さいはひを 金と空音で 作らむと 蛆をからめて 巌に似せり
*「空音」は「そらね」で、鳴きまねやウソ泣きのことです。「巌」は「いわお」と読んでください。大きな岩のことです。こんなことは調べればわかることですが、たぶん、あまり調べる人はいないと思うので。
厳しい歌や句が続きます。
幸せを、金と嘘で作ろうとして、蛆をからめとって固め、大きな岩に似せたと。
蛆というのは蠅の幼虫で、糞の中になどよく群がっているものです。まあ、蛆には罪はありませんが、そのせいで汚いもの、嫌なものの代名詞に使われます。人間が、あまりに汚いことを平気でやると、「ウジ虫」とののしられることもありますね。
ああ、忘れていましたが、「金」は「かね」と読みましょう。「きん」と読む人はいないでしょうが、一応。
「かね」というと、和語では金銭と金属の両方の意味を含みます。要するにここでは、金と権力の両方を意味します。
短歌や俳句は、読み方が大事です。読み方次第でいろんな意味を含ませることができる。
蛆は蛆で、糞樽の中にでもいれば害はないのだが、それを大勢持って来て、固めて、大きな岩にして、それを礎にして大きな城を建てるなどのことをすると、とても大変なことになります。
蛆は生きていますから、いつとんでもないことをするかわからない。嘘で含めて岩にしていても、いつでもばらばらになろうとする。そんなものを基礎に置いておいては、嘘がばれるだけで、何もかもがおじゃんになります。
まあ、わかっているでしょうが。
蛆をからめて巌を作るというのは、要するに馬鹿を大勢集めてその勢力を元にして馬鹿をやるということを表しているのでしょう。大勢の馬鹿というものは、大勢で一緒に馬鹿をやっているうちはいいが、一旦熱が冷めてしまうと、ばらばらになり、すぐに逃げていく。頼りにしたくても、誰も助けてはくれない。みんな自分が一番大事ですから、人のために大事なことは何もしてくれないのです。
馬鹿が大勢集まって、一時的には大きなことができても、結局それは幻のように崩れていくのです。愛が何もないからです。
作者の意図はわかりやすい。きついところを面白い言葉であっけらかんと言いぬいているのが、いいですね。