サルトルの原作において少年が空想遊びをしながらアイデンティティを形成している事に対する読み込みも不足しているだろう。

 とはいえ88年生まれの32歳。アメリカ映画には珍しい異端のヨーロピアン主義がどんな変化を遂げていくのか。気になる存在である。


『シークレット・オブ・モンスター』15・英、仏、ハンガリー
監督 ブラディ・コーベット
出演 ベレニス・ベジョ、リアム・カニンガム、トム・スウィート、ステイシー・マーティン、ロバート・パティンソン
 

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