日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

政権のマスコミ介入への戦略変換

2018年04月11日 09時23分30秒 | 日々雑感
 トランプ米大統領は、今年1月、最も腐敗し、偏向した主要メディアによるものと自身が判断した報道を ”フェイクニュース大賞”として発表した。この中で先の大統領選挙において、トランプ氏側とロシア政府との接触に関するすべての報道がフェイクニュースと断定する等、日頃自身に批判的なメディアを厳しく攻撃している。

 トランプ大統領のマスコミ批判は、ニュヨークタイムスを始めとして、CNN、ワシントンポスト等主要なメディアに及んでいる。しかしこれに対し、最近全米各地の地方テレビ局を運営する保守系の放送大手シンクレア・ブロードキャスト・グループによる主要メディア批判のキャンペーンが論議を呼んでいるとのことだ。

 シンクレアは米国で最も多くの地方局を傘下に持つ業界最大手であり、その各局で今年2月、ニュースアンカーらが一斉に主要なメディアがトランプ大統領を批判する報道を「偽ニュース」や「偏向報道」と批判したそうだ。

 どのアンカーのコメントも全く同じ文言で、各局の自由な取材の結果ではなく、背景にシンクレア本社の圧力があったことは明らかなようだ。トランプ氏は、ツイッターに「偽ニュースの放送局がシンクレアの『偏向』を批判するとはお笑い種だ」と書き込んだそうだ。

 米国では、かって連邦通信委員会(FCC)が放送局に ”公平原則”を義務付けていたが、理由は分からないが、1987年に廃止されたそうで、現在のように意見が全く異なる報道が同時になされているようである。

 受信者は、色々な放送局の意見を聞き、何が正しいか自分の判断が出来ればよいが、1局しか聞かない場合が多いようであり、米国内に意見の分断が生ずる結果となっているようである。トランプ人気が高いのもこれが原因と指摘する人もいる。

 日本は憲法で表現の自由を保障している。従って、代表的な言論機関の一つである放送に、政府や政治権力が介入することは憲法違反となるが、逆に好き勝手にやらせておくわけにもいかない。

 そこで、放送法第四条により、放送事業者に ”公平原則”を義務付けている。すなわち放送番組の編集に当たつては、・公安及び善良な風俗を害しないこと、・政治的に公平であること、等を定めているのだ。

また、自主規制のための放送倫理検証委員会は問題があると指摘された番組について、取材・制作のあり方や番組内容について調査し、問題の有無を審議・審理し、その結果を公表する役目を担う。放送界の自浄機能を確立し、表現の自由を守ることを目的とした組織だ。

 しかし、政府は、この委員会で取り上げなかった政府に批判的な報道に関しても、放送法第4条の規定を論拠として、政治的偏向報道であるとして折ある毎に問題視する。2016年2月の衆院予算委員会において、高市総務相が、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返せば、放送法4条違反を理由に電波法76条に基づき停波を命じる可能性に言及したのが一例だ。

 これは安倍首相の意を汲んだ動きと見られるが、更に政府内で暫定的にまとめられた文書「通信・放送の改革ロードマップ」には、NHKを除く民放の改革について検討中の項目に放送法第4条の廃止の存在が最近明らかになった。

 これまで、第4条を根拠に圧力をかけていたが、この4条で批判勢力を抑え込むことが出来ないと判断し、逆に迎合勢力を育成しようとする戦略に転換したようだ。

 撤廃の理由は、表向き、米国に倣いインターネットテレビ局等が放送に参入し易くし、独自の意見を披露し易くする狙いとみられるが、前述のように視聴者は概して1局しか見ないので、世論を分断することになるだろう。

 映画の世界では自主規制組織である映画倫理機構(映倫)が公序良俗をかろうじて守っているが、インターネットの世界での映倫違反は目に余る。こんな無法状態が政治の世界でも行われるとなると、公平性が損なわれるどころの話では済まされない。
(犬賀 大好-432)