長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『わたしは生きていける』

2017-12-03 | 映画レビュー(わ)

同名ヤングアダルト小説を原作としているが昨今、乱造されてきた若手俳優の見本市のような諸作とは違い、ここには賢明な映画人達による大人の映画の手触りがある。哀しいことに世界情勢が混迷を極める今、本作はここ日本に生きる僕にとってもうすら寒い現実感を伴って感じられた。

近未来のイギリス。
シアーシャ・ローナン扮する主人公デイジーが親戚の住む片田舎へやって来る。パンクファッションに身を包み、安定剤が欠かせない神経症の女の子だ。年下の従弟たちを毛嫌いし、田舎の生活に悪態をつくが、逞しく頼もしい長兄エドマンドに魅せられ、やがて2人は恋におちる。外界から切り離されたような田園地方での生活はまるで永遠に続く青春時代のようだ。

そんな平穏な生活に影が忍び寄る。原因は定かではないが、ロンドンが核攻撃を受け、第3次世界大戦が勃発したのだ。
田園を吹き抜ける風、遠雷のように響く爆音。そして雪のように舞い降る死の灰。これらの事象が指す恐怖は世界中の誰よりも僕ら日本人が知っている。やがて軍制が敷かれ、デイジーたちは離ればなれとなってしまう。

デイジーが直面する過酷なサバイバルに託されているのはヨーロッパが直面した第二次大戦の記憶だ。とりわけ無人となった街で死体の山から従弟たちを探す場面は自ずとホロコーストが想起させられ、背筋が凍る。安易な結末に陥らず、戦争の傷と人殺しの罪を背負う事になる終幕は、ローナンの素晴らしい演技によって観る者に深い感動をもたらす。近年、好投の続くエドマンド役ジョージ・マッケイもいい。

 原作の刊行は2004年。原作のメグ・ソクーロフの執筆動機が9.11、イラク戦争にあるのは明らかだ。混迷の今、僕らは今一度、過去の戦争の記憶に向き合うべきだろう。


『わたしは生きていける』13・英
監督 ケヴィン・マクドナルド
出演 シアーシャ・ローナン、ジョージ・マッケイ、トム・ホランド
 

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