長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『サバービコン 仮面を被った街』

2018-05-08 | 映画レビュー(さ)



1950年代アメリカ、閑静な住宅地“サバービコン”に黒人一家が引っ越してくる。
地域の白人達は「犯罪が増える」「黒人がいないから土地を買ったのに」と侃々諤々だ。彼らは連日、出ていけと抗議のデモを繰り返し、ついには家の周りを“壁”で取り囲んでしまう。

やれやれ、ウンザリだ。アメリカは本当に何も変わっていない。一軒隣りでは保険金目的の殺人事件が繰り広げられているが、住民達は自分の腐臭で気付いていない。

ジョージ・クルーニーの監督第6作は黒人排斥運動と保険金殺人という2つの事件を並列して描く。劇的な交錯が一切ない2つのプロットは脚本を手掛けたクルーニーと盟友グラント・ヘスロヴ、そしコーエン兄弟がまるで各自の作風で分担したかのような作りだ。聞けばもともとあった黒人排斥のプロットにコーエン兄弟が保険金殺人のパートを書き足したという。『ファーゴ』よろしく雪ダルマ式で大量殺人に発展するが、彼らならではのブラックユーモアをクルーニーは生真面目に演出してしまった。マット・デイモン、ジュリアン・ムーアにも愛嬌ナシ。現在の度し難いアメリカの醜さはかねてから内包してきたものだと看破するのはいいが、ユーモアが足りないのだ。そんな怒りを込めた現代批評にクルーニーは偏愛するクラシック映画のトーンを込め、時代かかった音楽アレクサンドル・デスプラ、撮影ロバート・エルスウィットの試みは面白く、とりわけジュリアン・ムーアが演じたローズに訪れる顛末は素晴らしいセリフも相まって出色のシーンになっている事は触れておきたい。

希望はどこにあるのか?
 クルーニーは子供達に未来を託す。事件の全容を知ってしまった息子ニッキーを演じる子役ノア・ジュプ君は実質上の主役として複雑な心理演技を見せ、映画を牽引する。クルーニーも彼に注力して演出している事が伺えた。彼らしい生真面目さと懐古趣味の1本だ。



『サバービコン 仮面を被った街』17・米
監督 ジョージ・クルーニー
出演 マット・デイモン、ジュリアン・ムーア、オスカー・アイザック、ノア・ジュプ

 

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