長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『荒野にて』

2019-05-25 | 映画レビュー(こ)

シャーロット・ランプリング主演『さざなみ』で注目されたアンドリュー・ヘイ監督の最新作。

ウィリー・ブローティンの原作小説を基に少年と馬の孤独な旅路を描いた本作は、いわゆる青春映画の域に留まろうとしていない。ある事件をきっかけに社会からこぼれ落ちてしまった主人公チャーリーはこの世の無慈悲さ、不寛容さをあらかじめ悟っていたかのようだ。母親の姿はとうになく、父は優しいがほぼネグレクト状態にあり、学校にも通わせてもらえない。福祉の無力な介入はこれまでも何度かあったのだろう。度々、保護されるが彼は何の相談なくも逃げ去る。根本的にそれらを信じていないのだ。

孤独なチャーリーの旅路に彼の成長を助ける善意ある大人は現れない。大人達は皆、疲れ果てている。デブラ・グラニク監督『足跡はかき消して』同様、アメリカの辺境から断絶と貧国、絶望が浮かび上がる。アメリカ映画のメインストリームでは描かれない、もう1つのアメリカの姿。そういった意味でも英国製作の本作は”アメリカ映画”と呼んでいいだろう。ヘイ監督は『さざなみ』で老練と言っても良い演出手腕を発揮したが、意外や73年生まれ。本作の後に続くTVシリーズ『The OA』シーズン2でもゲスト監督として少年達の刹那的旅路を瑞々しく活写していた。

この世から隔絶された少年と馬の旅路はアメリカ文学界の巨匠コーマック・マッカーシーを彷彿とさせるが、決定的な違いはチャーリーが馬リーン・オン・ピートに跨らない事だ。チャーリーはピートを愛し、心を通わせるがそれは異者としてではなく、自身との対話にも見える。終幕、ようやく安住の地を見つけたチャーリーは所在ない、戸惑いの表情を見せる。ピートの喪失はもう決して戻らない、少年時代の終焉でもあるのだ。

 

『荒野にて』17・英

監督 アンドリュー・ヘイ

出演 チャーリー・プラマー、スティーヴ・ブシェミ、クロエ・セヴィニー

 

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