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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ワイルドスピード スーパーコンボ』

2019-08-20 | 映画レビュー(わ)

今やハリウッド屈指の人気シリーズへと成長した『ワイルドスピード』シリーズ。回を重ねる毎にキャスティングもアベンジャーズ級の豪華さへとアップグレードされ、ついにスピンオフが誕生した。ロック様ことドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムの2枚看板だ。僕はシリーズ第1作目を見たきりだったが、そんな人でも心配無用。水と油、でも毛と筋肉の量は同じ2人の痛快バディアクションコメディになっている。

細菌兵器を巡る秘密結社との攻防戦というプロットはどうでもいい。『ジョン・ウィク』『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』でアクション映画史に新風を吹き込んできたデヴィッド・リーチ監督があの手この手でアクションシークエンスを作り上げて飽きさせない。
一見、似たルックスに見えるロック様とステイサムだが、身長や筋肉、そして俳優としての個性もまるで異なり、リーチはこの2人の特性とフィジカル重視の殺陣にコメディをブレンドして、破天荒なアクションにチャームをもたらしている。これまでの監督作に比べCGで盛っている場面は多いが、なるべくカットを切らずにコレオグラフで見せるフィジカル重視のアクション演出は相棒チャド・スタエルスキーの『ジョン・ウィック/パラベラム』と本作の大ヒットによってついに天下を取ったと言っていいだろう。

この男臭い映画の中で紅一点となるヴァネッサ・カービーが存在感を発揮しているのが嬉しい。海外ドラマファンにとってはNetflix配信『ザ・クラウン』のマーガレット妃役でお馴染み、昨年『ミッションインポッシブル/フォールアウト』で映画ファンにも認知され、本作でさっそくアクション本格デビューだ。目力と英国訛りのハスキーボイスはザ・ロック、ステイサムを相手に全く引けを取らない魅力で、実にアクションが様になる。今後、ますます活躍の場を広げていく事だろう。

オスカー受賞後はジャンル映画にもノリノリで出演してくれるようになったヘレン・ミレン様や、今やムダ口を叩かせればハリウッドで一番笑いの取れるライアン・レイノルズのカメオ(『ゲーム・オブ・スローンズ』最終回のネタバレしてやがる!)と脇役まで楽しく、さすが人気作品と思えるサービスっぷりである。近年、ハリウッドアクションで不足する悪役には演技派イドリス・エルバを招聘したのも英断だ(エルバのキャリアにおいてプラスになるのかは不明だが)。シリーズを愛してきたファンにとっては車の魅力が希薄なため、やや趣が異なる印象のようだが、僕はこれを入り口にしてシリーズが見たくなった。


『ワイルドスピード スーパーコンボ』19・米
監督 デヴィッド・リーチ
出演 ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、ヴァネッサ・カービー、イドリス・エルバ、ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ
 
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『ワイルドライフ』

2019-07-27 | 映画レビュー(わ)

2018年は俳優監督の当たり年だった。ジョン・クラシンスキーが『クワイエット・プレイス』を大ヒットに導き、ブラッドリー・クーパーが『アリー/スター誕生』でアカデミー賞8部門にノミネートされた。そして『リトル・ミス・サンシャイン』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』等で知られる個性派俳優ポール・ダノが本作『ワイルドライフ』で監督デビュー。批評家からの熱い支持を勝ち取っている。

先の2人と同様にダノも優れた俳優ならではの抑制されたアプローチだ。カメラは役者に肉薄し、繊細な心の機微を逃さず撮らえていく。入念なリハーサルはもちろん、役者達との信頼関係がなければ成立しない技だ。キャリー・マリガン、ジェイク・ギレンホールは共にキャリアを代表する名演である。

物語は1960年、舞台はモンタナ州の寒村。ジェイク・ギレンホール扮する父親が職を失って帰ってくる。夜も眠らず、ふさぎ込み、そしてある日「山火事を消す」と消防隊に志願し、家を出ていく(明らかに双極性障害の徴候だ)。残された母は職を見つけ、まるで父など存在しなかったように振る舞い、ついには恋人まで作る。息子は家族が空中分解する様を傍観するばかりだ。

ダノは間もなく初雪を迎えようとする晩秋の空気をスクリーンから吹かせる。その冷徹さは『普通の人々』や『アメリカン・ビューティー』、『イン・ザ・ベッドルーム』ら家庭崩壊を描いたアメリカの名作映画群を彷彿とさせる。1960年は父親がその父権を失い始め、女達が50年代の因習から解放されつつあった時だ。
2018年は俳優監督の豊作に加え、家族に対する疑問を呈した作品が多く記憶に残った。アリ・アスター『ヘレディタリー』やジャン・マルク・ヴァレ『シャープ・オブジェクツ』、そして本作『ワイルドライフ』…これらが挑んでいるのは“Make Great America Again”と標榜された、旧き良き理想のアメリカ家族という虚飾だ。果たしてアメリカが良い時などあったのだろうか?『ワイルドライフ』の父親は理想の父親像に圧迫され、身を粉にして家族に尽くしてきた母は自分の人生を追い求めた事で後ろ指をさされる。性別によって社会から生き方を強いられる様は決して過去の出来事に留まらない。

終幕、息子の成長によって両親の仲は取り持たれたかのように見えるが、伏し目がちな2人の目線に浮かぶ修復し難い溝に注目してほしい。その“隙間”を埋めようと間に座る息子の健気さは決して叶う事がないだろう。そう思うと、僕は胸を締め付けられずにはいられなかったのである。

『ワイルドライフ』18・米
監督 ポール・ダノ
出演 キャリー・マリガン、ジェイク・ギレンホール、エド・オクセンボールド、ビル・キャンプ

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『若おかみは小学生!』

2018-11-25 | 映画レビュー(わ)

子供の視点から世界を描くのは巨匠・宮崎駿のトレードマークとも言える手法だが、本作の高坂希太郎監督がスタジオジブリ出身と聞いてなるほどと合点がいった。令丈ヒロ子の同名児童文学シリーズを映画化した本作は誰もが経験し、そして思い出すこともなくなった子供時代の世界の不可思議さを瑞々しく描いている。自ずと宮崎御大の傑作『となりのトトロ』を彷彿とした人も多いのではないだろうか。

主人公は小学6年生の女の子“おっこ”。ある日、交通事故で両親を失ってしまった彼女は田舎で温泉旅館“春の屋”を営む祖母の元へと引き取られる。このイントロ部分から目線の高さが違う。大人が浸りたい感傷はどこにもない。おっこは淡々と(しかも一人で!)荷物をまとめ、両親亡き後の家を出ていく。泣きじゃくったり、振り向いたりもしない。温泉宿につけば蜘蛛に大騒ぎする無邪気さだ。だが小学6年生とは大人でも子供でもない境目にあり、気丈に頑張れてしまうものかも…とついつい僕も我が身を振り返ってしまった。

花の屋には祖母の幼少期を知る男の子の幽霊ウリ坊や、客を呼び寄せる妖怪“鈴鬼”、謎の女の子の幽霊みよちゃんがいて、おっこは悲しむ間もなく日々を過ごし、若おかみ修行に励むことになる。少女に今を生きる力が宿るこの物語は『ミツバチのささやき』や『パンズ・ラビリンス』の系譜にあり、そして『となりのトトロ』に連なる。劇中に登場する父親が揃ってインテリで、糸井重里風の芝居をしている所にも宮崎イズムの継承が見て取れた。ポストジブリがさけばれて久しいが、直系という意味では高坂監督が最も近いのではないだろうか。劇中、零細旅館扱いされる花の屋もぜひ行ってみたいと思わせる魅力的な描写力だった。

 吉田玲子の脚色はエピソードをやや詰め込み過ぎだが、終わる頃には「おっこが大人になったらどんな女将になるんだろう」とすっかりキャラクターに愛着が湧いてしまった。そんな余韻も御大譲りな好編である。


『若おかみは小学生!』18・日
監督 高坂希太郎
 
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『ワンダー 君は太陽』

2018-06-27 | 映画レビュー(わ)


登場人物全員に等しく注がれた作り手の優しさが心地いい。R・J・パラシオによる同名小説を映画化した本作は今の時代に相応しい寛容性を持った好編だ。これは前作『ウォールフラワー』で自身の小説を映画化し、成功を収めたスティーブン・チョボウスキー監督のヒューマニズムによるところも大きいだろう。先天的に顔に障害を持った少年オギーの初めての学校生活を描く本作はいじめや、すれ違いが描かれるがそれぞれの視点から平等に語ることで、互いに歩み寄る事の大切さを教えてくれる。

真心のこもった演技を見せている俳優陣のアンサンブルが見どころだ。オギーの母親に扮したジュリア・ロバーツは飛ぶ鳥落した90年代よりも現在の方が俳優としての充実期ではないだろうか。さかのぼれば『クローサー』から僕は彼女の成熟した大人っぽさが好ましかった。
オギーの父親役にはオーウェン・ウィルソン。いつもウェス・アンダーソン映画でヘラヘラしていたイメージの彼が所帯を持っているだけで微笑ましく、そんな彼の個性がまるで友達みたいな父親像(年収も高くなさそう)につながっている。

『ウォールフラワー』でエマ・ワトソンを“脱ハリポタ”させたチョボウスキー監督なだけに、今回も20代若手女優のキャスティングでその慧眼が活かされている。オギーにかかりきりな両親を気遣うばかり“しっかり者の長女”にならざるをえなかったヴィア役イザベラ・ヴィドヴィッチや、そんな彼女と進学を機に疎遠になってしまったミランダ役ダニエル・ローズ・ラッセルが繊細な表情を見せており、スター誕生を予感させる。チョボウスキーは20代俳優を撮らせたら今一番信頼できる監督ではないだろうか。

また『サバービコン』で実質主演と言っていい活躍だったノア・ジュプ君も出演。オギーの親友になりながら一度は同調圧力に屈してイジメに加担してしまうジャック役で、本作の子役中でも一番複雑な演技を見せている。今年はホラー映画『クワイエット・プレイス』も大ヒット、今後しばらく引っ張りだこになりそうだ。

2017年はアメリカ映画の多くで親の不在が印象的だった。混迷の時代に範を示す者の姿はなく、それでも僕たちはしぶとく生きて、子供達に未来を託さねばならない。本作の正しい親の存在、友愛は楽観的と言われるかもしれないが、それでも作り手の温かい善意を僕は心から支持したい。


『ワンダー 君は太陽』17・米
監督 スティーブン・チョボウスキー
出演 ジェイコブ・トレンブレイ、ジュリア・ロバーツ、オーウェン・ウィルソン、イザベラ・ヴィドヴィッチ、ダニエル・ローズ・ラッセル、マンディ・パティンキン
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『わたしは生きていける』

2017-12-03 | 映画レビュー(わ)

同名ヤングアダルト小説を原作としているが昨今、乱造されてきた若手俳優の見本市のような諸作とは違い、ここには賢明な映画人達による大人の映画の手触りがある。哀しいことに世界情勢が混迷を極める今、本作はここ日本に生きる僕にとってもうすら寒い現実感を伴って感じられた。

近未来のイギリス。
シアーシャ・ローナン扮する主人公デイジーが親戚の住む片田舎へやって来る。パンクファッションに身を包み、安定剤が欠かせない神経症の女の子だ。年下の従弟たちを毛嫌いし、田舎の生活に悪態をつくが、逞しく頼もしい長兄エドマンドに魅せられ、やがて2人は恋におちる。外界から切り離されたような田園地方での生活はまるで永遠に続く青春時代のようだ。

そんな平穏な生活に影が忍び寄る。原因は定かではないが、ロンドンが核攻撃を受け、第3次世界大戦が勃発したのだ。
田園を吹き抜ける風、遠雷のように響く爆音。そして雪のように舞い降る死の灰。これらの事象が指す恐怖は世界中の誰よりも僕ら日本人が知っている。やがて軍制が敷かれ、デイジーたちは離ればなれとなってしまう。

デイジーが直面する過酷なサバイバルに託されているのはヨーロッパが直面した第二次大戦の記憶だ。とりわけ無人となった街で死体の山から従弟たちを探す場面は自ずとホロコーストが想起させられ、背筋が凍る。安易な結末に陥らず、戦争の傷と人殺しの罪を背負う事になる終幕は、ローナンの素晴らしい演技によって観る者に深い感動をもたらす。近年、好投の続くエドマンド役ジョージ・マッケイもいい。

 原作の刊行は2004年。原作のメグ・ソクーロフの執筆動機が9.11、イラク戦争にあるのは明らかだ。混迷の今、僕らは今一度、過去の戦争の記憶に向き合うべきだろう。


『わたしは生きていける』13・英
監督 ケヴィン・マクドナルド
出演 シアーシャ・ローナン、ジョージ・マッケイ、トム・ホランド
 
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