日銀は10月28日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和の維持を決定した。9月の全国の消費者物価指数は前年比3%上昇したが、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を持続的・安定的に実現できるよう金融政策を行う必要があると黒田総裁は釈明した。更に来年度や再来年度は1%台半ばぐらいの物価上昇率になるとみており、2%の物価安定目標を持続的で安定的に達成するには、3%ぐらいの実質的な賃上げがないと達成できないとも主張した。
現在インフレの進行中で、金融緩和の続行理由の指標が消費者物価指数ではなく、賃上げ率にすり替わった。諸外国に比べて賃上げが伴っていないのは統計上確かであるが、物価安定が日銀の担務で、賃上げは日銀の担務ではなく政府の仕事の筈だ。1、2年前まではデフレ脱却と騒いでいたが物価は安定しており年金生活者には有難かった。そもそも日銀がデフレ脱却を目標に掲げること自体がおかしいが、当時の安倍政権下で政府に迎合し金融緩和を実行したのだ。目的は景気回復であったが、企業の儲けは従業員に還元されず、内部留保が膨れ上がる結果となった。
これは企業に対する政府の施策によるところが大きいが、労働組合の弱体化の影響も大きいと思う。労働組合の力は組織率で測ることがことが出来る。労働組合の組織率は、1949年の56%をピークに、2020年には17%まで低下したそうだ。この原因は小売業や飲食業、観光業、その他のサービス業が盛んになったが、比較的小規模な企業が多く、パートタイムなど正社員以外の雇用形態で働く労働者や、平均勤続年数が短い女性労働者の増加等、雇用形態の多様化や雇用の流動化に、労働組合の対応が追い付かなかったのが原因と言われている。
また大企業においても、2回に亘るオイルショックやリーマンショク等で、大企業の倒産があったため、従業員も賃金上げより会社の存続を優先するようになり、賃上げを要求する春闘は低調になり、一方内部留保の増加の一因となっているのだろう。
労働組合の賃上げ要求の低調さに業を煮やしたのか、昨年11月岸田首相は、2022年の春闘で企業側に3%程度の賃上げを要請する方針を打ち出した。これは賃上げを労働組合に代わって政府が要請する官製春闘であり、安倍政権下でも行われたことがあったが、企業側の力が強く期待した結果を得られなかった。
アベノミクスのもとで大企業は潤ったが、その恩恵は労働者には十分に及ばなかったとして、岸田政権はアベノミクスを修正、発展させる分配重視の姿勢を示していたが、大企業に対する法人税や内部留保に対する増税の話はどこかに消えた。もはや大企業は労働組合はおろか政府も怖くないとみえる。
賃上げは春闘より、政府の成長戦略、構造改革であると主張する者もいるが、怖いものがおらず、ぬるま湯に浸かる大企業幹部に身を切る改革はできるであろうか。
2022.11.02(犬賀 大好ー860)