すこし寒くなってきた晩秋のことです。
マイマイくんは、葉っぱをむしゃむしゃ食べていました。
誰かが近づいてくる足音がします。ドタッ、ドタッ、ドタッ・・・いつものおじさんの足音です。
このところ頻繁におじさんはやってきます。
ドタッ、ドタッ、ドタッ・・・
畑の大根を抜いているようです。
ドタッ、ドタッ、ドタッ・・・
「白菜も大きいぞ!」
ドタッ、ドタッ、ドタッ・・・
「キャベツは虫食いだらけ」
ドタッ、ドタッ、ドタッ・・・
「ネギは干したのでいいか」 何やらブツ、ブツ、ブツ・・・
ドタッ、ドタッ、ドタッ・・・
「ホウレンソウ、アスパラ菜、ターサイ、チンゲンサイと・・・」ブツ、ブツ、ブツ・・・
ドタッ、ドタッ、ドタッ・・・
あ、大変だ。こっちにもくる。
隠れなくちゃ。
「マイマイ、土の中にもぐりなさい」
マイマイのお母さんが叫んでいます。
隠れる時間がなくて、マイマイはチンゲンサイの葉と葉の間に潜り込みました。
お家に入ったおじさんが、おばさんに何か言いました。
「向こうで洗うだろうから、ざっとでいいよ」
「そうね。そうするわ」
おばさんは水道水で葉っぱ類を洗いました。(ボクもいるんだけど・・・)ボクは殻の中で丸くなったままです。おばさんはボクに気がつかないで、軽く水切りをしてザルに乗せました。
重い大根、白菜から、おじさんが箱に詰めていきます。
葉物は一番上です。
マイマイは殻の中にとじこもったまま、じっとしていました。
ボク、どうなるんだろう。心配になりました。ママのそばにいればよかった。だけど、もう子供じゃないんだからあっちに行きなさいって追い返しただろうな。ママは心を鬼にして、ボクたちをひとり立ちさせる。離れたところで見守ってくれているんだけど。早く成長して大人にならなくちゃ、そう思っていたところなんだ。
「柚子胡椒入れるの忘れた。ま、いいか。次ぎにしよう」おじさんの大きな声が響きます。
すぐに、運送屋さんがやってきました。若いお兄さんだと思うけど、「野菜」と書いてあったし、扱い方は丁寧でした。
運送会社で冷蔵車に移されました。
翌日の午前中だったかな~。
ピンポン!!ピンポン!!
「宅急便で~す」
「はあい。ご苦労様」
女の人が冷蔵庫の野菜室を開けて、マイマイが隠れていたチンゲンサイや葉っぱ類を入れました。
もうしかたがないや。どうなるかなんて考えるのよそう。
ボクはすやすや眠ってしまいました。
この家には、子供たちがいるようです。
午後になって、子供たちが帰ったのか、とたんににぎやかになりました。
「手を洗ってね」
「うがいもしてね」
「はあ~い!」
「はあ~い!」
この日は、マイマイが隠れていたチンゲンサイはそのままでした。
ああ~、よかった。
他の野菜を出して、冷蔵庫のドアは開けたり閉めたり、女の人は忙しそうでした。いい匂いもしてきます。
子供たちの声や女の人の声、とてもにぎやかです。
パタ、パタ、パタ。
子供たちのスリッパの音だと分かりました。
二階から一階へと下りたり上がったりしているようです。
お腹空いたな~。でもまた眠ってしまいました。
次の日、冷蔵庫の野菜室が突然開いて、ボクはびっくりしました。心臓が止まるかと思った。
お腹が空いて、お腹が空いて、がまんできず、チンゲンサイの葉っぱをむしゃむしゃ食べていたときだったから・・・
女の人が驚いた顔でマイマイをみつめました。
「かたつむりがおるで。びっくりポンや!」
「ママ~、どうしたの」
「かたつむりがおる~」
「あのかたつむりクンが生まれ変わったのかな~。よかった。うれしい!!」
女の子は大喜びでした。
女の人は棚の上からケースを下ろして、川砂と腐葉土を敷き、野菜といっしょにボクを入れてくれました。ときどき乾燥しないように霧吹きで土を湿らせてくれます。
前のかたつむりを育てたとき、いろいろ調べたようでした。ボクたちの殻の栄養には、カルシウムが欠かせないこともね。
女の子は、ボク、マイマイがやってきたことを、神様からの贈り物だと思ったようです。
女の子は五歳。
小動物が大好きなようです。マイマイのボクとかこがねむしもね。
お兄ちゃんは小学一年生。
やっぱり同じかな~。カマキリクンとかね。
お父さんも、いてるで。あ、やっぱ、似た親子やな~。
そんな訳で、ボクはこうして、このお家で暮らしています。
女の人、つまり子供たちのママですが、先日も新潟のおばさんと電話でお話ししていました。
「かたつむり元気よ。葉っぱもいっぱい食べてる。時々姿が見えなくなって、どうしちゃったのかな~って、心配になってね。そしたら土の中に潜って寝ていたみたい」
女の人も、小さな子供のときから、小動物、小鳥、犬や猫が大好きだったようです。
おじさん(おじいさんでは可哀想、おばさんもです)は、菜園で野菜を作っています。無農薬だから、ボクたちマイマイや青虫クンが集まります。美味しい野菜を食べさせてもらっていました。
ボク、マイマイはとっても元気です。キャベツの葉っぱなど、野菜を食べて大きく成長しました。
お家の子供たちとも仲良しです。
女の子は、お母さんが編んでくれた、ファーのお帽子がお気に入りです。妖怪スィッチは女の子が作ったんだよ。メダルがセットできる仕組みなんだって。器用だな~。ボク、驚いちゃった。
長岡市立科学博物館で、「かたつむり展」をやっています。
開催期間は 12月27日(日) 明日迄です。
皆様、よいお年を。
ちひろさんみたいな優しい色使いとお顔・それに優しい文章綴れるのに憧れちゃいます(*^^)v
童話というほどのものではなく、「お話」風に書いてみました。孫の言葉がヒントになったりしています。「マイマイくん」はお正月にも一緒に来ましたよ。 つまり、彼か彼女にとってはお里帰りでした。最初は環境が変わったせいか、虫かごの天井の隅っこにじっとしていたけど、だんだん慣れてきてキャベツを囓っていました。本当の名前は「ハナチャン」でした。
こんなぐうぜんなことから、夢がふくらんで書いてみたくなるんですね。
文章力があるといいのだけど、欲張らず、人生をのんびり歩けたらいいなと思っています。
つるチャンは、とても私など近づけそうもない、ポジティブで活発な人生を過ごしていますね。少しも気負うことなく、明るくて、S市のリーダー的な役割もこなす方のようですね。優れた俳句も詠む・・・素敵な人生ですね。