広島土砂災害、もはや想定外では済まされぬ

「次の内閣」防災担当相として、政府の危機管理体制を質す

 去る8月22日、私は、モンゴルから帰国した翌日、急きょ広島入りし、発災直後の災害現場を視察し、8月28日、衆議院災害対策特別委員会における閉会中審査で質問に立ちました。私が質したポイントは以下の3つです。第一に、初動における首相官邸の危機管理体制の不備について。第二に、地方自治体の災害対処能力と住民の安全確保について、第三に、「土砂災害防止法」(2001年施行)の限界と改正の方向性について。

緩慢だった首相不在の官邸危機管理機能

 第一の首相官邸における危機管理体制の不備について、私は、首相のゴルフをめぐる「揚げ足取り」のような質疑は極力控えました。しかし、私は、改めて災害対処における初動を時系列でたどり、首相不在の官邸機能が著しく緩慢であったことを突き止めたので、その点を質しました。

 質疑を通じて次のことが明らかになりました。今回の土砂災害は、当日の未明午前3時20分ごろ発生。広島市による避難勧告は4時15分。直ちに官邸に情報連絡室が立ち上がりましたが、山梨県鳴沢村の安倍首相の下に情報が上がったのは、2時間後の6時15分でした。その間に、広島県は土砂崩れにより複数の人々が生き埋めになっている情報を公表(4時30分)、気象庁は警戒態勢に入り(6時)、NHKは「広島市で土砂災害、2人不明、7人と連絡取れず」と速報(6時6分)していました。その後、6時30分に関係省庁に対し「総理指示」が発出されましたが、この時点で、災害対処を統括指揮する危機管理監が官邸に到着していないことが判明。そのためかどうか、肝心の総理指示がマスメディアに伝わることなく2時間も放置され、それがマスコミにFAXされたのは2時間後の8時30分、緊急参集チームが官邸にそろったのはどうやらその30分前だった模様。結局、その間に安倍首相はゴルフを開始してしまいました。

政府も危機管理の不備を認め、改善を約束

 危機管理には、具体的な危機対処とともに政府の姿勢と対処内容を国民に周知する「クライシス・コミュニケーション」が重要な柱です。これは、私たちが、あの「3.11東日本大震災」の時に痛感させられたことでもありました。私の指摘に対し、官邸危機管理室の事務方はミスを認め謝罪、答弁に立った加藤勝信官房副長官も、危機管理上の不手際を認め今後改善することを明言しました。

異常気象を「異常」と捉えず、全国の防災計画を総点検すべし

 第二の課題は、広島市による避難指示の致命的な遅れについて。広島市では、15年前の教訓も踏まえ、「避難基準雨量」という避難勧告にあたっての独自の新基準も定め詳細なマニュアルを策定していましたが、災害担当職員の未熟さからか判断が決定的に遅れてしまいました。これは、広島市だけの課題ではありません。じっさい、8月25日に起こった北海道礼文町の土砂災害では、北海道庁からの再三の勧告にもかかわらず礼文町は遂に避難勧告を出すことすらできず、二人の犠牲者を出してしまいました。このように、自治体による地域防災計画は、国の責任においてもう一度総点検すべきです。しかも、ここまで「異常気象」が連続して襲いかかって来るようになっているのですから、もはや「異常」という意識は捨てて、この現実を直視し、全国津々浦々における災害に対する自助、共助、公助の在り方を抜本的に見直す必要があることを政府に対し特に要請しました。

土砂災害防止法の改正は急務

 第三の課題は、現行の土砂災害防止法の限界について。この法律は、15年前の同じ広島市で起こった土砂災害(土砂崩れ300カ所、31人死亡)の教訓から制定されたものです。全国の地質・地形調査を通じて認定した「土砂災害危険箇所」(52万箇所余)をそれぞれ危険の度合いに応じて「警戒区域」「特別警戒区域」に指定し、土地利用規制や住民退避の防災計画に活かして行こうという趣旨です。しかし、今回の災害発生地区はいずれも「危険個所」と認定されながら、警戒区域に指定されていなかったのです。したがって、広島市の避難指示も遅れ、住民にもそれほど危険な地域に住んでいると言った自覚が希薄だったのです。これが今回70人を超える死者を出してしまった直接の原因といえます。

災害対策に与党も野党もない

 私が土砂災害防止法の限界を痛感したのは、この警戒区域指定に基づく土地利用規制がすでに宅地化されたエリアには及ぼすことができず、じっさい移転勧告が出た例は全国でもないということからです。今回の安佐南地区は昭和46年から宅地造成が行われ、その後「危険箇所」であることが判明しても、警戒区域指定もなされぬまま、しかも、県営住宅まで建てられ(あたかも、県が安全性のお墨付きを出しているかのような印象を与え)、住民の方々は危険性を十分に認識できていなかったのです。以上の事実を踏まえ、私からは、この際土砂災害防止法の改正を行い、現状37%(全国平均68%)にとどまる警戒区域指定手続きの促進と、危険箇所であることを住民に周知徹底させる具体的施策を講じるよう古屋防災担当大臣に強く要請しました。

 今後とも、「次の内閣」防災担当相として、国民の生命と生活を守るため全力を尽くしてまいります。

衆議院議員 長島昭久
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