長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ケミカル・ハーツ』

2020-08-30 | 映画レビュー(け)

 アメリカでも量産が続くティーン向けロマンス映画。スタジオとしては出演料の低い若手スターで一定の興行成績が見込めるお得なジャンルだ。しかし、そこは世界一の映画産業国。一口に“青春モノ”と言ってもディテールの豊かさは邦画のそれとは大きく違う。物語はパブロ・ネルーダの詩から始まり、シェイクスピアが引用され、日本の金継が心理を描写し、そしてここでもメンタルヘルス問題が現在(いま)を生きる若者達の不安を炙り出す。

 劇中“宙ぶらりんの10代”と表現される彼らの孤独は大人になった途端に治るものではない。宙ぶらりんの10代を生きて脱した“傷ついた子供”が大人だ。ロマンスが成就する事に物語を見出さず、交錯しなかった人生を描く所にクリスタル・サザーランドによる原作の魅力があり、主演リリ・ラインハートがエクゼクティブプロデューサーを兼任した思い入れの強さが伺える。リリ嬢も心のこもった演技だ。

彼女演じるグレイスの病のきっかけは劇的で、演出も距離を測りかねている感はある。後半、ヘンリーとグレイスの交流に時間をかけても93分というランニングタイムなら問題にならなかっただろう。もっとじっくり見たかった。


『ケミカル・ハーツ』20・米
監督 リチャード・タンネ
出演 リリ・ラインハート、オースティン・アブラムス

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