長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『M3GAN/ミーガン』

2023-06-24 | 映画レビュー(み)

 街を歩いていると小さな子供がスマートフォンやタブレットを熱心に操作している場面に出くわすことがある。使いなこなす様は大人顔負け。これ1台を持たせておけば子供連れの電車移動や買い物といった大人にとっての困難なミッションはぐっとハードルを下げ、少なくとも僕らが子供だった頃よりも子育てにまつわる手間はぐっと減るだろう。でも僕らの子供時代にはなかった代物だから、想像できないこともたくさんある。子供同士のLINEでイジメは起きてないだろうか?ネットを通じていったいどんな知識を得ているのだろう?スマホを手放して親子の会話をしてくれるだろうか?友達代わりにもなるこのデバイスが、果たして人を殺していてもウチの子は親の言うことを聞いてくれるだろうか?

 ブラムハウス製作による最新ホラー『M3GAN ミーガン』はそんな子供と大人のスマホ依存を巧みにカリカチュアした大ヒット作だ。不慮の事故で両親を亡くした少女ケイディは、おもちゃメーカーで開発を務める叔母ジェマの元に引き取られる。子育てなんて経験のないジェマにとってトラウマを抱えた幼い姪っ子の世話は容易いものではない。ジェマは開発中のお友達AIロボット“ミーガン”の実験も兼ね、ケイディの世話をロボットに託すのだが…。

 子供の遊び相手である人形が人を襲い始める、というプロットは『チャイルド・プレイ』をはじめこれまで何度も繰り返されてきたモチーフだが、『ミーガン』は近年のハリウッド映画でも群を抜いて巧妙な視覚効果によってゾッとするリアリティを獲得している。不気味にも滑稽にも陥らないミーガンの造形と、子役エイミー・ドナルドの類まれな身体能力によって、ミーガンは私たちの生活に入り込むテクノロジーの象徴として“アリだな”と思えてしまうのだ。映画はホラーでありながら意外やグロテスクなシーンは皆無の絶妙なさじ加減で、ケイディと同世代の子を持つ親が安心して一緒に見られるのは敏腕ジェイソン・ブラムならではの抜かりのなさだろう。本当に怖いのはスプラッターよりも私たちがテクノロジーに操られてしまうことなのだ。『ゲット・アウト』『パーフェクション』など、ホラー映画の目利きとも言うべきフィルモグラフィを持つアリソン・ウィリアムズがここではジェマに扮していることも特筆しておきたい。

 監督ジェラルド・ジョンストンはあの手この手で観客を怖がらせては笑わせ、しかもランニングタイムは102分という手際の良さ。クライマックスの思いがけない“ジェームズ・キャメロン感”に現在製作中の続編『M3GAN2.0』は“奴らは群れで来るのか?”と期待が募る。何よりゴーストを得たミーガンは広大なネットの向こうに逃げ込んだわけで、おっとこの話を掘り下げて哲学へ舵を切ったのが押井守の『イノセンス』じゃないか!といくらでも盛り上がれる快作である。


『M3GAN ミーガン』23・米
監督 ジェラルド・ジョンストン
出演 アリソン・ウィリアムズ、ヴァイオレット・マックグロー、エイミー・ドナルド

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