何が私を「菅総理即時退陣要求」へと駆り立てたのか


―斯くすれば、斯くなるものと知りながら、已むにやまれぬ大和魂(吉田松陰)

去る7月13日、私は7人の同志と共に総理官邸を訪ね、『菅総理の即時退陣を求めるの議』なる要望書を手交してまいりました。正確には、総理から面会を拒否され、官房長官からも断られ、結局仙谷官房副長官に手渡すこととなりました。

我ながら、ずいぶんと思い切った挙に出たものです。しかし、已むに已まれぬ思いで行動しました。3日間待って、官邸から何の音沙汰もなかったので、私たちは趣旨に賛同する11人の同志と共に、民主党所属の全国会議員に対し、菅総理の即時退陣を求める決起集会の開催を呼びかけ、16日午後32名の同志が集まってくれました。

400名を超える党所属議員からみれば、ほんの一握りの数に過ぎぬ地味な船出となりました。しかし、代理出席を加えればその数は70に迫り、「趣旨には大いに賛同するが事情があって参加できぬ。すまん!」と伝えてきた潜在的な同志の数は100を優に超えるでしょう。それでも、実際に行動する者は、いつの世でも少ないものです。覚悟はできておりますので、行動を共にできる同志の数で一喜一憂するつもりは全くありません。

私たちの行動に対し、党内外、国民各層に賛否両論があることは百も承知しています。被災地そっちのけで総理の足を引っ張るのは怪しからん、とのご批判も甘んじて受けます。しかし、後述するように、被災地の復興を妨げている張本人が紛れもなく菅総理であるとすれば、一刻も早くその障害を取り除き、挙国体制をつくって復興を加速させねばなりません。

さて、菅総理に対する批判は、すでに昨夏の参院選惨敗を受けて党内に広がっておりました。311大震災直前には外国人からの違法献金問題も発覚し、政権の余命は風前の灯と見られていました。そして、311以降の、とくに原発事故対処をめぐる官邸の不手際の連続が、菅政権および与党民主党の支持率を急速に蝕んで行ったのです。それが、6月2日の内閣不信任案をめぐる騒動につながって行くわけです。【無用な表現なので削除@ 2011-07-17 18:25】 しかし、その時は、私自身、菅総理に対する様々な思いはあったものの、所詮今の「衆参ねじれ」の政治体制の下で、総理大臣の首を挿げ替えたらすべてがうまく動き出すなどと考えるのは余りに短絡的ではないかと思っていました。

じっさい、原発事故対処が最も危機的だった3月下旬頃、細野補佐官(当時)をサポートする中で何度か総理とお会いする機会がありましたが、ほとんど睡眠していない様子ながら意気軒高で、即断即決の指示も的確、まさしく全身全霊を打ち込んで総理の職務に献身している姿に感銘を受けたものです。こういうことは、残念ながら昨今のマスメディアでは全く報道されませんから、国民の皆さんにとっては知る由もない。したがって、私も意気に感じ、原発事故対処をめぐって混乱に陥っていた現場の権限調整や、日米間の政策調整で微力を尽くさせていただきました。それこそ、「官位も金もいらぬ」(南洲翁遺訓)立場で。

内閣不信任決議案については、そもそも自分たちで選んだ総理大臣の首を、野党の提出した不信任案に便乗する形で討ち取りに行くのは、筋が違うとも感じていました。しかも、反主流派議員たちの怨念が渦巻くような不信任案同調の動きにも強烈な違和感がありました。ですから、総理のリーダーシップの在り方をめぐって野党の批判にさらされ、メディアや国民の間に不信感が高まり、支持者からも「黙って見過ごすのか?」などと日に日に批判の声が高まっておりましたが、具体的な行動については努めて隠忍自重してまいりました。

しかし、この隠忍自重も国家国民の大義の前には道を譲らざるを得ません。私たちが、この総理では駄目だ、との確信に至ったのは7月6日。衆議院予算委員会において、玄海原発の再起動をめぐり、原子力発電所を所管している海江田経産相と真っ向から対立する答弁を総理が平然とされた瞬間でした。総理が、従来の安全基準に加えて、EUですでに実施されているストレステストを再起動の条件とする、と言明したのです。当然、議場は騒然となりました。「ストレステスト」などという概念は、これまで総理の口からも経産相の口からも聞いたことがなく、政府部内で検討が進められているといった情報も皆無、与党内の議論でもほとんど俎上に上っていませんでしたから、唐突感は否めなかったのです。

何よりも、すでに6月18日、海江田経産相が原発の安全確認と再起動の条件などについて、国民に向け詳細な発表を行っていました。それに基づいて経産相が6月末に佐賀県を訪れ、古川県知事や岸本玄海町長らと会談し、誠に苦渋の決断ながら、我が国経済と国民生活の生命線である電力の安定供給を確保するために、玄海原発の再起動を容認していただいたばかりだったのです。かりに、それら一連の決定や経産相の行動に疑義があるならば、総理として経産相と徹底的に議論すべきことはもちろん、内閣官房をして政策の総合調整を図るべきでした。ストレステストがそれほど重要だと考えていたのであれば、すでに3ヶ月半も前から実行しているEUや国際機関IAEAと連携するなりして、もっと説得力ある形で国民も世界も納得できる打ち出し方があったはずです。しかし、残念ながら、総理がそのような努力を行った形跡はない。しかも、5月6日に浜岡原発を停止させた時、菅総理は確かに浜岡以外の原発は再稼働させると明言していました。ところが、いかなる動機に基づくものか、経産相による佐賀訪問から一週間余りの沈黙を破る形で突如「ストレステスト」なる概念を持ち出して、こともあろうに野党と対峙する最前線の予算委員会で、総理自らが答弁にあたる経産相の背中めがけて銃弾を浴びせかけたのです。

この瞬間に、菅内閣は音を立てて崩れ去りました。「最後の藁一本がラクダの背中を折る(The last straw breaks the camel’s back.)」という英語の諺がありますが、まさしく総理自らが内閣の一体性を破壊したこの発言こそ、「最後の藁一本」に価しました。たしかに、これまで私たちは、閣僚の不規則発言などで内閣の一体性が損なわれ辞任に追い込まれるケースを山ほど見てきました。しかし、内閣を統理する立場の総理大臣が自ら閣内不一致をつくり出し、政権を動揺させる事象は寡聞にして知りません。すなわち、「内閣が連帯して国会に(国民に)対して責任を負う」というのが議院内閣制の本旨です。我が国政治の基本的な原理を総理自らがぶち壊すという前代未聞の事態に陥りました。これがラクダの背を折る「藁一本」たる所以です。

結果として、いま国会で何が起こっているか。あの総理発言以来、すべての委員会で野党側は、総理大臣答弁を要求してきています。突き詰めればそうなるのが当然でしょう。経済産業委員会で経産相の答弁を聞いても無駄だからです。厚生労働委員会で厚労相の答弁を聞いても、総理が気に入らなければそれはただちにひっくり返される。所管大臣に聞いても無駄なのです。これはすなわち、総理の「独裁」ということです。各閣僚の最近の発言を聞けば、総理に対する不信感の根深さが伝わってくるでしょう。自ら選んだ閣僚と協力もせず、膨大な情報を有し政府を助ける官僚機構を無視して、総理大臣が独断で国家を統治することができると考えているとすれば、それは余りにも傲慢というものです。しかし、それよりも深刻なのは、我が国の議会制民主主義が文字通り機能不全に陥ってしまったことです。しかも、これは野党の底意地の悪さや非協力の姿勢でそうなっているのではありません。総理自らが招来した事態なのです。

長らく言われてきたことで、今更の感は否めませんが、この総理大臣の下では震災復興は動きません。なにせ国会も動かないのですから。しかし、被災地のことを思えば、一刻の猶予もありません。原発の再起動をどうするかは、我が国の経済産業を考えれば喫緊の課題です。悠長なことをして判断を先送りすれば、熱中症に苦しむ国民の生活はもとより、生産、操業計画を立てられない企業の海外移転が加速化し、産業の空洞化は不可避の情勢です。復興のために被災地に、資金と支援を一刻も早く届けなければならないのに、総理の居座りによって国会審議が渋滞し、必要な制度改正も財源確保のための赤字国債法案も成立のめどすら立たないのです。

大正12年、関東大震災からの復興を時の最大野党政友会が遅らせてしまったという故事を引くまでもなく、未曾有の国難にあって私たちは、何としても与野党を超えた挙国一致の政府でこの難局に立ち向かっていかねばなりません。しかし、内閣の一体運用もままならない菅総理に、与野党を束ねた挙国体制の運営を期待することはもはや不可能です。したがって、即刻退陣していただかねばならないのです。自ら選んだ総理大臣に対して、このようなことを申し上げるのは無礼でもあり、自己矛盾以外の何ものでもなく辛いことです。しかし、義を見てせざるは勇無きなり。一分でも一秒でも早く退陣されることが国益にかなう唯一の道なのですから、已むに已まれぬ思いで総理に対し即時退陣要求を突き付けさせていただきました。その上で、速やかに民主党新代表を選出し、遅くともお盆前には超党派の救国安定政権を創り上げ、被災地の復興と原発事故の収束、さらには日本復活に向けたオールジャパンの力を結集してまいる所存です。


平成23年7月17日

衆議院議員  長島 昭久
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


菅総理の即時退陣を求めるの議

『菅総理の即時退陣を求めるの議』 国益を考える会
平成23年7月13日

我が国統治の根本を踏み外し、国民生活、経済産業に致命的打撃を与える菅総理の即時退陣を求め、新しい体制の下で推進すべきエネルギー・経済政策を提言する。

1.菅総理の即時退陣を求める
今回の佐賀・玄海原発の再稼動をめぐり、菅内閣の機能は完全に崩壊した。菅総理は一旦自ら「浜岡原発以外は再稼動させる」と表明した。これを受け、海江田経済産業大臣は安全性を確認の上、玄海原発を再稼動させようとした。しかしながら、先日の予算委員会で、総理は海江田大臣の梯子をはずす形で、ストレステストの導入を再稼働条件として突如打出した。これは、政策の正否以前の問題として、もはや総理が内閣の一体的運営を自ら放棄したと言える。このような政府に対する信頼失墜は、震災被災地の住民にも蔓延しており、もはや菅総理の下での被災地復旧・復興、原発事故の早期収束、国全体の復興は実現不可能と断ぜざるをえない。
 それ故、菅総理の即時退陣を強く求めるものである。

2.新しい体制の下で取組むべきエネルギー・経済政策
(1)原発政策、原発代替電源政策については、短期と中長期に分けて考えるべきである。中長期的には、再生可能エネルギー普及促進策を早急に実行していくべきであるが、ベースロードとしての短期原発代替電源としては、最新技術、高効率の化石燃料電源、つまり天然ガス炊き複合発電や超超臨界圧石炭火力発電、中長期代替電源としては石炭ガス化複合発電などを促進するのが現実的である。これらの最先端技術発電はインフラ輸出の対象にもなりえ、化石燃料ではあるが地球温暖化にも貢献できる日本の強みの技術である。

(2)このように短中長期の原発代替電源の充実を図りつつ、原発比率を下げていくことには全く異存はない。しかし、現実を見据えた際、今夏、今冬、来夏の需給逼迫を乗り切るため、更には国民の生活水準の安定と企業の安定操業のためには、当面、安全性が確認された検査終了原発は早期に稼動させるべきである。すでに我が国は、法人税率高、円高、電気料金高のため企業立地が厳しい状況にある。その上、電力供給不安が重なれば企業は海外逃避し、結果、雇用が失われ、地域経済、国民生活は苦境に陥ってしまうからである。

(3)今次事故を受け、安全性強化策の不備、及び政策推進機関(経産省)とチェック機関(原子力安全・保安院)が同一大臣の指揮下にあったことなどは猛省が必要である。今後は原子力安全・保安院を中立的に独立させ、海外の専門家の知恵と経験を活用する形で大胆に改革すべきである。同時に、国会の下に原子力事故検証委員会を設けて、中立透明な形で福島原発事故の検証と今後の対策を検討すべきである。

(4)最後に、復興に向けた総合経済対策も喫緊の課題である。電力供給制約がかかる中で、経済活性化のための経済対策を早急に実行すべきである。就中、法人税率の大幅引下げ、拡張的金融政策、企業の自由な活動と産業活性化を促進する規制改革を強力に実行すべきである。

失墜した政府への信頼と統治機能を取戻し、国家の経営資産を総動員して被災地を復旧・復興させ、国民生活と産業経済を安定且つ活力あるものにするため、今一度、菅総理の即時退陣を強く求める。       以上


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )