猫たちは、モンプチの缶詰つきで家に来た。
離乳期に入った頃のこと。
手のひらに乗せたら怯えている。
白と黒。
生後まもない猫たちに、娘たちと会いに行った。
目がやっと開いたばかりの六匹の子猫。
私に近寄って甘えた声をだす二匹に決めた。
二匹も、大丈夫なのと娘たち。
その家のおばあちゃんは、白い方は行く先が決まっていると言う。
この子、かわいいんです。
何とかなりませんか。
おばあちゃんが奥に引っ込んで電話をする。
戻って来たときの表情がにこにこしていた。
孫の友だちのお母さんなら、他の子と取り替えてもいいと言っています。
それで決まった。
猫嫌いだった私は、小学生の娘たちが、こっそり物置に隠していた猫の姿を見て、いた場所に返してきなさい、と怒った。娘たちは、何度母を恨んだことだろう。
ところが、またしても家の中におかしな気配が漂いはじめた。中一、二となった娘たちが何かかくしごとをしている。それも自分たちの部屋で。三日目に気がついた。季節は秋だっただろうか。
カーテンを隔てた窓辺で、子猫がかすかに鳴いた。
器量の悪い雄猫だった。水とミルクがそこに用意されていたが、私をみて怯えきっていた。
あらあら、かわいそうに。黒と白のまだらな猫を抱き上げた。
このときから、猫を家族とする暮らしが始まった。
娘たちは、名前を私に任せた。
鼻のあたりが黒く目立ったので、ハナと名づける。
そのハナも、妹の家族がポメラニアンを連れてくるので、ある年の夏、花火の怖さもあって、家出をしてそれっきりである。
私の落胆はただごとではなかった。
半年が過ぎ、また半年が過ぎ、娘たちは高校生。
娘の友人の家に子猫が生まれた。
その話に飛びついたのは私である。
一匹もらえる約束だった。
それが二匹。
こうして、手のひらに乗るほどの愛しき子らは私たちの家族となった。
名前はシド&ナンシーに決まった。
もう、一匹ではなく、二人は家族の一員となったのだ。
猫の話はまた。
薬が切れたので診療所へ。
血管を拡げたり、血圧を下げたり、血液の流れをよくする薬を、朝一回分だけ二種類をもらってくる。
血圧異常なし、他に変化なく、さしあたっての問題はない。以前はもっと服用を必要とした。
参加したデッサン会で、さる教室の師が昼食時に薬のケースを持参。服用薬の多いのに驚いた。
先輩たちが、その方に問いただしていた。パリに行かれたのはいつですか。去年は結婚式に招かれただけ。絵を描くための滞在はどのくらいですか。最低二週間かな。その細さでエネルギーがあるな。年齢は60代後半か。見た目もいい。 モテそうなタイプ。私は新人なので、黙って聞いていた。こんなに薬、大丈夫なのかなと思った。
会の違うベテラン女性が、わあ~っ、先生はお会いしてみたかった方なんです、お会いできて嬉しいです、天井に届くかと思うくらいのはずんだ声。
去年もお会いしているはずなのにな。おおげさな人って、どこにもいるものだ。
酷暑の日がつづく。
川もけだるそう。
離乳期に入った頃のこと。
手のひらに乗せたら怯えている。
白と黒。
生後まもない猫たちに、娘たちと会いに行った。
目がやっと開いたばかりの六匹の子猫。
私に近寄って甘えた声をだす二匹に決めた。
二匹も、大丈夫なのと娘たち。
その家のおばあちゃんは、白い方は行く先が決まっていると言う。
この子、かわいいんです。
何とかなりませんか。
おばあちゃんが奥に引っ込んで電話をする。
戻って来たときの表情がにこにこしていた。
孫の友だちのお母さんなら、他の子と取り替えてもいいと言っています。
それで決まった。
猫嫌いだった私は、小学生の娘たちが、こっそり物置に隠していた猫の姿を見て、いた場所に返してきなさい、と怒った。娘たちは、何度母を恨んだことだろう。
ところが、またしても家の中におかしな気配が漂いはじめた。中一、二となった娘たちが何かかくしごとをしている。それも自分たちの部屋で。三日目に気がついた。季節は秋だっただろうか。
カーテンを隔てた窓辺で、子猫がかすかに鳴いた。
器量の悪い雄猫だった。水とミルクがそこに用意されていたが、私をみて怯えきっていた。
あらあら、かわいそうに。黒と白のまだらな猫を抱き上げた。
このときから、猫を家族とする暮らしが始まった。
娘たちは、名前を私に任せた。
鼻のあたりが黒く目立ったので、ハナと名づける。
そのハナも、妹の家族がポメラニアンを連れてくるので、ある年の夏、花火の怖さもあって、家出をしてそれっきりである。
私の落胆はただごとではなかった。
半年が過ぎ、また半年が過ぎ、娘たちは高校生。
娘の友人の家に子猫が生まれた。
その話に飛びついたのは私である。
一匹もらえる約束だった。
それが二匹。
こうして、手のひらに乗るほどの愛しき子らは私たちの家族となった。
名前はシド&ナンシーに決まった。
もう、一匹ではなく、二人は家族の一員となったのだ。
猫の話はまた。
薬が切れたので診療所へ。
血管を拡げたり、血圧を下げたり、血液の流れをよくする薬を、朝一回分だけ二種類をもらってくる。
血圧異常なし、他に変化なく、さしあたっての問題はない。以前はもっと服用を必要とした。
参加したデッサン会で、さる教室の師が昼食時に薬のケースを持参。服用薬の多いのに驚いた。
先輩たちが、その方に問いただしていた。パリに行かれたのはいつですか。去年は結婚式に招かれただけ。絵を描くための滞在はどのくらいですか。最低二週間かな。その細さでエネルギーがあるな。年齢は60代後半か。見た目もいい。 モテそうなタイプ。私は新人なので、黙って聞いていた。こんなに薬、大丈夫なのかなと思った。
会の違うベテラン女性が、わあ~っ、先生はお会いしてみたかった方なんです、お会いできて嬉しいです、天井に届くかと思うくらいのはずんだ声。
去年もお会いしているはずなのにな。おおげさな人って、どこにもいるものだ。
酷暑の日がつづく。
川もけだるそう。
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