長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『コヴェナント 約束の救出』

2024-02-27 | 映画レビュー(こ)

 1998年の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』でデビューして以来、『スナッチ』『ジェントルメン』『キャッシュトラック』など一貫してクライムアクション映画を撮り続けてきた監督ガイ・リッチー。『シャーロック・ホームズ』シリーズや『アラジン』などで手堅く興行的成功も収めつつ、気付けば55歳。もはや立派なベテランの域である。本作『コヴェナント』は培われてきた経験と技術による最高作だ。

 舞台は2018年のアフガニスタン。武装勢力タリバンの拠点を捜索、殲滅し続けていたアメリカ軍は多くの現地通訳者を雇い、作戦行動に従事させてきた。主人公キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール)の部隊にも戦死した前任者に代わり新たな通訳者がやって来る。ダール・サリム演じるアーメッドは4ヶ国語に精通。かつてはタリバンにも協力し、現地の事情を知り尽くしている。アフガニスタン人への敵意を隠そうともしないキンリーと、持ち前のインテリジェンスで不服従の精神を見せ続けるアーメッド。多くの人物が入り乱れる群像犯罪モノを撮ってきたガイ・リッチーにとって、たった2人の人物を対立させ、次第に歩み寄らせるのは造作もない事だ。十割打者ギレンホールと素晴らしいダール・サリムはわずかな目線、言葉、そして極限状況のアクションによって互いに固い絆で結ばれる男たちを見事に演じている。

 作戦の失敗により部隊は2人を残して全滅。キンリー自身も瀕死の重傷を負い、アーメッドは120キロ先の米軍基地を目指して、タリバンの支配地域を文字通り担ぎながら脱出を試みる事となる。ランニングタイム123分をさばくガイ・リッチーの演出は観客の生理を心得たベテランのそれであり、アーメッドの気の遠くなるような道程は観る者にストレスを与え続ける。アーメッドの献身はどこから来ているのか?アメリカ軍が現地通訳者に与えた“誓約=Covenant”とはアメリカへのビザだ。しかし2021年8月30日、アフガニスタンでの作戦行動を終了した米軍はほとんど夜逃げ同然で撤退する。世界中が目にしたのはタリバンの報復を恐れ、軍用機にしがみつく多くのアフガニスタン人の姿だった。ガイ・リッチーはアメリカの対外政策を明確に批判しており、エンドクレジットでは米軍撤退後に家族共々タリバンに殺された通訳者の数が300人を超えるとされている。

 映画の後半はアフガニスタンに残されたアーメッドを救うべく、キンリーが再び戦地へと舞い戻る。PTSDと罪悪感に苦しめられたギレンホールが、誓約を果たさんとする姿は圧巻だ。ガイ・リッチーの簡潔な人物描写は、そんなキンリーに恩義を返せと迫られる人々も垣間見せ、私たちはこの映画の向こうにいくつもの果たされるべき誓約が残されているのだと知る。日本政府もまた多くの現地協力者を残してアフガニスタンを去ったことを、今一度思い出しておくべきだろう。


『コヴェナント 約束の救出』23・英、スペイン
監督 ガイ・リッチー
出演 ジェイク・ギレンホール、ダール・サリム、エミリー・ビーチャム、ジョニー・リー・ミラー、アレクサンダー・ルドウィグ、アントニー・スター

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