補選勝利でも薄氷を踏む政局

山口2区の補欠選挙で勝利を収めた。
衆議院の議席増は確かに喜ばしいことだ。
平岡さんは、党内リベラル派きっての論客であり、安保観や国家観などを異にするが、4度目のご当選を心から祝福したい。党内における政策の切磋琢磨こそが、民主党を強くすると信ずるからだ。

今回の補選の勝因は、ずばり敵失だ。
昨夏の参院選に引き続き、またしても敵失。
年金、道路に加え、公示日に年金から天引きが始まった「後期高齢者医療制度」(しかも、これを長寿医療制度に改名するとの絆創膏がまたしても失笑を買った)が、自民党における支持基盤の中核を形成していたお年寄りの皆さんの怒りを買った。有権者の審判を受けて、小沢代表は、「福田政権はすでに国民から問責を受けた形だ」との勝利コメントを述べた。

しかし、もう少し冷静に選挙結果を分析する必要があるのかもしれない。
投票率は、補選では異常に高く、通常の総選挙でも高めといえる69%余りに上った。投票率が65%を超えれば、自公連合軍の得票は野党統一候補を超えられないというのがセオリーだから、平岡さんの勝利は至極順当なものといえる。しかも、今回は共産党も候補者を立てなかったから、正真正銘の一騎打ちとなったことも、平岡さんの得票を押し上げる結果となったのだろう。

おそらく、次期総選挙もこの65%投票率をめぐって激しいせめぎ合いになるであろう。ところが、平岡さんの得票数は、あの厳しい05年総選挙に比べて1万3千票しか伸びていない。通常、追い風が強い場合は、3-4万票上乗せすることができるはずだ。(実際、前回の郵政選挙では、自民党候補者は前々回よりも3-4万票伸ばしている。)年金、道路、高齢者医療の3点セットの「追い風」の威力はさほどでもなかったということか。当然、1万3千票の中には、前回の選挙結果を受けて平岡さん自身が小選挙区奪還のために努力した分も入っており、次点バネも少なからず効いているはずだ。もちろん、共産党支持者も投票しているに違いない。それでも、1万3千票なのだ。

私自身の得票を見ても、小選挙区を落とした逆風下の前回選挙ですら、前々回に比べて1万7千票伸びている。(もちろん、歴代総理8人を輩出した保守王国山口と東京の有権者を同列に論じることはできない。)つまり、これだけ追い風が吹いているように見えても、有権者の投票行動にはさほど影響していないということなのではなかろうか。要は、補選に勝ったといって、このまま解散総選挙に持ち込んで政権交代が実現するほど現実は甘くないということなのだ。

たしかに、ネガティヴ・キャンペーンには訴求力という点において限界がある。洋の東西を問わず、有権者が求めているのは、批判や不満を掻き立てる扇動的な言辞ではなく、将来を見据えた処方箋を明らかにする「ポジティヴなメッセージ」だからだ。これが、いまの民主党に決定的に欠けていると思わざるを得ないのだ。これでは、解散総選挙に追い込んだとしても、政権奪取まで到達しないだろう。せいぜい互角の勝負というところか。これだけ満身創痍の自公連合軍を追い詰めながら、仕留められないのは、こちらの攻撃が敵の心臓を貫いていないからに他ならない。

敵の心臓を貫くというのは、同時に、有権者のハートを鷲掴みにすることだ。それは、単に「後期高齢者医療制度」を批判することではない。お年寄りの不安を煽ることでもない。政府与党に代わって、民主党なら医療制度の抜本改革をこのように実現し、医療財政も立て直し、見通しうる将来において国民に高齢者医療の心配はさせない、という代案を提示することしかないはずだ。そのためには、消費税率を何%上げる必要があるか、ということを率直に語りかけることだ。

残念ながら、民主党には未だそのような対案が完成していない。一方で敵失に付け込んで政局を動かしながら、他方では、少なくとも年金制度で4年前から提案している対案レベルのもの(ただし、3%消費税アップが必要!)を、医療でも、道路でも策定し、国民に信を問う準備を加速させるべきだ。そうでなければ、「解散ラッパ」は有権者の胸に響くどころか、空々しく響くに違いない。その場合には、山口2区で吹いた「そよ風」程度では、政権交代の熱気を巻き起こすことはできまい。まかり間違っても、(問責決議空振りで)長期審議拒否などという愚挙に追い込まれてはならない。そんなことをしたら、頼みの微風すら霧消し、やがて猛烈な逆風が襲い掛かってくることになろう。

有権者に納得してもらえるような政策をつくるのが私たちの仕事だ。近々、党内の同志議員とまとめた本格的な政権政策マニフェストを世に問うつもりだ。国民の皆さんにとっては辛口の内容も含まれているが、将来世代への責任を果たし、日本を世界で最も住みやすく、最も頼りになる国にするために必要な処方箋を描いたものになるはずだ。是非ご期待ください!
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採決棄権

国会議員になって初めて採決棄権した。

米軍駐留経費負担に係る特別協定の衆議院本会議採決だ。

読売新聞には、「納税者の視点と日米同盟の重要性との狭間で迷った末の判断」とのコメントが載ったが、明らかに舌足らずなので、補足しておきたい。

ところで、民主党が特別協定の継続に反対した理由は、大要以下のとおり。

第一に、2年前の改定の際に「賛成」の条件とした「米軍の更なる節減努力についての厳しい検証」が日本政府によって尽くされた形跡がないことに加え、このたび娯楽施設への支出など象徴的な無駄遣いの事例(大半は民主党の独自調査により判明)がマスコミなどで報道されたことにより、納税者の立場から(年金官僚や道路官僚の税金無駄遣いと同列に論じられ)、とてもとても賛成しにくい状況となったこと。

第二に、駐留米軍に対する同盟各国の負担割合において、我が国の負担が突出していること。「思いやり」が過ぎて「お人よし」になっているのではないか、との批判が高まったこと。具体的には、駐留する兵士一人当たりの負担(直接支援:労務費や施設整備費など)96,506ドルは、韓国(16,730ドル)の5.8倍、ドイツ(446ドル)の216倍、イタリア(289ドル)の334倍、NATO(716ドル)の135倍という事実。また、駐留経費の負担率についても、韓国40.0%、ドイツ32.6%、イタリア41.0%に比して、日本の74.5%が突出している事実がある。

第三に、沖縄の米海兵隊員による強姦未遂事件や横須賀での米イージス艦乗組員による殺人事件などが重なり、特別協定をめぐる審議の時期に米軍駐留に対する世論の反発が高まってしまったこと。

これらの反対理由には一理も二理もあり、現下の政治状況の中で、すんなり賛成することは難しかったというわけである。それでも、私は、政権を担い得る責任野党としては、「木(駐留米軍の無駄遣い)を見て、森(我が国の安全保障)を見失う」ことになるのではとの危惧を抱き、党内論議では次のように指摘した。すなわち、「有事のリスクは米国、平時のコストは日本」という日米同盟の基本構造を変革しない限り(具体的には、有事のリスクへの日本のコミットメントを増大させない限り)コストの細部に文句を言っても説得力はない。この年来の持論は同僚議員の一定の理解を得たものの、党の大勢を動かすには至らず、特別協定への反対が決定してしまった。しかし、特別協定に対し「ゼロか百か」(無駄遣いに眼をつぶって過剰な思いやり予算を続けるか、我が国の安全保障という本質論から眼をそらし協定を破棄するか)を選択することは余りに乱暴である。したがって、最終的に採決棄権のやむなきに至った。

これで、立法府の責任が果たされたとは言い難い。かくなる上は、参議院の審議を通じ、我が国の安全保障における米軍駐留の果たす役割の現状について十分考慮しつつ、米軍による経費節減努力を担保するような「新たなメカニズム」を特別協定の中に埋め込むような協定の修正を試みてもらいたい。そのための知恵を与野党で絞るべきだろう。そうでなければ、米軍駐留に対する日本国民のフラストレーションを鎮静させる道はない。それは、長期的には日米同盟を弱体化させることにつながる。したがって、本気で日米同盟を安定化させるには、同時に、我が国が、集団的自衛権の行使を含め有事のリスクに対するコミットメントを明確にした上で、日本側のコスト削減を米国に迫る正攻法を準備すべきである。
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