月影の きよきねがひも 萎えはてて マルスは目覚め ウェヌスは眠る
*これは、かのじょの「ふゑのあかぼし」にあったこの歌を元にしてありますね。
天暗き 千歳の夢も とひつきて ウェヌスは目覚め マルスは眠る
「ふゑのあかぼし」はボッティチェリとのコラボでつくられた歌集ですが、たしかこの歌には「ヴィーナスとマルス」の絵が添えられていました。目覚めている着衣のヴィーナスと、裸のまま眠っているマルスが描かれている。
歌の意は、ウェヌスを愛、マルスを暴虐の隠喩ととらえて、長い暗黒の時代が終わり、愛の時代が始まるということですが、それを逆手にとって、表題の歌はこう言っているわけです。
愛の時代が始まるという、月にたとえられる人のきよらかな願いも萎え果てて、今度は正義と戦いの星マルスが目覚め、ウェヌスが眠る。
愛の星であったかのじょはもう眠り、馬鹿どもを制するためにマルスにたとえられる獅子の星が目覚めるのだ。
絵の中ではマルスは眠りこけていますが、しかし目が覚めている彼ほど怖い存在はない。愛ですべてを救おうとしていたウェヌスが、馬鹿どもにどんな目にあわされたかを知った時、怒り心頭に達して、やりはじめる。
彼はウェヌスのようにやさしくはない。愛で倒れるまで我慢してくれるなんてことはない。痛いことをする馬鹿どもには容赦なく鉄槌を下す。反動を当然のこととかぶりながらどんどん進んでくる。
男を甘く見ると大変なことになる。
絵の中のマルスのように痛い男がいつまでも眠りこけていると思ったら大間違いだ。
表題の歌は、もちろん獅子の星の作です。おそろしい天使の作です。これから、いえ今も、馬鹿どもは彼に恐ろしい目にあわされているでしょう。