長内那由多のMovie Note

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『呼吸-友情と破壊-』

2017-10-31 | 映画レビュー(こ)

『イングロリアス・バスターズ』などで知られるフランス人女優メラニー・ロランの監督長編第2作目。フランソワ・オゾンの初期中編『海を見る』を彷彿とさせる傑作心理サスペンスだ。

主人公シャルリはフランス郊外の町に暮らす女子高生。
今朝も両親がケンカする声で目が覚めた。2人ともシャルリを愛してくれてはいるが、父は浮気を繰り返して家を出ており、母はまだ女である事を捨てていない。シャルリは一人っ子で、家に居場所はなかった。

ある日、学校に転入生のサラがやって来る。シャルリは隣の席に座った彼女とたちまち仲良くなった。華やかなサラは遊びも慣れていて、シャルリを色んな所に連れていってくれる。次第にサラを友達以上に意識し始めたシャルリは悩みや秘密を打ち明けていく。かつてクラスメートのルイと付き合っていたが、上手くいかず、まだ処女だった。

思春期特有の友情とも恋ともつかない2人の関係は些細な事件をきっかけに歪を来していく。
シャルリがサラの秘密を知る場面は本作のハイライトだ。ゆっくりと横移動していくロングテイクの緊迫はメラニー・ロランがスリラー作家として確かな手腕の持ち主である事を証明している。ここから映画はどんどん怖くなっていく。

 これは少女たちの友情が崩壊に到る恐ろしいスリラーであり、同時にシャルリがアイデンティティを確立していくまでの物語だ。両親を気遣い、品行方正な優等生である彼女は自身の性的アイデンティティにも無自覚で、まるで確認作業のようなルイとのキスよりも、眠れるサラへ寄り添う姿にこそセクシャリティが匂う。喘息持ちの彼女が呼吸を取り戻すラストシーンは、素晴らしいジョゼフィーヌ・ジャビによって戦慄と感動を呼ぶ。サラ役ルー・ドゥ・ラージュといい、ロランの演出は彼女らのフォトジェニックな美しさを引き出すのに留まらず、パワフルな演技力こそ本位としている。はらりとこぼれる涙は自身の一部を殺した成長の証であり、これは少女が自分で息ができるようになるまでの青春映画である。単なる心理スリラーに留まらない、その普遍性が強く心を打った。


『呼吸-友情と破壊-』14・仏
監督 メラニー・ロラン
出演 ジョゼフィーヌ・ジャビ、ルー・ドゥ・ラージュ
※日本未公開、未配信。「ほぼ丸ごと未公開!傑作だらけの合同上映会」で鑑賞※
 

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