ムジカの写真帳

世界はキラキラおもちゃ箱・写真館
写真に俳句や短歌を添えてつづります。

鳴くかひ

2018-02-26 04:19:04 | 短歌





さざなみの 夜のしじまに 鳴くかひの 痛きこころを とほく聞く月





*「ささなみの(細波の)」は「寄る」や「夜」、「あや」「あやし」などにかかる枕詞です。特定の地名などにもかかるが、そういうのは使いにくいので、現代でも使える部分を採用しましょう。
本当は「ささなみの」なのだが、後世「さざなみの」になった。どちらでもかまいません。自分の感覚にここちよい方を採用すればよい。

ここでは「夜」を読んでいるが、「かひ(貝)」があるから意味が生きますね。

さざ波の寄せる浜辺で、夜のしじまに鳴いている貝の、聞こえずとも聞こえる痛い心を、遠くから月は聞いている。

わたしたちが今住んでいるところは、海が近くにあります。夜にふと目を覚ますと、遠く潮騒の音が聞こえる時がある。

かのじょはよくその音を聞いていました。聞いているうちに、誰かが自分を呼んでいるとさえ感じることもあった。

潮騒の声に紛れて、誰かが自分を呼んでいるような。

かなしいことばかりが多い人生でしたから、不確かな望郷の念をいつも感じていたかのじょには、潮騒の音がそう聞こえたのでしょう。

「貝」というのは、白玉のような大事なものを秘めて、いつも閉じて黙っている。それに、かのじょは美しい夢を秘めつつ、何も言わずに生きている自分の心に似たものを感じていました。

貝の中に魂を隠し、貝の琴を弾く。誰にも言わない夢をかなえるために、小さなパソコンを引いて嬉しい歌を歌う。それだけでかのじょは永遠の救いをなしたのでした。

美しい心こそが、全世界を救うのです。

そしてあらゆることを試みて、疲れ果てた人は、遠い潮騒の音に溶けていった。神の胎の中に帰っていくかのように。

真珠が波に溶けていくかのように。






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