月草の うつろふ空を 眺めつつ 国のゆくすゑ はかる虫とは
*「月草の」は「移ろふ」とか「消ゆ」などにかかる枕詞です。月草とは露草の古名で、この花で染めた布は色あせやすいことから、ものごとのはかなさやうつろいやすさの譬えによく用いられるそうです。
露草で染めた布のように、移ろいゆく空を眺めながら、国の行く末を考えている。そのような虫がいる。その虫とは何だろう。
わかりますね。もちろんさそりのことです。アンタレスはさそり座のアルファ星で、全天でもとても目立つ星。彼のきつい性格をよく表している。
さそりはとても深い毒を持っている。その針は小さく見えて効き目は鋭い。獅子を倒す剛健でさえ、一度刺されれば一巻の終わり。瞬く間に死んでしまう。
彼のいうことは、人間の最も痛い真実をつくからです。
馬鹿男が聖者の仮面をつけ、イエスの言葉と行為を真似していながら、影でやっていることを知りつくしている。その歪みがどういう現象を起こしているかも知っている。そしてその真意を鋭くつく。それだけで、大きな歪みを持った馬鹿が次々と倒れていく。
まるでさそりの猛毒に当たったかのように。
その彼のことを歌う歌を、月草などというかわいらしい枕詞から始めるのに、どことなく作者の意図を感じますね。なぜならさそりというのは、だいたいそんなはかない草の陰に潜んでいたりするからです。
花など何もできない馬鹿みたいなものだと思って、油断して踏んでしまうと、そこからさそりが出てくる時がある。
竜胆を踏めば蛇が出てくる。
誰かの言う通りになりました。
それはそうとして、表題の歌は問いの形になっていますから、どうしても歌でこたえてみたくなりますね。やってみましょう。
花陰の 螻の心は 知らねども 蠍の胸の 赤き火は知る 夢詩香
「螻」は、「けら」です。読めないと思うので、一応。