で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2174回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『スナイパー コードネーム:レイブン』
ウクライナ軍の狙撃手が、ロシア・ウクライナ戦争で撃つ戦争アクション・サスペンス。
ウクライナで<伝説の狙撃手>として英雄視され、敵ロシアからは恐れられる実際のスナイパーのマイコラ・ボローニンが脚本に参加。
監督と共同脚本は、マリアン・ブーシャン。
今作では、初長編映画デビュー(TV映画ではデビュー済)。男性です。
物語。
2014年、ウクライナのドンバス地方(親ウクライナ派の親ロシア派の両方が住む)でロシアが侵攻してきて、戦争が始まる。
大学で物理を教え、自然主義を妻と実践する物理学者のボロニアン・ミコラは平和主義者だったが怒りからウクライナ軍に入隊する。
ミコラは訓練兵となるが、年齢も上で、肉体的にも弱く、年齢も上で、過酷な訓練に落ちこぼれていき、ボロンと呼ばれ、型落ちの銃を渡され、格下扱いされる。
ウクライナ軍はロシアとの人数差をカバーするため、狙撃手の増員を目論む。
現役狙撃手のケプが訓練に当たることになる。
狙撃手は特殊な才能が必要だが、辛さも尋常でないため、志願兵を募るが、人数は少なかった。そこにボロンも志願する。
だが、落ちこぼれのボロンだけが、訓練受けるためのテストを受けさせられてしまう。
脚本:マリアン・ブーシャン、マイコラ・ボローニン
出演。
パヴロ・アルドシン (ボロニアン・ミコラ/ボロン)
マリナ・コーシュキナ (ナスチャ)
アンドレイ・モストレンコ (ケプ)
オレフ・ドラチ (シーリー)
ローマン・ヤシノフスキー (クリム)
オレグ・シュルガ (ドナエ)
ユーゲン・ヴォロシェニク (バト)
イゴール・コズロフ (イワン)
ザカリー・シャドリン (タラス)
スタッフ。
撮影:コスチャーチン・ポノマリョフ
編集:マリアン・ブシャン
音楽:ナディラ・オデスク
『スナイパー コードネーム:レイブン』を鑑賞。
2014年ウクライナのドンバス、狙撃手がロシア・ウクライナ戦争で撃つ戦争アクション・サスペンス。
現代リアル狙撃訓練では、映画史に残る内容で、狙撃手のお仕事ものとしては、『アメリカン・スナイパー』、『スターリングラード』、『ザ・ウォール』、『ザ・シューター/極大射程』、『山猫は眠らない』、『ネイビーシールズ』、『スナイパー/狙撃』を凌駕する内容になっています。なにしろ、リアルに、ウクライナで<伝説の狙撃手>として英雄視され、敵ロシアからは恐れられるスナイパーのマイコラ・ボローニンが参加し、監督のマリアン・ブーシャンと共同で脚本を書き上げた。
とにかく、厳しい訓練模様がドラマチックであるがゆえに危ない。
これは、がっつりウクライナのプロパガンダで、愛国心を煽るナショナリズム映画ではあることを、念頭に置いて見ても、いやおうなく燃えますし、きちんと映画になっています。これ大事。冒頭のカットと設定がラストカットと繋がって切なさが倍増。これぞ、まさに映画。
今回のロシアとの戦争直前にほとんどの撮影はしていたようだが、今戦争中にも追加撮影を行っている。
「レイブン」はカラスのこと。原題では「The White Raven」で「白いカラス」になります。この矛盾がテーマにもなっているので、邦題は劇中のコードネームに合わせている。(劇中ではレイブン)
なんといっても、ウクライナの自然を映した撮影が素晴らしいのよ。
この自然の中のスナイピングが、『シン・レッド・ライン』を思わせる。それが孤独を募らせるのよ。
どこを描くか、語りの意思がはっきり見えます。
戦争は人を孤独にする。戦争映画って連帯も描きがちだけど、この映画は徹底的に孤独に焦点を当てる。それにより、反戦映画にもなっている。その孤独を前半の夫婦の当たり前の愛の生活できっちり描くもんだからさ、もう。
戦争中の国の映画なので、とにかく軍人の挙動がリアルで、銃の使いが丁寧だし、苦しむ敵に二発撃ち込んで止めをさしたりと、ちゃんとしてます。
でも、注目すべきは小道具の扱いの丁寧さ。煤けたお守りが時間と共に煤が取れていくことや弾丸の立て方、指先のクロースアップの見せ方とか。『アメリカン・スナイパー』にもあった下の話も逃げません。(台詞だけですけどね)
その細部により、胸が締め付けられもする。これは現実の地続きなのだと。
それを楽しんでいることは、この家がの意図通りであり、映画館を出たら、戦争や侵略、支配層への反意の気持ちを持つことの価値を改めて感じる。
でも、これ、都内では上映終わってんだよなぁ。
そして、戦争は続いている。
指先に魂がこもる煤作。
おまけ。
原題は、『Sniper. The White Raven』。
『狙撃手:白いカラス』。
英語題のみなのも、プロパガンダを感じたり。
2022年の作品。
製作国:ウクライナ
上映時間:111分
映倫:G
配給:「スナイパー コードネーム:レイブン」上映委員会
ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2023」上映作品。
だが、1週間だけの上映なので、終わってしまった。
ソフト化か配信されるといいのだが。あと、要望があると、コレクションのベストとして再上映されることもあります。
宣伝のコメント抜粋。
『アメリカン・スナイパー』に次ぐ傑作!世界が絶賛!“今”みるべき1本!!
「一瞬たりとも目が離せない」 ナタリア・ウィンケルマン(「ニューヨークタイムズ」紙)
「真実をえぐり出す傑作」 キャス・クラーク(「ガーディアン」紙)
「まさに“今”みるべき1本であり、映画史に残る名作」 ジェームズ・ヴァーニエール(「ボストン・ヘラルド」紙)
狙撃手映画は、『ジャッカルの日』、『ラスト・ターゲット』、『ロシアン・スナイパー』、『ジャーヘッド』などの主人公もの(設定だけとかも多い)から、脇で活躍するものなど入れるとかなり数があります。『プライベート・ライアン』、『』とかね。敵の設定に多いですよね。『ジャック・リーチャー』や『ALONE/アローン』とか。
中国の『1950』シリーズなど、ナショナリズムのプロパガンダ映画が増えているのも、今の時代よね。戦争中や戦前なんだよな。日本を戦前にならないようにしなきゃね。
ややネタバレ。
7.62x39mm弾の有効射程距離は、400m。
7.62x51mm弾(NATO弾)の有効射程距離は、800m。
12.7x108mm弾(ロシア側が使用)の有効射程距離は、1,500~2,000m。
ネタバレ。
妻を亡くし、生徒を亡くし、パートナーで師匠でもあったケプを亡くし、仲間を亡くし(バトは生き残っているが)、孤独をどんどん高めていく。
そして、いつか国がなくなるという危機感を煽る。
これが、戦争映画の恐ろしいところでもある。
興奮抜きの戦争映画はほぼ存在しえないのだ。
『ダンケルク』や『野火』はそれに挑んだ。
戦場を描かない戦時映画がそれを実現する。
最初、妻のナスチャは自然の中、鳥を描いている。
最後、レイブン(=烏)となったボロンは狙撃で一人、雪の中にいる。
クライマックスで、工場に、狙撃手ゆえに狙撃手の心理を読み、侵入襲撃を行うのだが、説明がちょっと不足で、一瞬混乱するよね。
シーリーの名前が出て、分かるけど。
上の階に天使のお守りが立てて残されていたのと、下の階で弾丸を重ねている。
天使がいるところ(天国)から、飛び降りてシーリーを殺すボロンは地獄(戦場)に落ちていく。
それでも、ボロンは地獄で生きていく。