長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ハウス・オブ・カード シーズン6』

2018-12-20 | 海外ドラマ(は)



これしかなかったのだろう。
『ハウス・オブ・カード』最終シーズンに臨んだクリエイター陣を誰も責めることはできない。あらゆる困難に見舞われた彼らは最善を尽くしたのだ。配信ドラマの地平を拓いた記念碑的作品の最後としてあまりに寂しい終わり方だが、仕方ない。
 シリーズの危機は既にシーズン5から始まっていた。ドナルド・トランプの出現によって"傍若無人な民主党大統領”という設定の主人公フランク・アンダーウッドはファンタジーへと追いやられ、ショーランナーであるボー・ウィリモンの離脱は本作から時事性、批評精神を大いに失わせた(詳しいレビューはこちら)。

そして2017年に発覚した主演ケヴィン・スペイシーのセクハラ、パワハラ問題である。奇しくもハリウッドは大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行事件に大きく揺れ、“Me too”が叫ばれ始めた只中での発覚であった(スペイシーが謝罪文と性的指向のカミングアウトを同時に行ったのも酷かった)。
事態を重く見た製作のNetflixは既に撮影が始まっていた最終シーズンからスペイシーを解雇、全面リライトに打って出る。従来の13話から8話へとシーズンを短縮し、フランクの妻を演じるロビン・ライトの単独主演へ変更して製作が続行された。

そこに僕は期待もしていた。
シーズン5の最後でライト演じるクレアはフランクを追い落とし、大統領に就任する。彼女は言う「My Turn」。それは女性蔑視、パワハラ、セクハラの権化であるトランプへのカウンターでもあった。オバマのアンチとして登場した『ハウス・オブ・カード』が主役を変え、トランプへのアンチとして幕を閉じる…それは時勢を捉えた当然の結末ではと思えた。何よりキャリア充実期に入っていたロビン・ライトが単独主演する姿を見たいという希望もあった。

【ケヴィン・スペイシーの呪縛】

ライトはいつも通り颯爽として格好いい。マクベス夫人にリチャード3世をミックスしたような暴君へ肥大化していく様も彼女の怖さが活きている。明らかにトランプへのカウンターを意図している描写もあり(全閣僚女性!)、シリア情勢に対する解決方法やロシアとの関係は皮肉が効いていた。

だが作品のトレードマークとも言える"第4の壁”を突破したモノローグはスペイシーの巧みさ、"悪の華”があってこそ成立するパフォーマンスであり、ライトには似合っていない。今シーズンのヴィランに選ばれたダイアン・レインは相手に取って不足のない大女優だが、噛ませ犬程度の扱いでライトの引き立て役にもなっていない。両女優にとって全くメリットのない配役である。

予告編からもわかる通り、ケヴィン・スペイシーもといフランクは劇中で死んだ事になっている。その理由は明らかではなく、"変死”という扱いだ。だがスペイシーを徹底的に排除してもフランクの存在を無視する事はできない。その呪縛はシーズン全体を覆い、登場人物も制作陣も絡め取られている。哀れなダグは彼の名誉を回復せんと常軌を逸し、クレアに至っては何とフランクの子供を身籠っている(え、いつの間に!?)。やがて2人の確執に繋がるこの"フランクの遺産”というマクガフィンが観念的に描かれるため、大きな違和感としてプロットホールになってしまっているのだ。

…これ以上、何か言う必要があるだろうか?
 『ハウス・オブ・カード』はケヴィン・スペイシーなくして成立しなかった。彼を擁護する気はないが、これは僕達が望んだ結末ではない。スペイシーはこの最終シーズンを一体どう見たのだろう?



『ハウス・オブ・カード シーズン6』18・米
出演 ロビン・ライト、ダイアン・レイン、グレッグ・キニア、パトリシア・クラークソン、マイケル・ケリー


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