千艸の小部屋

四季折々の自然、生活の思いを、時には詩や創作を織り交ぜながら綴りたい。

四月の終わりに

2016年04月29日 | 日記

 四月二十四日(日)

 乾燥した日々が続いていた。
 友の店に出かけようと、魚沼の里で「桜餅」を買う。
 私の前に、家族と見られる男女三人・・・レジを打ち終えた店員の「五万八千円になります」の声に驚いた。その数字は正確ではないのだが、内祝いかご祝儀に里屋の和菓子を購入したのだろう。すると、父親とその娘さん、お婿さんなのだろうか。自分勝手な想像だが、凄いなあ。
 私は、「桜餅」六個を包んでもらった。桜の葉に包まれた桜色の桜餅、見るからに美味しそうだった。

 菜の花はまだ咲き出したばかりだ。ユキヤナギ(バラ科)の白と、若葉の季節を迎えた魚沼の里は心地よい風がそよいでいる。



 野の花の間に、小さな花を見つける。この花って、ハコベじゃなかったかしら。デジカメに撮って、家で調べることにした。


 その前に、友の店に寄った。
 けっこう混んでいる。「桜餅」をみんなで食べようと思ったのだが・・・

 カウンターにいたT君とおしゃべりをした。

 六月に展示会があるんだ。良かったわね。何出すの。人物やめて、桜にした。いいわね~。だんだん上手くなって、凄いな~。制作中ね。頑張って!観に行くから。ありがとう。私たちって、昭和が終わる前からのつきあいよね。何年になるかな。二十七、二十八、二十九年かな。アハハ、長いね。ホントに長い。とりとめもない話だったが、T君と話が出来ただけだった。厨房の二人は忙しそうだ。
 Azumiさん、桜餅ありがとう。気使って持って来たの?そんなんじゃない。たま~のご挨拶で~す。後で食べてね。
 T君も用があり、私も店を後にした。春!それも日曜日に店が混むっていいことだ。

 そうそう、ハコベを調べなくちゃね。

 島崎藤村の詩にあったよね。


小諸なる古城のほとり          雲白く遊子(いうし)悲しむ
緑なすはこべは萌えず          若草も藉(し)くによしなし
しろがねの衾(ふすま)の岡辺(おかべ) 日に溶けて淡雪流る

あたゝかき光はあれど          野に満つる香(かをり)も知らず
浅くのみ春は霞みて           麦の色わづかに青し
旅人の群はいくつか           畠中の道を急ぎぬ

           (島崎藤村「小諸なる古城のほとり」『落梅集』より)





 カキドオシの近くにまばらに咲いていたのをトリミングボードで切り取った。

 ハコベ(ナデシコ科)
 俗名(方言) ハコベラ ヒヨコグサ
 開花期 三~五月
 自生地 道ばた、庭、田畑などいたるところに生える。
形態  秋に芽を出し、春早く、枝の先の方に白い小さい花をつける二年草。茎は根本のところで枝分かれして、地面を這うが、茎の先は立ち上がって十~二十㎝の高さになる。葉は卵形をしており、緑色で、葉の両面とも毛がない。花は五㎜ほどで、枝の先のほうにいくつもつき、下のほうにあるつぼみから上のほうに順に花が咲く。花びらは十枚あるように見えるが、よく調べてみると一枚の花びらが二つに深くわれているためであり、実際は五枚である。
 春の七草の一つ。やわらかく食用、小鳥のえさになり、ひよこ草などと呼んでいる。 (新潟県野草図鑑より)

 四月二十九日

 昨日から雨だ。

 イワヤツデ(ナデシコ科)

 雨は止んでいる。見応えのある花。葉っぱに雨粒がこびりついている。成長をつづける可愛い花だ。



 ハコベ



 我が家の北側の庭は野草が多い。いたずらに草取りなどしない方がいいのだ。絶滅してしまったものもある。

 ハコベもあった。五㎜ほどの花は気づかないことがある。

 小さな、小さな花は、花びらを固く閉じている。防衛のために。

 ホウチャクソウ(ユリ科)



 花の形が寺院の軒につるす風鈴に似た宝鐸(ほうちゃく)のようだからだと言われている。

 雨が強くなった。寒い日だ。








桜が満開

2016年04月10日 | 日記

 四月九日

 今冬は雪が少なかったので、いっせいに桜の花が満開になりました。
 どこを見ても、桜の花が競うように咲いています。









 雑草も生えてこない枯れ野から、野草が芽を出し、花を咲かせ、日毎に丈が伸びていきます。

 タネツケソウ(アブラナ科)



 春一番に咲くオオイヌノフグリ(ゴマノハグサ科)がまだ咲いています。群生しているみたいでした。こんな年も珍しい。種子を沢山つけて、他の野草に場所を譲る頃でしょうね。



 オドリコソウ(シソ科)



 オオイヌノフグリの間から、オドリコソウがまたたくまにグングン伸びました。そして、タネツケソウ、ツクシも・・・

 カキドオシ(シソ科)





 コブシ

 背高く真っ直ぐに伸びています。小学校の校庭に似合います。



 四月十日

 昇ったばかりの朝陽を浴びた我が家の桜。



 風に揺れています。
 花びらが散りだしました。
 お天気は下り坂・・・

 今日はAruちゃんのお誕生日。
 十二歳、六年生になりました。


     ♪しずか冒険の旅♪

 出発地点の階段踊り場です。

 Aru隊長が隊員に声をかけます。

 隊員はRuuちゃんとバアバ。

 この前途中で止めたのでまた説明します。
 A4サイズの台本をホッチキスでとめてあります。
 いたずら描きの絵にしか見えないのですが。

 その1 ドラゴン魚に会ってみよう。
        でも気をつけて下さい。透明なので見えません。
 その2 タコ目玉に会いましょう。タコ目玉も透明です。
 その3 恐竜とライダー(仮面ライダーリケード)と会いましょう。
 その4 髪の毛がいっぱいあるナガルツ透明にも会いましょう。
 その5 カブト虫とちっちゃいリケードと会いましょう。
 その6 2と火と2と2と10と顔にも会いましょう。全部透明です。
 その7 1と火と2と10とかとおとがにも会いましょう。
 その8 ピラニアと恐竜と恐竜の赤ちゃんと仮面ライダー龍騎にも会います。

 これでお終い!

 (うう~ん、よく云えました。子供は忘れていないのが不思議です。うっかり約束事は出来ません。数字とひらがなと漢字は知っているのを書いただけなのですが)

 隊長の説明は続きます。

 地図によると、こっちをまっすぐ昇って、道はぶつかります。
 あ、左に行く道があります。

 (踊り場の階段を昇って、トイレの前を通過。3階へと向かいました。 踊り場を左に、上へあがって何か発見!)

 しずか冒険の旅は終わりますが、まだまだ続きます。

 (Aru隊長の宣言により、冒険はまたまた中止です)

       * * * * * * * 

 空いている部屋にはガラクタがいっぱい。
 飛んだり跳ねたりメチャクチャ遊びが始まりました。



 まだこっちにいた頃の子供たちです。
 私は遊び仲間の一員という訳です。
 ドラゴン魚も、タコ目玉も、ナガルツ透明も、かとおとが?も、さっぱり分かりません。
 Aruちゃん、まだ覚えていますか。メモを間違えていたらごめんなさい。


     お誕生日、おめでとう!!


四月十四日




 雨が止んだので、オオイヌノフグリの群生を撮ってきました。丈がグングン伸びて、可愛い花を咲かせています。
お散歩中の保育園の園児たちみたいでした。



山も芽吹いてきました。



創作 淑乃は今 後編 四

2016年04月03日 | 日記

                              四

 チャイムが鳴ると同時に、ドアが開いて恵太の声が飛び込んできた。
「こんちは~。恵太です」
「恵ちゃん、いらっしゃい」
 携帯で恵太が着いたことを知ったので、ドアロックは解除していたのだった。
 リンゴの皮を剥いていた淑乃は、手早にタオルで手を拭いて玄関に向かった。
 恵太は、玄関ドアの向こうにいる女性に入るように促している。もう一人いる。
「こんにちは。おじゃまいたします」女性は頭を下げた。背が高く、美人だった。
「いらっしゃい。ようこそ」
 もう一人は少年だった。小学校四、五年かと思われた。
 母親に挨拶するように言われて、ペコンと頭を下げた。
 淑乃は三人分のスリッパを用意した。

「やあ、いらっしゃい」
 ベランダで、干した布団を叩いていた数馬が顔を出した。秋陽はあたたかい光をフロアいっぱいに降り注いでいた。
 女性は固くなっていた表情を緩めた。
 窓の外に広がる景観に見とれているようだった。
「どうぞ、どうぞ」
 数馬と淑乃が同時にソファーを勧めた。
「ありがとうございます」
 少年は、突っ立ったままだった。
 紅茶と皮を剥いたリンゴをトレーに乗せて、淑乃が声をかけた。
「こっちにいらっしゃい。紅茶飲まないよね。ドリンクは何がいいかな。」
 屈託のない淑乃の笑顔にも、母親の横に腰掛けた少年は黙ったままだ。
「スポーツ・ドリンクかな」
 少年は母親の顔を窺った。母親は苦笑している。
「サイダーかな」
 恵太から聞いていたのだ。子供も連れて行く。サイダーと苺のケーキが好きだ、ということも。
 少年は頷いた。
「じゃあ、それにしよう。苺のケーキもあるわよ」
 母親が「構わないで下さい」と言っている横で、少年は嬉しそうな顔になった。
 恵太はにこにこしながら二人を見守っている。
「こちら、真美子、同級生の川野真美子。よっちん、覚えているかな」
「あ、やっぱり。同級生の皆さんと遊びにいらっしゃったことがあったような・・・記憶がはっきりしないけど」
 自分のこともだが、記憶力が鈍くなったのは確かだ。こんなことも、あんなことも思い出せないのかと、思うことが多々ある。真美子の名前だけは記憶にあった。恵太が失恋した相手だということも・・・

「ごぶさたしておりました。川野真美子です」
「こちらこそ。すっかり美しくなられて・・・」
「とんでもないです。お姉さんも変わらないですね。中学の頃から素敵な人だと思っていました」
「そんなの嘘ですよ」
「ほんとです」
 笑顔のまま、黙って話しを聞いていた数馬が声を出した。
「はじめまして、村越です」
「はじめてお目にかかります。いい所にお住まいですね」
「ありがとう。シンプルな住まいだけど、眺めは気に入っています」
「景観が素晴らしくて、ゆったりと寛げるお部屋、いいですね」
 真美子は恵太に視線を走らせながら、ゆっくりと室内を見渡した。

「君は何年生かな。背が高そうだけど」
「四年・・・」
「お名前は」
「数樹・・・」
「僕の名前に似ているね」
「カズキ?」
「樹はなくて、馬がいっぱいいるほうだよ」
「ふうん」
 数馬に声をかけられて、少年の瞳が輝いた。
「数馬?僕は数樹、樹がいっぱいあるの」
「いい名前だね。おじさんと似ているなんて奇遇だね。なかよくしよう」
 数樹と数馬、急速にうち解けたようだ。固くなっていた少年の心を揉みほぐすような数馬のやさしさに、恵太は連れてきてよかったと思った。

 恵太が電話をかけて来たのは一週間前だった。京都の土産物を持って実家を訪れたとき、恵太は不在だった。
「最近、友だちのところに出かけることが多くなってね」
 多恵が意味ありげな表情をした。
「ふ~ん、いい人できたのかな」
「だといいんだけど、口数が減って、ちょっと気になる」
「何かあるのかな、そのうち分かるわよ。あんなに明るい恵ちゃんだもの」
「そうだよね」
 そんな話しを多恵と交わしたばかりだった。

 母親の多恵から聞いて電話をかけてきたようだ。

 電話では紹介したい女性がいるという。打診してみたところ、淑乃も知っている人らしい。
「あの娘さん?じゃないよね」
「そうだよ」
 恵太はあっさりと言った。
「だって、恵ちゃん、あの人結婚したんじゃないの」
「そうだよ。子供もいるよ」



 夏の同級会で真美子と会った。何年ぶりだろう。
 何度か、同級会で真美子を見かけた。お互いに挨拶を交わす程度だった。今年の真美子は少しやつれて見えた。何かあったのか。
 同級生たちも、二人きりにさせてくれているような気配が感じられた。一人、酔っぱらった男が二人の間に割って入ったが、呂律の回らない言葉だったので恵太は適当にあしらっていた。真美子と付き合っていたことは、地元の同級生で知らぬ者はなかった。
 小学校から高校まで、恵太も真美子も同じ学校に通う友だちだった。

 大学を卒業して、恵太は故郷に帰ってきた。真美子は長岡の短大を出て、地元の保育園の保育士になった。何年かは交際が続いた。恵太は、真美子と将来は結婚するつもりでいた。自然の成り行きだと思っていた。
 真美子から、恵太以上に好きな人が出来たことを宣言された。それも、お腹に相手の子供を宿している、と聞いた時は茫然自失だった。目の前が真っ暗になり、ありとあらゆる瞑想と妄想が空回りをする。思考は拡散する。自分は真美子にとって何だったのか、言葉で伝えなくても真美子には届いているはずだった。

 相手のことは聞かなかった。
 真美子とは終わったのだ。
 二、三日考えて、心の整理が出来た。
 友人たちから聞いたところによると、本社から魚沼支社に出向していた青年だった。「気障な奴。飲み屋で二人でいるのを見かけたことあるけど、どうも虫が好かない男だったなあ」真美子がいなくなってからの回顧だった。

 東京の男のマンションで暮らした。
 子供は月足らずの死産だった。
 次ぎの子が胎内に宿ったとき、専業主婦になった。
 夫の勧めだった。
 数樹が産まれた。
 今年の夏まで家族三人で暮らした。
 男の性癖に気づかなかった。
 分からないように浮気もする。
 何でもないことを嫉妬する。
 数樹が可哀想だ。
 子供は両親を見て育つ。
 父親が数樹に手をあげることはなかったが、母親への侮蔑の言葉は数樹の心まで傷つけたような気がする。
 離婚を決意した。悩み抜いた末の結論だった。

 夏休みだった。実家の世話になっている。
 小学校も転入。真美子も保育士に戻った。

「真美子にまた友だちなってくれって伝えたよ。まだプロポーズはしていないけど、俺の気持ちは変わっていない」
 恵太は数樹を見た。
「数樹、いいよな」
 数樹は可笑しそうに笑った。
「恵太はお上手。数樹から手なずけようとしています」
 真美子の口調には否定する面が窺えない。
 淑乃も数馬も進行路線を歩んでいるのだな、と思った。
「これからちょくちょく来るんだね。数樹君も」
「うん」
 数樹は数馬と気が合いそうだ。
 数馬は、(こんなおじいさんと・・・)口に出そうとして引っ込めた。子供がおじさんと見るか、おじいさんと見られるか、子供の判断に委ねよう。二人だけの暮らしに、少しずつ新たな風が吹き始めている。


 セルゲイ・ラフマニノフ
ピアノ協奏曲第二番:第一楽章

 たまらなくラフマニノフが聴きたくなって、淑乃はCDを手に持った。
 背後から数馬がそっと抱きしめた。
「人生って、いろいろあるのね。恵太も真美子さんも、それから数樹君も幸せにならなくちゃね」
「僕と淑乃ちゃんのようにね」
「数馬さん、何だか涙が出る」

     幸せってなんだろう
     空に浮かぶ白い雲みたいに
     つかまえようしても届かない
     幸せってなんだろう

     私は定義づけるのが苦手
     考えることもしなかった
     でも こうして あなたと暮らしている


     幸せって人それぞれにちがう
     幸せだと思ってきたことが
     ちがっていたことに
     気づくことだってあるのだ

     自然の移ろいの中で
     こうして二人で暮らせることが幸せなのだ

     生きとし生けるものの幸せを願っている


 ラフマニノフのメロディーは二人のいる空間をくぐり抜けて、暮色漂う秋の山々を駆け抜けて行った。



                                 つづく