東京とワシントンの激しい温度差

チェイニー副大統領、ライス国務長官、ゲイツ国防長官・・・小池防衛相がワシントンで華やかな社交気分に浸っているころ、東京では参院選後の冷厳な現実が静かに進行していた。

その温度差に官邸は気づいているのだろうか。ふと余計な心配までしてしまった。

金曜日の朝、民主党外務防衛合同部門会議。参加者は、新人議員も含め100人を超える(含む議員スタッフ)賑わいを見せた。この秋の臨時国会で最大の焦点となるテロ特措法延長問題に関する省庁レクが行われた。

型どおり、じつに型どおりのブリーフィングが内閣官房、外務、防衛各省から行われた後、各議員からこもごも質疑・・・答弁。全く新味なし。不満の声が漏れる。壊れたテープレコーダから発せられる空虚なメロディを聞くような、過去に何度も繰り返された答弁の焼き直しだった。参院で与野党の議席が逆転し、民主党の態度次第では、法律は廃止され、この6年間インド洋で活動を続け各国から評価を受けてきた海上自衛隊の活動は中止、撤退させられることになるというのに、そんな危機感や切迫感は全く伝わってこないのだ。

私からは、新人議員の皆さんも沢山入られたので、誤解のないようにとの思いから、敢えて我が党のこれまでのテロ特措法に対する姿勢について事実に即して復習させてもらった。すなわち・・・

(1)民主党は、6年前、米国の自衛権行使(に基づくアフガニスタン攻撃)を容認した。なぜなら、当時(911テロ直後)、国連決議1368によって示されたように、欧州やイスラム国をはじめ国際社会全体が自衛権行使を容認していたからだ。
(2)テロ特措法の骨格には賛成した。にもかかわらず、国会の事前承認を求め与野党協議に応じたものの、与党側からこれを拒否され、法案の採決で反対に回った。ただし、その後の基本計画に基づく「対応措置」についての国会承認には(数人の造反を出しながらも)党議として賛成した。
(3)過去3回の期限延長に反対した理由は、ひとえに「政府の説明責任が十分果たされていない」との理由から(で、「テロと闘う国際社会との協力」という法律の趣旨に反対したものではない)。

(余談だが、私のこの発言を聞いて、「「アフガニスタンはアメリカの単独戦争」「民主党は一貫して反対してきた」というこれまで聞いてきたことと事実は若干違うんですね!」と言ってきてくれた新人議員が何人もいた。)

その上で、2つ質問した。
(1)民主党が過去反対してきた最大の理由は、政府の説明不足になったことは明らか。とはいえ、派遣自衛隊や協力相手国の軍隊の安全に関わるような情報や、対テロ作戦上の国際的な軍事機密まで根掘り葉掘り聞き出そうとは思わない。社会保険庁に情報公開を迫るケースとは事柄の性質が異なることも十分認識している。そこで、過去6年間の活動実績のうち、現状の活動に直接関わるもの以外の、たとえば6年前、5年前、4年前の活動内容や実績、成果についての詳細な説明くらいは求められてしかるべきと思うが、いかがか?

(2)対テロ特措法の議論を対米協力の観点からのみ賛否を論じる近視眼的な議論がまかり通っているが、イラク戦争とは異なり、アフガニスタンでの対テロ国際協力は、米国のみならず、イラク戦争には参加していない独仏をはじめヨルダン、エジプト、UAE、トルコ、パキスタンなどイスラム諸国も参加する広範な国際協力だ。したがって、我が国の活動を中止、撤退することによっていかなる悪影響が及ぼされるかというのは、米国よりもむしろ欧州、イスラム国からの見解を十分検討する必要があると思うが、政府がそのような国際社会の声を国民に伝える努力をしている姿勢が全く見られないのは全く不可解。実際どのように把握しているか?

残念ながら、政府側からは、なんら説得力ある答弁もなされず、答弁準備もまったくできていなかった様子。ここで、おそるべき冷厳な事実が明らかになった。

役所は、安倍政権をすでに見限ってしまったようなのだ。

安倍総理が「どんなに厳しくとも使命をやり遂げる!」と絶叫し、自民党内が不協和音を克服し続投支持でまとまりかけている中で、(それを支えるべき)役所からは、臨時国会最大の焦点であるテロ特措法についてすら、民主党を説得し、何が何でも延長を勝ち取ろう、といった気迫ややる気は全く感じられなかった。相変わらずの型どおりの答弁、中途半端な情報公開、明らかに準備不足のレク・・・。小池大臣が米政府高官に「テロ特措法延長」を約束して回っているほぼ同時刻にである。

そういえば、社会保険庁の年金記録照合もまったく着手されていないと聞く。あれほど総理大臣が国民に明確な約束をしているにも関わらずである。また、原爆症認定基準の見直しも総理大臣が被爆者の皆さんに公約したが、厚生労働省は先月末に出た熊本地裁判決に対し、従来どおり控訴する意向を示している。総理大臣と真逆なことを平然とやってのける官僚たち。

レイムダックとなった安倍政権が、どこまで官僚たちを督励し、夏の間に政府説明の内容や姿勢を改めることができるのか、注視していきたい。小沢代表と会談したシーファー米国大使は、あえて「機密情報も提供する用意がある」と踏み込んだ。質疑に立つ私たちも、臨時国会に備え、国民が納得できるような情報公開を促す現実的なリストを絞り込んでおかねばならない。同時に、現行のテロ特措法をアップグレードするようなテロと闘う国際協力のための「新しい法体系」を構想し提案していかねばならない。

なぜなら、このたびの参院の与野党逆転が、確かに国会の活性化につながったことを、確かに民主党は政権担当能力を十分備えているのだということを、国民の皆さんに納得していただかねばならないからである。
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