長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』

2018-08-17 | 映画レビュー(み)

 御年56歳、トム・クルーズはまだ全力で走り続けている。96年にスタートしたシリーズは回を重ねる毎にスケールアップし、前作『ローグ・ネイション』はついに批評、興行共に最高評価を獲得する傑作回となった。
観客を楽しませるためなら命をも捨てかねないこの大スターは今回も驚異的なアクションを次々と投入し、ちょっとやそっとの事で動じなくなった僕らは息を呑む(その代償としてトムは足を骨折する事になるのだが)。アメコミ映画だけがハリウッド映画じゃない。アベンジャーズやジャスティスリーグが束になっても敵わない大スターがここにいる。

IMAXを駆け抜ける勇姿を見よ。走りだけでこんなにワクワクさせてくれる俳優がいるだろうか。プロット上、ほとんど意味のないヘイロージャンプ、トイレでの死闘、縦横無尽に駆け抜けるパリでのチェイス、そして終幕のヘリコプタースタント。唯一無二のスター性がアクションという動態運動だけで映画を成立させている。こんな芸当、そんじょそこらの俳優では務まらない。

本作はこれまでになくトム演じるイーサン・ハントの人物像に焦点が当てられている。かねてより“イーサンはトムの当たり役”と言われてきたが、今回ほど実感させられた事はなかった。全世界の命運よりも目の前の命を守るイーサンの姿は、公にもスーパージェントルマンとして知られるトム自身の姿とダブる。中盤に登場する女性警官のサブプロットはそんなトム=イーサン・ハントの“優しさ”を引き立てる名場面だった。そしてヴィング・レイムズ、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソンらチームメンバーはおろか、低音美声ボイスが印象的なサブ・ヴィラン“ホワイト・ウィドウ”役ヴァネッサ・カービーら悪役陣からも「トム大好き」という一体感が伝わり、嫌味になるどころかこのアンセム感が本作の“心地良さ”として魅力に繋がっている。

分身であり、ソウルメイトでもあるイルサとの「足を洗え」という件は今回も「大スターの看板を下ろしてその重圧から楽になりましょう」というセリフに聞こえてしまう。だがトムは前作同様、応じるでも否定するでもなくあのスマイルを返すだけなのである。今回、久々に登場した元妻ジュリアのサブプロットといい、ここには家庭の安らぎを失ってもなおハリウッドの一枚看板であり続けようとする大スターの誇りと孤独が見え、泣けてしまった。

明朗な前作と比べると暗い画面作りが多く、
『スカイフォール』もとい遅れてきた『ダークナイト』フォロアーという感は拭えなくもない。ラロ・シフリンのテーマ曲はアレンジ次第でヌケが全く違い、今回のローン・バルフ版はやや不発気味だ。
 そんな事はいい。トムは次回も「世界中のほとんどの人が喜ぶ娯楽作」という不可能任務に果敢に挑むだろう。そろそろかつて肩を借りたダスティン・ホフマン、ポール・ニューマンのような立ち位置の人間ドラマも見てみたいが、彼は走れる限りまずはアクションスターとしての責務を全うし続けるハズだ。


『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』18・米
監督 クリストファー・マッカリー
出演 トム・クルーズ、レベッカ・ファーガソン、サイモン・ペッグ、ヴィング・レイムズ、ヘンリー・カヴィル、ショーン・ハリス
 
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ハン・ソロ スター・ウォ... | トップ | 『セクシャリティー』 »

コメントを投稿

映画レビュー(み)」カテゴリの最新記事