日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

トランプノミクスの行方

2016年12月17日 13時36分34秒 | 日々雑感
 米大統領選でのトランプ氏の勝利後、ニューヨーク株式市場は度々過去最高値を更新しているとのことである。中国に対する関税の大幅アップ等の過激な発言が、当選後影を潜めたことも一因であろうが、その昔、俳優から大統領になったレーガン氏の政策と重なるところがあり、期待を大きくしている所があると言われている。

 レーガン氏は、レーガノミクスと呼ばれる社会保障費の縮小などの財政削減、所得税や法人税の減税で消費拡大、規制緩和による投資拡大を行い、金融市場は大幅な株高、ドル高を経験した。トランプ氏も政策の方向は同じであるため、今の金融市場もこれを連想し柳の下の泥鰌を期待しているのだそうだ。しかし、レーガノミクスは貿易赤字と財政赤字と称する双子の赤字を残したが、そんなことは当の昔に忘れ去られている。

 トランプ氏は、米国第1主義を掲げ、保護主義的な政策をとると予想されている。トランプ氏は、雇用の確保を目的に、外国に工場を移転する企業には大幅な輸入関税を課すと宣言している。この手法は瞬間的には拍手喝采を受けるだろう。しかし、米国労働者はメキシコ等の労働者と同じ低賃金で我慢できる筈が無い。生産コストの上昇は、同時に物価高を招く恐れがあり、そこで雇用を確保できたと労働者も喜んでばかりではいられないだろう。

 トランプ氏のインフラ投資に関しては民主党内でも支持する議員は多く、実現される可能性は高い。減税とインフラ投資で大きな需要が創出されれば、経済成長は当然高まるだろう。しかしアメリカ経済は既に完全雇用状況に近く、急速な経済成長率の上昇がインフレを誘発することは間違いない。

 一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)で、先日14日、政策金利を引き上げることを決めたとのことだ。利上げはインフレ抑止の有効な手段であるからである。

 このFRBの方針はトランプ次期大統領の金融政策に関する考えと一致しないようだ。トランプ氏は不動産で財をなしたビジネスマンで本音は低金利主義者で、インフレ容認派のようだ。とすれば、イエレン議長が今後もインフレ抑制的な政策を取ろうとすれば、トランプ氏の反発は避けられないだろう。

 トランプ氏は早い時点からFRBのイエレン議長を再任しないとことを示唆していた。たとえば今年5月に行われたニュース専門放送局(CNBC)のインタビューで「イエレン議長は非常に有能な人物である。しかし彼女は共和党員ではない」と、イエレン議長の留任を暗に否定する発言を行っている。

 FRBが利上げを進める中でトランプノミクスを実行すると、金融引き締め、かつ財政緩和となり、長期金利上昇とドル高を進行させることになるそうだ。これはマクロ経済学の基本的な帰結であるからだそうだが、筆者には因果関係がよく理解できない。

 トランプノミクスの進める規制緩和による大規模投資の成功のためには、FRBが利上げをやめ、金融緩和に転じる必要があること、しかし、同時にインフレが進む懸念があることも何となく理解できる。しかし、日本では、金利を下げ、金融緩和をしても一向にインフレの兆候は見られなかった。日本と米国では何が異なるのか。日本国民は金があれば貯蓄に回すが、米国民はすぐに消費に回す、と識者から理由を説明され分かったつもりになるが、要因はそれだけではなさそうである。

 トランプ氏は、9月には「過剰な低金利は投資を歪め、資産バブルを生み出す」とイエレン批判を展開している。だが、それはイエレン議長に対する“政治的”批判であり、本音は5月に行われたインタビューでの「自分は低金利主義者だ。金利が上昇すれば、ドルが強くなり、雇用に重大な影響を及ぼす」という発言もある。トランプ氏の考えは首尾一貫おらず、本当の考えは誰も分からないらしい。ビジネスマンには臨機応変が必要かも知れないが、政治家としては一本筋を通して欲しい。2016.12.17(犬賀 大好-295)