今こそ、日本の外交戦略を問い直す!

 ISIL(自称「イスラム国」)による邦人人質事件は、外交の舵取りの難しさを改めて考える契機となりました。自ら掲げる「積極的平和主義」の旗印の下、安倍首相は年初の中東歴訪によって、国際テロとの闘いを前面に打ち出しました。とりわけ、中東地域の安定を脅かすISILと戦う周辺国への資金援助を表明したことは、これまでにない積極的な外交姿勢を内外に印象づけることとなりました。ただ、同時に、安倍首相の言動がISILに対し、拘束中の日本人の命と引き換えに国際社会に向かって存在をアピールする口実やきっかけを与えてしまったのではないかとの批判も浴びています。実際、ISILは「日本は十字軍に加わりISILに敵対する選択をした」と盛んに喧伝しています。

外交において「政争は水際まで」

 私は、中東地域に対する歴代政権の首相や外相の演説や首脳会談の記録を読む限り、批判されている安倍首相のエジプトでの演説内容がとくに踏み込んだ(これまでの外交姿勢を踏み外した)ものであるとの印象は持ちません。ましてや、その英訳が挑発的だったとの指摘は当たらないと考えます。ただし、この時期に、敢えて中東を歴訪しISILとの対決姿勢を鮮明にすることが我が国の国益と外交の優先順位に照らして適切だったか否かについては冷静に検証する必要があると考えます。

されど、外交に事後検証は不可欠

 まず、メリットですが、我が国エネルギーの大半を依存している中東の安定化は、我が国経済にとり重要です。しかも、その安定を損ねる最大の脅威がISILであることも自明です。また、今回歴訪の目的の一つであったパレスティナ和平への寄与は我が国が長年取り組んできた中東貢献策の柱でもあります。過激主義を排し宗派和解により安定化を実現すべきとの安倍首相の「中庸」演説は、国際社会から高い評価を受けました。しかし、同時にこのような積極外交の推進には、必然的にコストやリスクが伴います。日本人に対するテロリストによる直接の脅威は今後ますます拡大し、中東から8000キロも離れた日本といえども決して対岸の火事では済まされなくなりますし、2020年にオリンピック・パラリンピックを開催する日本および日本人が危険にさらされる確率は今後さらに高まって行くことでしょう。

「積極的平和主義」のリスクも自覚すべし

 最大の問題は、そのようなコストやリスクに対する日本国民の覚悟や備えが十分であるのかどうかです。安倍首相の標榜する「積極的平和主義」は、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献して行こうという外交理念です。「これまで以上に」と言うからには、これまでに経験したことのないリスクやコストを国民が覚悟しなければならないことを意味します。国民の覚悟のみならず、国民を守るため政府として想定されるリスクに対して的確に対処し得る法制度や危機管理体制を整備することも重要です。そのような十分な体制を整えるためには、予算や人員を投じ適時適切な方策を講じて行かねばなりません。そのつど、国会論議などを通じて国民の理解を得る努力も必要です。今回の中東歴訪で積極姿勢を表明するにあたり、安倍首相から国民の認識を新たにするような説明や、危機管理や情報収集における特段の体制強化がなされたとは言えないように思います。

『国家安全保障戦略』(2013年)の基本に立ち返れ

 そうした政権の外交方針を内外に明らかにする基本文書が『国家安全保障戦略』です。しかし、その戦略文書を読んでも、テロとの闘いや中東地域へのコミットメントの優先順位はそれほど高くない。むしろ、中国の台頭によって脅かされているアジア太平洋地域の平和と安定に対する我が国の役割の拡大や日米同盟の深化や韓国、豪州、インド、ASEAN諸国との連携強化の方がはるかに優先順位の高いことがわかります。それは、我が国の国益と国力の制約を冷静に考えれば、きわめてリーズナブルな結論といえます。為政者は、「積極的平和主義」という理念が、何でもかんでも積極的に関わろうとする外務省の地域政策担当者の衝動(これは決して悪いことではありません)を抑えきれなくなる危険性があることを強く自覚すべきです。経済再生とアジア太平洋地域の平和と安全の確立という大事業を一方に抱えながら、中東の複雑な地政学的パワーゲームに長期にわたって首を突っ込むような国力の余裕が、今の日本にあるのかどうかも冷静に自問すべきです。米国ですら、イラク戦争という無謀な戦線拡大がもたらした巨大なツケにこの10年以上も悩まされてきたのです。

真の戦略的外交をめざして

 外交戦略において最も重要なことは、持てる資源や国力の制約と国民の意思を冷静に分析(もちろん、必要なら資源配分を変えたり国民を説得すべきです)した上で、国際社会の期待や外務省の意欲を考慮しつつ、国益を最大化し得る対外政策の優先順位を決定することと考えます。その意味で、官邸における首相を中心とする国家安全保障会議(NSC)による役所の縦割りを排した大局的な判断が極めて重要です。私たち野党としても、現実的な国益を見据え、真に戦略的な外交を展開して行くために、我が国に必要な冷静な観点を見失うことなく、政府に対し引き続き建設的な批判や政策提案を重ねて行くつもりです。

衆議院議員・民主党「次の内閣」外務大臣 長島昭久

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新しい年を迎えて ― 年頭の決意

新春のお慶びを申し上げます。
昨年は、師走の総選挙をはじめ大変お世話になりました。選挙結果は厳しいものでしたが、お陰さまで5期目の国政へと送り出していただくことができました。全国民の代表としての責任の重さを噛み締め、国家国民のため粉骨砕身働いてまいる所存です。

さて、昨年の衆院選挙は、史上最低投票率を更新しつつ、安倍首相の目論見通りその政権基盤をさらに強固にする結果となりました。しかし、与党候補の得票は有権者総数の17%に過ぎず、安定的な政権基盤を確保したように見えて、その実態は思いのほか脆弱なのかもしれません。すべては、政策遂行の結果次第だといえます。アベノミクスは正念場を迎え、原発の再稼働やTPP交渉への困難な政治決断、さらには戦後レジームからの脱却を目指す安倍外交が戦後70年を迎える国際社会と深刻な軋轢を生む可能性もあり、内外にわたり年明けから予断を許さぬ情勢です。

一方、巨大な与党勢力に立ち向かう野党にとっても今年は正念場を迎えます。昨年の総選挙でも「一強多弱」の状況を転換することはできませんでした。そのような中で、野党改革勢力の中軸を担うべき民主党の代表選挙が年明け早々に行われることは、まさしく千載一遇の好機と捉えたいと思います。新しい時代にふさわしい清新なリーダーを選び、安倍政権と正面から対峙して行く態勢を整えるべきです。

新しいリーダーの下で、野党とはいえ反対のための反対を叫ぶ無責任野党ではなく、明確な将来ヴィジョンを示し、それを実現するための具体的な政策体系を練り上げ、改革野党を束ねるガヴァナンスを再構築し、建設的な議論を通じてより良い社会をつくり上げ将来世代への責任を果たす健全野党の再結集を図るのです。その最初の試金石が、1月26日に招集される通常国会における野党共闘にあることは言うまでもありませんし、4月に控える統一地方選挙への取り組みも重要です。

その際、改革勢力において共有すべき日本の将来ヴィジョンは、第一に「暮らしの充実」に焦点を当てた経済政策、第二に一人ひとりの能力を最大限発揮できる社会の実現を目指した「人への投資」(子育て、教育、先端研究開発)の強化拡充、第三に戦後70年を迎える国際社会と調和し得る歴史を直視した現実的な外交・安全保障政策、第四に地域の特色や強みを生かした大胆な地方分権の推進、第五に地球規模の深刻な課題(水、食料、エネルギー不足や環境破壊)を解決するための革新的な技術基盤の確立などです。これこそまさしく「未来に誇れる日本」を実現するヴィジョンに他なりません。

こうしたヴィジョンを実現するためには、短期的な景気の動向に一喜一憂するのではなく、人口減少や財政赤字や資源エネルギーをめぐる脆弱性などといった我が国の構造問題に正面から取り組む政治の勇気と覚悟が求められます。何よりも、改革を拒み将来世代にツケを回し続ける既得権益や旧い政治構造と正面から闘い抜く決意をせねばなりません。そして、国政5期目を迎えた今年、私は、これまで力を注いできた外交・安全保障政策のみならず、「未来に誇れる日本」を創り上げるための体系的な政策づくりに取り組んで参ります。昨年2月に立ち上げた政策グループ「国軸の会」の同志と共に研鑽を積み、今年こそ私自身が政治家としての矜恃を国民の皆さんに示す覚悟の年としてまいる所存です。変わらぬご支援のほどよろしくお願いします。

平成27年乙未 元旦

衆議院議員 長島昭久

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