質問主意書

先日のシーレーン安全確保に関する委員会質疑と同時並行で、政府に対し質問主意書を提出していたが、以下のような答弁書が返ってきたので読者の皆さんと共有しておきたい。

【質問主意書】
一 国籍不明の潜水艦が我が国領海内を潜没して航行することは国際法上どのように評価されるのか。

二 国籍不明の不審船の乗組員による公海上における刑法第百九十九条(殺人)の罪又はその未遂罪を構成すると認められる行為(自動小銃等による銃撃など)について、海上保安官が公海上で海上保安庁法第二十条第一項の武器の使用をすることが法的に排除されていないとすれば、そのような武器の使用は国際法上どのように正当化されるのか。また、憲法第九条が禁ずる「武力の行使」に当たることはないのか。

【政府答弁書】
一について 海洋法に関する国際連合条約(平成8年条約第6号)第20条において、「潜水船その他の水中航行機器は、領海においては、海面上を航行し、かつ、その旗を掲げなければならない。」と規定されてるなど、一般に、国籍不明の潜水艦が我が国領海内を潜没航行する行為は、国際法上認められない。

二について お尋ねの事例が定かでなく、一概に述べることは困難であるが、例えば、お尋ねの「国籍不明の不審船」が、国籍を有していない船舶である場合、海上保安官が、海上において我が国の法令上の犯罪を取り締まるため、海上保安庁法(昭和23年法律第28号)第20条第1項に基づき当該船舶の乗組員に対して武器を使用することは、国際法上問題となることはない。また、このような武器の使用は、憲法第9条が禁ずる「武力の行使」に当たらない。

(以上、引用終わり)

これで、海賊対処に関する第一ラウンドが終了した。
第一ラウンドの目的は、政府に対し(新規立法を必要としない)即効性のある対策の実行を促すことにあった。すなわち、ソマリア沖・アデン湾に向け日本関係船舶の安全航行を保障するために海上自衛隊の護衛艦を急派するのである。同時に、国連決議1816および1838に基づき創設される多国籍護衛艦隊に対し、P3C哨戒機を数機派遣して海上情報の提供・交換に当たらせるのである。その際、万が一海賊船から攻撃を受けた場合には、憲法上の問題を生ずることなく反撃対処し得ることが、今回の政府答弁書で担保された。

ここから先は、少々時間がかかる第二ラウンド。新規立法についての私なりの構想を踏まえた新たな質問主意書を準備し、明日にも政府に提出する。もちろん、新規立法については、解散総選挙を経て、(どちらが勝ったとしても)新しい安定政権の下で来年の通常国会において与野党協議を行うべきだと考える。しかし、自民党内では、新規立法に向けた党内論議が始まったようなので、こちらも代案の準備が必要。解散直前の忙しない時期ではあるが、我が国の国益を守るためやるべきことは山積している。
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海賊対策を政争の具にするべからず

あれれ、読売新聞ウェッブ版にこんな記事が。

「ソマリア沖への海自派遣、民主党は一転消極姿勢に」

 民主党の直嶋政調会長は20日の衆院テロ防止特別委員会で、アフリカ・ソマリア沖の海賊被害に対する海上自衛隊の派遣について、「衆院選が終わった後で責任ある議論をすべきだ」と述べ、法整備に関する与野党協議に消極姿勢を示した。

 海自派遣は、民主党の長島昭久氏が17日の同特別委で提案し、麻生首相の指示で自民党が20日の同特別委理事会で民主党に協議を申し入れた。にもかかわらず、直嶋氏が消極姿勢を示したのは、協議開始が衆院解散の先送りにつながるのを警戒したためだとみられる。

 一方、首相は20日夕の自民党役員会で、「海賊対策は大事だ。(海自派遣の)法案をできれば成立させたい」と語った。浜田防衛相も同日の特別委で、海自艦艇に加え、P3C哨戒機の派遣も検討する考えを示した。
(2008年10月20日20時52分 読売新聞)

おいおい、待ってくれ。
勘違いもはなはだしい。

私が提案したのは、いますぐ実行に移せる海賊対策だ。
法律をつくってなんて悠長な話ではない。
ソマリア沖・アデン湾の情勢はそんな時間的余裕のないほど緊迫しているのだ。
政府の現状認識はそれほど甘いものなのか?

私が提案したのは、現行法の下でやれること。
すなわち、警戒監視のためにP3C哨戒機を派遣するか、海上警備行動を発令して自国関係船舶のエスコートのために1-2隻の護衛艦を派遣することだ。
これらは、防衛大臣が決断すれば今日にでもできる。
まず、それをやるべし。

与野党協議で法案作り?
冗談じゃない。
何日かかるのか?
日本船主協会はじめ船舶関係者は、直ちに実効的な措置を講じて欲しいと訴えているのだ。
したがって、とりあえず緊急措置を実施すべし。
その後、解散総選挙を経て、安定政権の下で、現行法ではできないとされる「日本関係船舶以外の外国船舶の護衛」や「海賊取締り」や「対海賊武器使用」を可能にする新しい法律を作ればいい。

何でもかんでも政争の具にしないで欲しい。
麻生首相も呑気なこと言ってないで、まず、シーレーン安全確保のため海自派遣の決断を。そして、解散の決断を!
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麻生総理に対する最初で最後の質疑(?)

衆院テロ特別委員会の質疑に立った。
早期解散が取りざたされている中、麻生総理に対する最初で最後の質疑になるかも知れず、気合を入れて臨んだ。ただ、頭も体も完全に選挙モードになっている真っ只中での国会質疑だったので、正直しんどかった。

結果は、国民の皆様のご評価に委ねるほかないが、ソマリア沖で頻発する海賊被害に対する抑止のために、国連決議に基づいて欧州諸国と協調するかたちで武力行使の目的でない海上自衛隊艦艇や哨戒機の派遣を求めたところ、図らずも麻生総理から予想をはるかに上回る前向き答弁を得ることができた。

概要は、以下のとおりです。(民主党HPからの転載)

【衆院テロ特委】海賊対策、船舶の安全確保は火急の課題 長島議員

 長島昭久議員は、17日午後の衆議院テロ防止・イラク支援特別委員会で、海上における日本の国益を守るため今緊急に必要な政策は日本関係船舶の安全確保だという見解を示し、麻生首相らと議論した。

 冒頭、(1)我が国の安全保障をどのように確保するか、(2)テロとの戦いにおける国際的連帯で我が国がどういう役割を果たすべきか、――以上2点の本質的な議論をしたいと表明、首相は極めて似た問題関心を持っているとした。

 長島議員は続いて、まったく同じ法律の延長で政府は質疑を行っているが、この1年の国際環境の変化をふまえて考える必要があると指摘。(1)イラク情勢の安定化、(2)アフガニスタン情勢の深刻化、(3)米国の政権交代、(4)海賊の脅威急増を挙げて「アフガニスタンの陸上における本格的な支援協力を考える時期に来ている」と語った。

 また、ソマリア沖アデン湾の海賊脅威の拡大に言及して「1年間に起こった新しい現実を踏まえて、新しい法律案も含めて議論しなくてはならない」と対策の必要性を提起、民主党案提出者の見解を質した。提出者である浅尾議員は28条に規定していると答弁し、海上警備行動発令の法的枠組みを早急に検討する必要があるとした。首相は「海上警備行動としては極めて有意義だ」として、海賊被害対策として建設的な議論を進めることに前向きな姿勢を示した。

 長島議員は、海賊対策に関する国連決議について、共同提案国である日本の対応を中曽根外務大臣、浜田防衛大臣と議論。P3C哨戒機による警戒監視などの海上阻止活動は現行法のもとでも可能であるとして実効的な対策を求めた。海上警備行動の発令における地理的制約を問われた浜田防衛相は「任務達成に必要な限度において公海に及ぶ」と答弁。長島議員は「日本関係船舶が実際に海賊に襲われる事例が頻発する場合、当該海域を危険として海上警備行動を発令することは可能か」と質し、「ソマリア沖の海域が必ずしも排除されているものではない」とした。

 長島議員は、武力行使を目的とせずに派遣された海上自衛隊の護衛艦が船舶をエスコートすることについて海賊襲撃の抑止効果があるという見解を示し、国連決議の存在や欧州諸国の本気の取り組み例を挙げて「いつまでもただ乗りのそしりをうけるわけにはいかない」と主張した。

 政府案の燃料の無償提供については「間接的な協力貢献」、政府の進める沿岸国の能力強化については「中長期的課題」との認識を示し、直接的に日本関係船舶を自衛隊によりエスコートし、安全確保するための政策の立案が今緊急に必要で、海上における日本の国益を守るとした。麻生首相は「こういった提案をいただけるのはいいことだ。検討する」とした。
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土俵中央でがっぷり四つ

総選挙の日程が流動的だが、いずれにしても民主・自民互角の戦いだと思う。
週刊誌などでは、盛んに「民主圧勝・自民惨敗」との予測を書き立てるし、自民党の内部調査結果も同様の情勢を示しているようであるが、選挙区を歩いたり、(選挙区外の)友人と話した「実感値」としては、ほぼ互角。民主圧勝などという甘い期待は禁物だ。

それでも、結党10年で良くぞここまで来たものだ。
選挙のたびに「政権交代」と呪文のように唱えてきたが、言ってる方も聞いてるほうも今回ほど現実味を帯びている時はないように思う。それほどまでに自民党政治が行き詰まっていることもさることながら、我が民主党が「政権公約マニフェスト」に「工程表」を付し、裏づけとなる「財源」まで示して総選挙に臨むのもこれが初めてだ。

断っておくが、予算権は内閣が持つ。憲法にはそう書いてある。したがって、敢えて我が民主党が予算の優先順位を示しその財源まで言及することは、「サービス過剰」ともいえる。議院内閣制で、マニフェスト選挙の先輩国であるイギリスでも野党がそんなことまでしない。有権者もマスメディアも、野党にそんなことまで要求しない。しかし、幸か不幸か、我が国では、それが総選挙の争点となってしまった。工程表と財源を示すということは、巨大なリスクを伴う。これまでのいい加減な選挙公約では、公約達成度の検証は不可能だったが、今度ばかりは逃げられない。次の国政選挙で、がっちり検証され、達成度が低いと判断されれば、有権者から見捨てられる。

そこまでのリスクを抱え込んででも、国民有権者に政権奪取・政権運営への「本気度」を示さねばならない。そこが問われる今度の総選挙なのだ。私たちも真剣勝負。ぜひ有権者の皆さんも真剣勝負で民主党と自民党を見比べていただきたい。そして、現在の生活者のみならず将来世代のために「最善の選択」をしていただきたい。

土俵中央でお互い両回しを引き付け合いがっぷり四つだ。
引き落としや肩透かしなどするまい。
腰を落とし、「老横綱・自民党」をじわじわと寄り立てて、これを寄り切るか、土俵の外に突き出すか、吊り出すか・・・いずれにしても横綱昇進を賭けた「東の正大関・民主党」の勝負はこれからの1ヶ月だ。
歯を食いしばって必死で頑張るのみ。
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異能の政治家・田中康夫

田中康夫は、異能の政治家だ。
博覧強記にして、物事の本質を鋭く掴み、しかも表現能力が抜群だ。

じつは、彼が長野県知事選挙に挑戦した頃までは、偏見もあり人物的には余り好感を持っていなかった。だから、家内の実家がこぞって田中康夫候補を応援すると聞いて、普段はあれほど保守的な義父もマスコミに踊らされているのか、また、それほどまでに官選知事のもたらした弊害は深いのかと感じたものだった。

それにしても、昨日の田中康夫参議院議員の代表質問は圧巻だった。
麻生総理はじめ閣僚に対する痛烈な皮肉をこめた抜群のレトリックに加え、自民党政治の弱点を徹底的に突きまくった。しかも、知事時代の経験に裏打ちされた批判は、批判のための批判ではなく、なぜ自民党システムでは税金のムダ遣いがなくならず、国民の生活がよくならないのかを誰にもわかるように明らかにして見せた。

ところで、この名演説をほとんど報じない新聞とはいったい何なのか?
国民に伝えるべき事実も伝えないのは、恐ろしいまでの怠慢か感覚が完全に麻痺しているのであろうか・・・。

何はともあれ、以下、ハイライトをぜひお読みいただきたい。
(実際の映像は、新党日本のホームページからご覧になれます。)

(引用はじめ)
敬愛する小沢一郎さんが代表を務める民主党と、参議院で統一会派を組ませて頂いております、私は、新党日本代表の田中康夫です。

(中略)

 今日日、絶賛を博すTVドラマとて1クール13回。視聴者からソッポを向かれれば途中で打ち切りも辞さぬ即断即決の御時世に、都合17回にも亘って延々と水増し挙行された、季節外れの9月・長月“ええじゃないか”盆踊り全国顔見せ興行の場で麻生太郎さん、貴男は繰り返し、宣いました。「日本の最大の問題は不景気だ」、と。

 而して、今週月曜日には所信表明演説で、声高らかに宣言されました。「日本経済は全治3年。3年で日本は脱皮出来る。せねばならぬ」と。
 その言や善し。が、一向に不景気から日本が抜け出せぬ「最大の理由」こそは、自由民主党が死守し続ける過去の成功体験、もとい既得権益に寄り掛かる政治家・官僚・業界、所謂「政官業」利権分配ピラミッドの存在に帰因するのではありませんか? 而して、麻生太郎さん、貴男は、その慨嘆すべき惨状に対し、余りに無自覚なのではありますまいか?

(中略)

 私は2000年10月、信州・長野県の知事に就任しました。戦後の公選知事は、私以前に僅か3人。前任2人の公務員出身者が41年6ヶ月、議員と職員と知事の“仲良しピラミッド”を続ける中で、財政状況は47都道府県でお尻から数えて2番目の状態に陥っていました。借入金に掛かる利息の支払いだけでも、1日当たり1億4800万円に達していたのです。そのまま手を拱いていたなら、3年後にも財政再建団体への転落は不可避。待ったなしの危機的状況でした。

「『脱ダム』宣言」を切っ掛けに不信任決議を議会から突き付けられ、失職を経て出直し知事選に打って出た私は、都合6年間の在任中に、後述する様々な取組を実行し、その結果として、47都道府県で唯一、6年連続で起債残高を減少させ、同じく全国で唯一、7年度連続で基礎的財政収支=プライマリーバランスの黒字化を達成しました。

 無論、その成果は、住民や職員の深い理解と篤い協力が有ったればこそです。その間、 “現場主義・直接対話”の精神で職員や住民に、「発想を変え・選択を変え・仕組を変えよう」と訴え続けました。

 ヤマト運輸株式会社“中興の祖”として知られる小倉昌男さんを委員長に起用し、天下りと補助金の伏魔殿と化していた全ての外郭団体をゼロベースで見直したのも、その一環です。委託料・補助金・負担金と職員派遣の全面的見直しに留まらず、団体の廃止・統合・縮小を敢行し、見直し比率は既存54団体の96%にも及びました。それは、今は亡き小倉昌男さんが最後に手掛けた公的仕事です。

 翻って国政に於いて、スケープゴート的に「私のしごと館」のみを見直しても、それはガス抜きにすら、なりますまい。

 省庁を退官した翌日から移籍可能な、独立行政法人なる組織の大半は、“天下りマネーロンダリング機関”と化しています。2年間、恙無き人生を過ごせば、建設会社や製薬会社等の役員に転出するのはノー・プロブレーム、何らお咎め無しなのですから。

 入札改革も、同様です。公共事業に留まらず、全ての分野の事業で不透明な随意契約、更には弱肉強食・優勝劣敗を齎す指名競争入札を廃止し、公明正大・切磋琢磨の一般競争入札を全面的に導入しました。限りなく100%に近い談合状態だった落札率は、47都道府県で最も低い、8掛け前後へと落ち着きました。

(中略)

 複数名の知事が談合で逮捕されたのを受けて全国知事会は、1000万円以上に限っては一般競争入札制度を導入せよ、と2年前に取り決めました。が、現段階でも導入は半数にも満たぬ22道府県に留まり、仮に1800万円の事業を2分割発注すれば依然として不透明な随意契約も可能なのです。

(中略)

 而して、「安心実現」なる四文字言葉とは裏腹に、今回の補正予算提出に先駆けて貴男は、公債追加発行額3950億円、財政投融資計画の追加額1778億円を閣議決定されました。「国・地方の基礎的財政収支=プライマリーバランスを黒字にする。2011年度までに成し遂げる」と所信表明の原稿を自ら音読しつつ認(したた)めた、その舌の根の乾かぬ内に。

 成る程、貴男の先先先代に列して居られたライオンヘアの宰相も、その勇ましい大言壮語とは裏腹に、在任中に250兆円も日本の借金を増大、即ち日本の財政を悪化させました。“隠れ埋蔵金”ならぬ“隠れ負債額”も加えれば1000兆円に達する日本の借金の、4分の1を僅か5年半で達成するとは、いやはや。「構造改革」という名の羊頭狗肉、ここに極まれり。今年1月31日の予算委員会で、“なぁんちゃって小泉・竹中へなちょこ改革”と私が命名した所以です。

 若しや、麻生太郎さん、その“三百代言”内閣で総務大臣として、欺瞞に満ちた「三位一体の改革」とやらを全国の地域に強要した経験を活かして、嘯く心算(つもり)ではありますまいか。「この借金よ、届けと念じます。ともすれば、元気を失いがちなお年寄り、若者、いや全国民の皆さん方のもとに」と。成る程、1000兆円に達する天文学的数値の借金返済は早晩、真っ当に働き・学び・暮らしながらも、将来の人生設計は疎か、今、この瞬間の生活環境にすら、夢も希望も抱けぬ全国津々浦々の方々の、更には、これから生まれ来る子供達の双肩にのし掛かってくるのです。

「日本と日本人の底力に、一点の疑問も抱いたことがありません」と仰る麻生太郎さん。この私は、「貴男と自由民主党の馬鹿力に、一点の期待も抱きかねるのです」。

 その上で、「財源を明示して頂きます」。貴男が、所信表明演説(失礼、読み間違えました。所信「挑発」演説)で宣(のたまわ)った詰問を、心ならずも私も、行わねばなりません。何となれば今回、財務大臣に貴男が任命し、29日の本会議で貴男に引き続いて、補正予算案を説明する財政演説を行った中川昭一さんは、「日本経済復活のための13の政策」と題して月刊誌に、長尺の論文を発表されているからです。

 而も、その本文中に示された見出しは、「国民を犠牲にする改革は本末転倒」、「減税や財政支出も躊躇するな」と始まり、「高齢者への対策」、「母子家庭への対策」、「フリーターへの対策」、「正規雇用者への対策」と続きます。正しく片腹痛し。私は今一度、目次頁を眺め直しました。若しや、「財源無視宣言」と副題を冠してはいまいか、と。

 同様の懸念を抱いたマスメディアの表現者も居たらしく、これらの政策提言を実行するには総額21兆円余りの財政出動を要する、との試算を報じています。いやはや、目糞鼻屎は一体、何方(どちら)でありましょう? 改めて、「財源を明示して頂きます」。中川昭一さん、明確な答弁を頂戴致したく存じます。

 が、山国に於ける私の経験に照らせば、「財源論」こそは不毛な議論に他なりません。求めるべきは、財源を示す・示さぬの二元論を超えた発想と実践。景気回復と財政再建は、何れを優先するかの二律背反的二元論ではないのです。
 但し、その為には、義務費若しくは経常費と呼ばれる、人件費を含む全ての事業の全ての予算を、その起案作成段階からゼロベースで見直さぬ限り、「『改革のための改革』を止めよ」と緊急提言された中川昭一さんが主張される「国民生活を守り、しっかりとした経済成長を実現する」など到底不可能です。

 何故、こんな事業が存在するのか。何故、こんな補助金が温存されているのか。知事就任当初の私は毎日が、恰も子供・少年探偵団の気分でした。何故何故どうして、とガラス張り知事室でも視察先の現場でも、尋ねっ放しでした。が、その大半は、あろう事か、財政担当者や事業担当者に質問しても、要領を得ないのです。暫し時間が経過して、私には見えてきました。それは、県会議員であったり、商工団体であったり、農業団体であったり。長年に亘って既得権益として確保され続け、毎年の予算編成時にも、再検討の遡上にも上がらずに温存されてきた予算と事業なのだ、と。

「変化を乗り切って大きく脱皮する日本人の力を、どこまでも信じて疑わない」と仰る麻生太郎さん。その日本のモノ作り産業が、数多の困難を乗り切って大きく成長し続けてきたのは、「脱シーリング」の発想に基づく選択と仕組を実践し続けたればこそです。

 予算編成時に政治・行政の世界で飛び交う「シーリング」なる符丁。言わずもがなの解説を加えれば、シーリングとは天井を意味します。歩道の整備であれ、訪問介護の充実であれ、1箇所100万円の事業を10箇所で実施する。総事業費は1000万円です。けれども現下の厳しい財政状況下、一律2割カットの予算シーリングが課せられると、個別事業費の単価はそのまま、実施箇所のみ2箇所削減。これが官公庁の発想なのです。

 モノ作り産業に代表される民間企業の場合は、異なります。個別事業費の単価を減らして、実施箇所は維持する。即ち1箇所80万円×10箇所=総事業費800万円で実施するのです。無論、安かろう・悪かろうでは消費者からしっぺ返しを食らいます。量のみならず質も維持するべく、智恵と努力をチームワークで結集せねばなりません。

 傍聴席の方のみならず、テレビやラジオ、パソコンの前の皆さんも、疑問に思われるでしょう。当たり前の事が何故、政治や行政では出来ないのだろう、と。
 理由は至極、単純です。中央・地方を問わず、官公庁とは随意契約の世界なのです。

(中略)

 環境行政を所管する斉藤鉄夫さんにお尋ねします。9月11日、蒲島郁夫熊本県知事は、国土交通省が計画する川辺川ダムの建設に反対すると表明しました。
 2001年2月20日、9つの県営ダム計画を中止すべく「『脱ダム』宣言」を発し、爾来、徒手空拳の闘いを続けてきた私にとっても、感慨深い1日でした。何となれば、彼は政府与党の全面的支援の下に当選した知事だからです。「『脱ダム』宣言」から7年半、時代は着実に変化を遂げています。

「脱ダム」とは、環境問題に留まりません。御存知かどうか、国が実施主体の直轄事業とて、地元自治体の財政負担は3割近いのです。加えて、ダムに象徴される巨大公共事業は、総事業費の8割前後が東京や大阪に本社を構えるスーパーゼネコンに支払われます。詰まり、地元は1割も持ち出し。巨大公共事業の絡繰りとは実は、“租庸調”の時代の如き、上納・献上システムなのです。ダム建設とは今や、「地方経済」を回復させるどころか逆に疲弊・破綻へと追い込む、河川に染み込む毒薬メタミドホスです。

(後略)

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