同盟国の苛立ちに気付くべし

自民党の中川政調会長が訪米し、相変わらず「核保有」論議を続けている様子。
さすがに首を傾げざるを得ません。

私自身、某TV番組でも明言したとおり、核保有についての是非を議論することは有意義だと思っています。外相答弁を捉えて、国会で議論すること自体けしからんと委員会質疑ごとに執拗に迫る野党議員の態度には辟易しています。「核を持たない」という非核三原則があるのにもかかわらず「議論する」ということは、「保有する」という結論を前提にするということではないか、との主張には苦笑するほかありません。

「唯一の被爆国」という情緒論一本槍では、残念ながら国際社会に対して説得力はありません。現実主義的観点からいえば、戦略環境が激変している中でそのような情緒論はかき消されてしまうと見られているからです。したがって、「北の核」という非核三原則を国是と定めた70年代初頭とはまったく異なった今日的環境の下で、改めて非核政策を貫く意義と価値をきちんと論理的に詰めておく必要があるのです。このことは、先日出席した岡田元代表が主宰する「核軍縮促進議連」の勉強会でも発言させていただきました。

しかも、我が国の国会で核保有をめぐる議論が行われたことが、結果的に、ライス国務長官の「日米安保体制へのコミットメント再確認」発言を引き出し、中国政府をして本気で北朝鮮の核保有を抑止する一連の強硬手段をとらせることにつながったと見ています。その意味でも、麻生外相発言に一定の意義を見出していました。

なお、金曜日の外務委員会における前原前代表の質疑では、外相との一問一答を通じて、北朝鮮による核保有という戦略環境の激変を考慮に入れてもなお、核保有が我が国にとっていかにバカげた選択肢であるか、ということを政治、外交、経済、エネルギー安全保障など様々な角度から明らかにしました。こうした意義深い質疑をまったく報道しないマスコミは、結局、核保有発言を面白おかしく煽るばかりで、我が国の核保有をめぐる本質的な議論にはまったく興味がないのだということがよくわかります。

しかし、にもかかわらず、与党の政調会長が外国まで行って執拗に自説を展開することには賛成できません。引っ込みがつかなくなったとでも言うのでしょうか?「過ぎたるは呼ばざるが如し」です。個人的な信念なのかもしれませんが、もう一度冷静に日本核保有がもたらす国際的な悪影響や時刻の安全保障や経済環境に与える深刻なダメージについて深く考えをめぐらして欲しいところです。

私がとくに注目したいのが、以下の記事です。

(引用始め)
「シーファー駐日米大使、日本の核保有論を牽制」(2006年10月27日20時37分@Asahi.com)
 シーファー駐日米大使は27日、東京都内の日本記者クラブで会見し、北朝鮮の核実験実施を受けて日本国内で核兵器保有論が議論されていることについて、「フランスも核兵器を持ったが、旧ソ連に対する抑止力が強化されたわけではなかった。米国が全力で対応することで抑止されていた」と語り、牽制(けんせい)した。

 また、日本が集団的自衛権の行使を認めていないことを念頭に「米国は敵のミサイルが日米どちらに向かっているかにかかわらず、(ミサイル防衛で)迎撃しなければならないが、日本は米国に同じ義務を負っているわけではない」と指摘。

 そのうえで「この問題には今答えを出しておいた方がいい。その時になって決めようとしても間に合わない」と述べ、攻撃対象が判然としないミサイル迎撃について、日米間で調整が必要との認識を示した。
(引用終わり)

この米国大使の発言の意味は重いと考えます。ブッシュ大統領と直結する全権大使の発言という重さもさることながら、発言内容の意味するところはきわめて重大だと思います。端的に言えば、「ちょいと議論の順番が違うのではないか?」とたしなめているのです。ちなみに、中川政調会長の訪米はこのシーファー発言の直後ですから、米政府が呆れ返るのは当然でしょう。

そもそもナンセンスで非現実的な核保有の論議をする前に、かねてから日米間の安全保障政策における最大の懸案であった集団的自衛権の行使をめぐる議論を先にやってくれ!・・・ということです。そもそも安倍政権は、それを真剣に検討すると言っていたではないか。周辺事態や弾道ミサイル防衛における日米協力こそが、北朝鮮による脅威に対処する最も現実的で実効性の高い安全保障政策ではないのか?

ところが、日本から聞こえてくる雑音は、やれ敵基地攻撃だ、やれ独自の核抑止だなどといった勇ましい話。結局、日米同盟基軸は「建て前」論に過ぎないのか?こんな懸念がワシントンに広がることは絶対に避けなければなりません。我が国の安全保障を真剣に考えるならば、まず日米同盟が有効に機能するかどうかを再点検することです。その上で、不足な部分についての議論を始めることでしょう。この順番が逆になるということは、我が国の安全保障について遊び半分に考えているか、何か「別の意図」を持っていると誤解されかねません。日米韓に隙間風が吹いて、これを一番喜ぶのはどの国か、しっかり見据えた議論をせねばなりません。

来週の外務委員会および安全保障委員会質疑では、この点を徹底的に質したいと思います。
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統一補選敗北

神奈川と大阪で行われた統一補欠選挙に敗れました。
昨晩は24時まで候補者とともに本厚木駅頭で最後の訴えを続け、最高潮の盛り上がりで選挙戦の幕を閉じることができたと手応えを感じて帰宅したのですが、残念です。厳しい有権者の審判を重く受け止め、党再生へ向けた新たな努力を重ねるほかありません。

それにしても、神奈川は終盤よく追い上げました。勝利を信じて戦い抜いた候補者・後藤祐一君の心中いかばかりでしょうか。ちょうど6年前の自分の補欠選挙惨敗を思い起こし、後藤君の気持ちを察しています。昨晩も気力を振り絞って最後の最後まで有権者を求めて走り回っている姿に目頭が熱くなりました。そんな姿は有権者の眼にも必ず焼きついているはずです。 がんばれ、実現男! 明日からの戦いが本当の戦い。彼ならきっと這い上がってくると信じています。大阪の大谷さんも一歩及ばず・・・。残念無念。リベンジに向けて何とか頑張って欲しい。

ところで、国連の制裁決議に基づく国際協力を進めるにあたって、検討すべきポイントをまとめました。主要な部分を以下に紹介しておきます。ご参考まで。この線に沿って、党の外交防衛部門会議で議論を深め、一日も早く民主党としての具体策を取りまとめたいところです。「民主党はこうする」という具体策を示し、「なんでも反対」のイメージを払拭しなければなりません。


国連安保理決議採択を受けての対応 2006年10月20日

1.まず、現行法上、いかなる活動が可能かを検討する。
①防衛庁設置法に基づく警戒監視活動
②米国をはじめとした関係国との緊密な情報交換
③貨物検査を実施する外国軍艦艇の港湾・空港の使用に関する管理者(地方自治体および自衛隊)との事前調整
④国連決議により求められた禁輸措置の一環として外為法等に基づく取締りの強化(主に、日本からの関連物資輸出の監視)・・・一義的には、領海内における海上保安庁の警察活動
⑤関係国に対する後方支援のための物品管理法に基づく役務等の有償提供
⑥米軍との共同訓練の範疇で、平時ACSAに基づく物品役務の融通(無償)

2.つぎに、「周辺事態」と認定されるような事態に至った場合には、周辺事態安全確保法に基づき、対米支援に限って、さらに広範な後方地域支援活動が行えるようになる。また、船舶検査活動法に基づき、公海上で海上自衛隊による船舶検査も可能となる。ただし、その活動には以下のような限界がある。

①憲法第9条に基づく武力行使または武力による威嚇の禁止
②周辺事態における船舶検査は、交戦権の行使としての「戦時臨検」、国連海洋法条約第110条に基づく「臨検」、(日本有事の際の)海上輸送規制法に基づく「停船検査」とは異なり、(イ)要請主義に基づく活動であるから強制性はなく、警告射撃もできない、(ロ)武器使用基準も、「自己または自己とともに当該職務に従事する者の生命または身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合」に限られる。
③対米支援を目的としているので、他国の軍隊に対する支援はできない。

3.以上のような限界を認識した場合、米国はじめ国際社会の要請に十分応えるため、国連決議1718に基づく制裁実施にかかる船舶検査活動を可能にする特別措置法(あるいは、国連決議に基づく協力活動一般を規定する恒久法)の制定が検討されうる。検討すべき主要な項目は以下のとおり。

特措法制定のポイント:
目的:国連の非軍事的制裁措置を実効あらしめるために行う大量破壊兵器等の拡散を阻止するための活動への参加
任務:①停船検査、②回航措置、③規制対象である人または物資の一時的な拘束または保管

さらに検討を要するポイント:
①強制性:対象船舶の船長や規制対象である人等の同意がなくても実施可能とすべきか?
②武器の使用:従来の規定に加え、任務遂行を妨害する行為の抑止または船舶の進行停止をも認めるべきか?
③国連決議に基づく平和協力活動の「一般法」制定を検討すべきか?
(一部削除・修正@2006-10-23 18:46)
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外務委員会質疑

麻生大臣を中心に北朝鮮核実験をめぐる政府の対応について質しました。

以下はレジュメです。ご参考まで。質疑時間は45分。

衆議院外務委員会質疑
2006年10月18日

イントロ:「わが国の安全保障に対する脅威」という観点からみた核実験とミサイル発射との違い・・・どちらがより深刻か?

1.政府の危機管理体制について
  See 配布資料(政府の対応タイムライン)
  「空白の40分」の意味

2.国連制裁決議採択への経緯
  外相としてとくに意を用いたポイント
  「六カ国協議への復帰」を謳っているが、失敗したのではないか?
  ・・・See 六カ国協議共同声明

3.国連決議の意味
  「制裁委員会」の役割は?
  INSPECTION/VISITの違いは?・・・敢えてVISITという文言を避けた理由は?
  「海上封鎖」との違いは?
  米国が主導する世界的なPSIとの違いは?
  PSI訓練への海上保安庁参加・・・海上自衛隊参加?

4.中国の役割
  胡錦濤中国主席の発言
  中国銀行の送金停止措置
  王国連大使の釈明
  トラック検査の実施
  ・・・今度ばかりは真剣なのか?
  ・・・「体制の崩壊」だけは避けたい、という中国の戦略目的は十分理解できるが、制裁強化によって北朝鮮の譲歩を引き出す努力と、体制維持のための必要最小限の支援の継続は両立するか?

5.周辺事態法の適用の是非
  防衛庁長官の慎重論 VS 外務大臣の2段階論・・・背景にある考え方の違い

6.特措法制定の必要性
  リスクの見積もり

7.集団的自衛権の行使
  久間防衛庁長官の「正当防衛論」について
  ・・・麻生外相の見解
  ・・・内閣法制局の見解

8.米国の政策転換の可能性
  「悪事に報酬を与えない」というブッシュ政権の政策が転換される可能性は?
  ・・・日本から二国間協議を促すつもりは?
  「ABC政策」は正しかったか?
  ・・・「結局、いずれにしても北朝鮮の核開発を止められなかった(・・・だとすれば、少なくともヨンビョンの核施設の凍結だけは実現した94年の枠組み合意の方がましだった)」との批判・・・ベーカー元国務長官の批判
  イラン核問題への影響は?
  中間選挙への影響は軽微だと思われるが・・・。

残念ながら、時間がなく4、7、8は議論できませんでした。次回へ持ち越します。これだけでは、わかりにくいところがあると思いますので、後ほど解説を書きます。
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対北朝鮮政策のシミュレーション

朝鮮半島上空で放射性物質の採取分析を行ってきた米側から「核実験を示唆する物質が検出された」との報告が日本政府にもたらされ、北朝鮮の核実験実施の事実が確定しました。

そこで、今後の関係国の動きを展望しながら、我が国のとるべき政策を整理してみましょう。

北朝鮮:
目的「体制の維持」(ただし、「国際社会の公正と信義」は信頼していない。だから、「核やミサイルを放棄すれば利益を得られる)との論法は通用しない)←そのために米国との「有利な」交渉←そのために核、ミサイル開発

核保有宣言→ミサイル連射→核実験・・・エスカレーションの理由は、外交交渉(目的)のためのレヴァレッジ確保(手段)のため+六カ国協議は時間稼ぎ

次なるステップは、米国の出方を見極め、①大胆な妥協提案(ただし、「米朝枠組み合意II」の成算は不明) or ②さらなる核実験・・・「インド・パキスタン型モデル」を模索するが、カードは残り少なくなり、体制崩壊の危機が差し迫れば、「旧日本型モデル」の暴発の可能性も排除できない。←「核保有国」として長期戦に持ち込むとの観測もあるが、金体制の強度がどれほどのものかは不明。

米国:
インド・パキスタンと異なり、北朝鮮は米国の対テロ・対中国戦略上の有効性も持たない上、イラン核問題に及ぼす影響も考慮すると、妥協を行う可能性は極めて低い。

・・・したがって、①「対北封じ込め」政策の転換はしないが、六カ国協議の場で非公式の二国間交渉の可能性は模索する、②金融制裁などで金体制を締め上げ「リビア型モデル」を目指す、改善が見られず事態がエスカレートするようであれば、「イラク型モデル」で軍事オプションも排除せず、③究極の選択肢としては、日韓などの反応を見つつ、中国との密約で金一族の亡命を容認する可能性も。

中国:
少なくとも2008年北京五輪成功までは、対米関係を最重視せざるを得ない。一方、北朝鮮の体制維持のための協力or体制崩壊の引き金を引く非協力のいずれかを追及する能力はあるが、その中間は困難(「本気」で取り組んでも困難)との見方が有力。

・・・とはいうものの、体制崩壊につながるような制裁強化に抵抗しつつ、六カ国協議再開に向けて北朝鮮を説得し続けるほかない。・・・いずれにしても、朝鮮半島北部の緩衝地帯を維持することに全力を挙げる。・・・「核保有国たる北朝鮮」を容認するかどうかはなお不明。

韓国:
戦争回避、体制崩壊いずれも望まない。これを機に対米関係の改善を図る。

日本:
今後の我が国の行動を通して、日米同盟の真価が問われる。これを機に、日米同盟における「真の双務性」を確立したいもの。

まず、米側が取り組むべき課題は、核抑止の有効性、安保条約5条(日本防衛)の有効性を証明することです。これに対し、日本側は、安保条約6条(極東有事)の有効性、(自らが主導した)国連制裁への参加意思・準備を怠りなく行うことです。その際、必要なことは、集団的自衛権の行使、交戦権行使をめぐる政府解釈を見直すことが急務です。

微妙なオプションとしては、米軍の限定的空爆(湾岸戦争後の対イラク)、日本の策源地攻撃論議です。いずれも必要性は認めるものの、慎重な姿勢が望まれます。
ついでに、余計なこととしては、米国の先制核攻撃、日本の核武装(論)などがあり、すでに自民党の政調会長がOBを打ってしまっています。(苦笑)

その他、忘れてはならないのが、今回の核実験によって、国際社会の圧力が強まり、拉致問題解決に向けた新たなモメンタムが生まれたことです。ブッシュ大統領も先日の記者会見で改めて拉致問題の解決に向けた決意を述べていましたし、安倍首相も家族会・救う会の皆さんとの懇談の中で、「私の政権ですべての生存者の奪還を目指し、全力で取り組んでいく」と語っています。
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安倍官邸、大丈夫か?!

今朝、内閣官房、外務省、防衛庁から、北朝鮮「核」実験への対応措置について、ブリーフィングを受けました。

今回の官邸の初動は、そうとう深刻です・・・。
以下、すでに公開された情報に基づいて、時系列で官邸を中心にした関係省庁の初日の対応を示し、問題点を指摘したいと思います。「深刻だ」と言った理由が一目瞭然だと思います。

最初にお断りしますが、野党根性で安倍政権の足を引っ張ろうとの意図は毛頭ありません。安倍政権が、筋肉質の政府をめざし、国家安全保障担当首相補佐官まで登用して官邸強化を謳っていることに鑑み、最初の試練である今回の「核」実験事案をどう処理したかを検証し、課題を浮き彫りにしておくことは、将来のさらに深刻な事態への適時・適切な対処のために大事なことだと思っています。

『北朝鮮による核実験実施情報にかかる政府の対応』(2006年10月9日)

1030  中国より事前通告
1035  我が国気象庁が通常の波形とは異なる地震波観測(M4.9)
1040頃 外務省より官邸に第一報⇒総理に報告
1120  内閣官房から防衛庁に第一報「北朝鮮が核実験実施の可能性」
1130  官邸対策室設置
(ほぼ同時刻に防衛庁長官が選挙応援のため大阪向けフライトに搭乗)
1140  防衛庁長官秘書官に情報伝達
1150  朝鮮中央通信「核実験実施」を発表
1230  大阪に到着した防衛庁長官に情報伝達
1245  ●日米韓外相電話会談
1300  防衛庁内で関係幹部会議
1305  ●官房長官記者会見
1345  ●シーファー米国大使、官邸訪問
1400  放射能対策連絡会議非公式幹事会招集
1410  防衛庁長官指示
1500  ●日韓首脳会談@ソウル
1600  安全保障会議
1721  防衛庁対策本部設置
1800  ●総理内外記者会見@ソウル
1830  ●官房長官記者会見
1900  放射能対策連絡会議代表幹事会開催⇒防衛庁に特別調査要請
2010  ●日米首脳電話会談
2040  ●日米韓中ロ外相電話会談
2115  ●日中外相電話会談
2130  ●日・EU外相電話会談
2143  放射能に関する特別調査のための自衛隊練習機T-4一番機出動
2305  ●日英外相電話会談

以上が、第一日の主な動きです。
かなり重症であると言わざるを得ません。
ポイントは、二つあります。

ところで、改めて断っておきますが、私はこの分析で特定の人物に責めを負わせるつもりはありません。衆参の委員会質疑では、久間防衛庁長官が大阪へ選挙応援に行っていたことによる危機感の欠如などを問題にしていましたが、それは本質的な批判とはいえないと思います。実際、麻生外相・久間防衛長官ラインは、いま我が国で考えうる安全保障閣僚としては最強です(個人的には、麻生・石破コンビの方が好きですが・・・)。

問題は、大臣の資質とか個人の能力などではなく、国家情報システムそのものです。上記の時系列をもう一度見てください。ポイントは、二つあると思います。

第一は、1040に外務省からの第一報を受け(直ちに総理に伝え)た官邸から、防衛庁への第一報が40分後の1120だった点です。
第二は、1120に官邸からの第一報を受けた防衛庁が、みすみす長官を乗せたフライトを羽田から見送ってしまったことです。(たとえ飛行機に乗り込んで、離陸してしまったとしても、機内で重大情報を受信できるシステムすらないのか、という素朴な疑問はこの際呑み込んでおきましょう。)

まず、第一点目については、この空白の40分に何が起こったのかは依然謎のままです。官邸サイドの答弁では、1120に行なったのは、10分後に開かれる官邸対策会議への関係省庁に対する招集のための連絡だったとのことですが、防衛庁側の説明は、あくまで「核実験実施の可能性」を伝える官邸からの第一報であると。この食い違いは重要ですから、今後調査を進め、外務委員会で追及することになります。官邸答弁が正確であれば、1040に外務省より第一報を受けてから関係省庁への情報伝達をいつやったかが問われることになりますし、防衛庁答弁が正確であれば、気象庁が異常を観測した1035から「第一報」を受けた1120までの間、防衛庁は一切独自情報を持ち合わせていなかったのか、が問われることになります。

この疑問は、第二点目と関連します。1120以降の防衛庁の動きは、たしかに官邸からの第一報が、文字通り防衛庁にとって「第一報」であったことを示唆しています。すなわち、(防衛庁が長官秘書官に情報伝達するまでに20分もかかっていることはこの際おくとしても)10分後に羽田を飛び立つ防衛庁長官をつかまえそこなったのですから・・・。結局、長官に情報が伝達されたのは、大阪に降り立った1230。事件発生から、じつに約2時間後のことでした。しかし、在日米軍との直接の情報ルートを持つ防衛庁が、1120の段階まで、すなわち事件発生から1時間近くも、まったくの無防備だったとは考えにくいのです。この点も、まったく不可解です。

この結果、防衛庁の対策本部が立ち上がったのは、事件発生から7時間近く経った後のことでした。これは、余りにもお粗末・・・。7月5日の北朝鮮ミサイル連射事案の際の官邸の初動と比べてみれば、今回の異常さが浮き彫りにされるでしょう。内閣官房の資料から、以下、2ヶ月前の「小泉官邸」(ちなみに、当時、小泉首相は外遊のため不在で、安倍官房長官(当時)が官邸を仕切っていました)を振り返っておきます。

『北朝鮮による飛翔体発射にかかる政府の対応』(2006年7月5日)

0352  早期警戒情報発令。直ちに、総理、外相、防衛長官、官房長官に連絡(秘書官経由)
0400  官邸対策室設置
0430  官房長官、官邸到着
0435  防衛長官、官邸到着
0450  外相、官邸到着
0500  分析会議開始(外相、防衛長官、官房長官)
0618  ●官房長官記者会見1
0640  シーファー米国大使官邸訪問
0727  安全保障会議1
1145  安全保障会議2
1213  ●官房長官記者会見2

このミサイル発射については、約2ヶ月にわたる厳戒態勢の下で勃発したため、比較的初動が速やかだったとされました。しかし、今回も、週末に核実験が行われる蓋然性がきわめて高いとされていました。だからこそ、立法府の私たちでさえ、連休の土曜から日曜にかけて、もし核実験が行われたら衆議院で直ちに非難決議をやろうということで、野党側の決議案文作りに取り掛かっていたのです。したがって、官邸や防衛庁の鈍い動きは、際立って不可解なのです。

しかし、政権交代間もないことを差し引いても、2ヶ月前にできたことが、同じような条件下でできないというのは、深刻なシステム不全といわざるを得ません。現時点では、まだ調査や分析が完了していないので、敢えて「不可解」ということにしておきましょう。与野党筆頭理事間の協議により、いよいよ来週火曜日から外務委員会審議が始まることになりそうです。この点も含め、政府を厳しく質すつもりです。
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