長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『パッセンジャー』

2017-04-14 | 映画レビュー(は)

 クリス・プラット、ジェニファー・ローレンスというホットなスターの顔合わせに配給会社の期待が伺えるが、こんな作りになるとは思ってもみなかったのではないか。案の定、日本では“SF版『タイタニック』”なんて売られ方をしているが、とんでもない。あえて言うならこれは“SF版『シャイニング』”だ。

5000人の乗客を乗せた惑星間航行船アヴァロン号は120年の時間をかけて植民惑星へと向かっていた。30年目のある日、クリス・プラット扮するジムのコールドスリープ装置が故障。彼一人だけが目を覚ましてしまう。船内には再びコールドスリープに入るための機械はない。一度、目覚めるやそれは道半ばの死を意味するのだ。
ハリウッド期待の未公開脚本“ブラックリスト”に選出されたジョン・スパイツの脚本は示唆に富んだモチーフが散りばめられている。人間、誰もが死を迎える事はわかっているが、それを前提とした物語は稀だ。この映画は好感度の高い人気スターが死への道を成す術なく進もうとする。

広大な船内でジムは何不自由なく生活し、バーテンダーロボットを相手にとりとめもない会話を続ける。バーテンダーはそれほど上等なロボットではないが、客の言うこと全て肯定してくれる魔性の存在だ。やがて1年が経ち、孤独に耐えきれなくなったジムはコールドスリープ中の乗客から美女オーロラ(ジェニファー・ローレンス)を見初める。彼女を目覚めさせて、この死への旅の伴侶とできないか。だが、それは本人の意思に反したいわば殺人である。それでもバーテンダーは同意してくれる。あたかもそれが素晴らしい事であるかのように。

ぞっとする展開だ。
何も知らずに目覚めたオーロラは程なくして(そりゃ、クリス・プラットだもの)ジムと恋に落ち、やがてセックスをする。まるで眠っている女性をレイプしたかのようだ。宇宙の持つ魔力が人を狂わせるのか。ローレンス・フィッシュバーンの登場により、『イベント・ホライゾン』だなんてB級SFまで引用され、デート目的でやってきた観客はいよいよ凍りつくだろう。

 一体、どんな着地をするのかとヒヤヒヤしてしまったが、それは製作の20世紀FOXも同様だったようで、後半は突然スペクタクルが挿入され、ジムとオーロラが吊り橋効果よろしく結ばれるハリウッドエンディングへと軌道修正されている。聞けばオリジナル台本はジムとオーロラによってアヴァロン号がノアの箱舟になったという。モチーフの数々は深遠なスペースオデッセイへとなるハズだったのではないか。脚本通りには仕上がらない映画製作の過酷さを久々に垣間見た。


『パッセンジャー』16・米
監督 モルティン・ティルドゥム
出演 クリス・プラット、ジェニファー・ローレンス、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・シーン
 

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