菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

離れたこと、一緒にいること。 『パスト ライブス/再会』

2024年04月11日 00時00分01秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2335回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

『パスト ライブス/再会』

 

 

 

海外移住で離れ離れになった幼なじみの初恋同士の小学生が大人になってネットで再会し、どちらか街で会おうとするロマンス・ドラマ。

パスト ライブス/再会 | Bunkamura

原題は、『PAST LIVES』。
『過去生』、『前世』。

 



製作年:2023
製作国:アメリカ、韓国
上映時間:106分
映倫:G

 

配給:ハピネットファントム・スタジオ  
 

 

物語。

90年代、韓国のソウルに暮らす12歳の少女ナヨンと少年ヘソンは、勉強で一二位を争いながら、お互いに恋心を示し合っていた。
だが、ナヨンの海外移住により二人は離れ離れになる。

それから12年後の2010年代のアメリカ。
二人は24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたが、ネットで再会を果たす。
長い交流の末、どっちがどっちの街に行って再会するのか揉め始める。

そして、さらに12年が経ち、二人は36歳になった。

 

監督と脚本は、これが長編映画デビューとなる韓国出身のセリーヌ・ソン。
物語は、海外へ移住した自身の体験を元にしている。

アカデミー賞作品賞・脚本賞ノミネートをはじめ数々の賞レースを席巻した。

主演は、Netflixドラマシリーズ『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』や『スパイダーマン/スパイダーバース』のグレタ・リーと、『LETO レト』『めまい 窓越しの想い』のユ・テオ。
共演は、『ファースト・カウ』のジョン・マガロ。

 

 

 

スタッフ。

監督・脚本:セリーヌ・ソン
製作:ダビド・イノホサ、クリスティーン・ヴェイコン、パメラ・コフラー
制作:カン・ホソン、セリーヌ・ソン
共同制作:チェ・ヨヌ
キャスティング:エレン・チェノウェス、スザンヌ・シール
撮影:シャビアー・カークナー
プロダクションデザイン:グレイス・ユン
衣装デザイン:カティナ・ダナバシス
編集:キース・フラース
音楽:クリストファー・ベア、ダニエル・ロッセン

 


出演。

グレタ・リー (ムン・ナヨン/ノラ・ムン)
ユ・テオ (ヘソン)
ジョン・マガロ (アーサー)

ムン・スンア (幼いノラ)
イム・スンミン (幼いヘソン)

ユン・ジヘ    (ノラの母)
チェ・ウォニョン  (ノラの父)
ソ・ヨヌ    (幼いシヨン/妹)
アン・ミニョン  (ヘソンの母)
オン・ワンスン  (ヘソンの彼女)

ジョジョ・T・ギブス (ジャニス)
エミリー・キャス・マクドネル (レイチョル)
フェデリコ・ロドリゲス (ロバート)
コンラッド・ショート  (ピーター)
クリスティン・シー (ヘッダ)

 

 

 

『パスト ライブス/再会』を観賞。
90年代から現代、海外移住で遠く離れた初恋同士の小学生が大人になりネットで再会し、どちらかの街で会おうとするロマンス・ドラマ。
時折つくられる繊細な恋心を描くリアルな大人のラブストーリーで、二人の人生の一部を切り取っていく。
文化の違うところに引っ越ししたことがあるだけで身に染みる内容。
『パストライブス(PAST LIVES)』とは『過去生』『前世』のことかと思われる。
つまり、時間の話であると示され、実際、縁についての話が出てくるし、時間についてのしかけと丁寧な演出がある。
実は、それは今作を上に上げる大きな題材とも関係してくる。
監督と脚本は、これが長編デビューとなる韓国出身のセリーヌ・ソン。彼女の海外へ移住した自身の体験を元にしているそう。
デビュー作にしてアカデミー賞作品賞・脚本賞ノミネートを果たし、主人公は劇作家志望なので、映画内のセリフが映画の外にも呼応していて、ちょっとおかしかったり。
セリーヌ・ソンが脚本を務めるドラマシリーズ『ホイール・オブ・タイム』も時間の話なので、時間表現に取り組む作家なのでしょうね。
二本だと評価されづらい点だが、お話だけでなく、映画的な要素を含んだ映像を脚本の内容にしっかりと入れ込んでいる。そりゃあ、アカデミー賞脚本賞ノミネートなわけだわ。このタイプには、『ロスト・イン・トランスレーション』がある。この2作には脚本の要素に似た部分がある。引用やインスパイアというよりは、近い内容を描いているので要素が似た上、似通ったスタイルを採用しているので。
劇中で『エターナル・サンシャイン』が映像も出てきて、一つのヒントとなっている。あれも時間と恋愛の記憶についての物語だった。しかも、監督のスパイク・ジョーンズと『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィア・コッポラは元夫婦で、実際の夫婦関係を元ネタにしている。しかも、スパイク・ジョーンズの『her/世界でひとつの彼女』はSFで恋愛相手はAIだが、その声はスカーレット・ヨハンソンで、彼女は『ロスト・イン・トランスレーション』でソフィア・コッポラ自身がモデルの役を演じていた。かように、それぞれがお互いの関係を元にした映画をつくっている。
『パスト ライブス/再会』は『her/世界でひとつの彼女』とも似ている部分がある。ネットで映像越しに二人は恋愛感情を高めていくところがそれ。
そう考えると、今作は『めぐり逢えたら』(1993)の現代アレンジともいえそうだ。『めぐり逢い』(1957)の変奏としての部分だけでなく、メディアを通して知った相手と手紙で交流し、直接会えていない二人がNYでの再会するのは、プロット的にも近い部分がある。
アジア人的には、距離が隔てた恋愛という点では、新海誠風味もある。
このように映画的な記憶もうまく取り入れているなど、かなり細かく映画をどう見せるか計算されてつくっているのがわかる。
そこも映画の国アメリカ人には特に刺さったのではないかと思われる。
なにしろ、それは、冒頭から顕著で、主人公ではない人が主人公の話を雑談のようにする話の始め方はユダヤ人的な話法で、ユダヤ系の映画やウディ・アレンの映画などで、たびたびこの話法を見かける。
しかも、それをちゃんと自分アリの方法として広げ、作品のテーマと絡ませているのが抜群に巧み。
そう、この映画の大きな題材とは故郷を離れて違う文化や人種の中で生きていくということ。
韓国で生きる韓国人とアメリカで生きる韓国人とアメリカで生きるユダヤ人という配置が完璧なのよ。
韓国人でありアメリカ人であるということ。
二つの文化に跨って生きること。
つまり、血と鳥についての物語になっている。
グレタ・リーとユ・テオの表情や普段の仕草の日常感が実にいい。脇役を適度に挟み込みながら、そちらに目がいかない演出も気が利いている。
撮影がこの気分を推し進めてくれる。いいところで終わった夢のような。
絶妙な居心地悪い座りのレイアウトがなかなか面白い。
移動撮影が心地よい。
あと、音楽のセンスもいい。二人の音楽を二人の音楽家で分けてやってるのかな。
日本人が一番わかりづらい感情の部分を、離れ離れの人生を生きる二人のアジア人の純粋に惹かれ合いながら、距離と時間がそれを妨げる淡い恋愛で描くことで、普遍的な感情に引き上げている。
それをアジア的な言葉で軸にしたり、ちょっとしたセリフの入れ方が痒い所に手が届くようでいいのです。
人生って、一直線のメリーゴーランドのようなのね。
ふわふわと地上15cmのところを飛んでいながら着地点が見つからないどっちつかずのアイウォンチューな気分にお酒を吞みたくなる、または、シャワーを浴びたくなる。
嬉しくて、悲しい。カカオ80%のチョコと甘いココアを一緒に味わう夕べ。
また別の人生を覆いながら、いまここの自分を抱きしめる一本。


 

 

 

受賞歴。

2023年の第49回 LA批評家協会賞にて、新人賞(セリーヌ・ソン)を受賞。
2023年の第88回 ニューヨーク批評家協会賞にて、新人作品賞を受賞。
2024年の第58回 全米批評家協会賞にて、作品賞を受賞。

 

小島秀夫 on X:

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運命が重なる瞬間を切り取る『パスト ライブス/再会』登場人物3人の感情が現れる5種の新ビジュアル|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER  PRESS

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12歳、24歳、そして36歳…2人の3つの時代を切り取った『パスト ライブス/再会』新ビジュアル(画像3/3) | 最新の映画ニュースならMOVIE  WALKER PRESS

12歳、24歳、そして36歳…2人の3つの時代を切り取った『パスト ライブス/再会』新ビジュアル(画像2/3) | 最新の映画ニュースならMOVIE  WALKER PRESS

12歳、24歳、そして36歳…2人の3つの時代を切り取った『パスト ライブス/再会』新ビジュアル|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER  PRESS

運命が重なる瞬間を切り取る『パスト ライブス/再会』登場人物3人の感情が現れる5種の新ビジュアル|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER  PRESS

運命が重なる瞬間を切り取る『パスト ライブス/再会』登場人物3人の感情が現れる5種の新ビジュアル(画像5/5) | 最新の映画ニュースならMOVIE  WALKER PRESS

 

 

 

 

 

 

 

 

ややネタバレ。

セリーヌ・ソンの父は、実際に映画監督のソン・ヌンハンで、監督・脚本の『ナッバー・スリー』(1997)、『世紀末』(1999)などで知られている。
母親もアーティスト(詳細は不明)。
叔父も、脚本家のソン・ギルハン。
夫も小説家で脚本家のジャスティン・クリツケスで、ルカ・グァダニーノの新作ロマンチック スポーツ コメディ『チャレンジャーズ』の脚本を書いている。
この部分も、映画監督一家のソフィア・コッポラとも似ている。

そのキャリアを劇作家からスタートしているので、物語と同じ。

 

音楽のクリストファー・ベア、ダニエル・ロッセンはバンド<グリズリー・ベア>のメンバー。

バーで聞こえる曲は、ヴァン・モリソンのアイルランドのグループ<ゼム>の1965年の曲『ドント・ルック・バック』。

 

韓国の初恋神話を取り入れてもいるので、韓国話法も加えている。
そして、恋愛より前に幼馴染という関係が先にある。

台詞のほとんどが韓国語である。

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

映画の後半のバーのシーンの終わり近くで、背景に男性と女性の 2 人が見えます。おそらくこの 2 人は、映画の最初のシーンで、主人公 3 人の関係を理解し​​ようとしている声が画面の外から聞こえてくる二人です。

 

この映画は、現在から過去へ行き、現在に戻ってくる構成になっている。
二人の動きは、常に右から左に行くことで、過去を示す。
通常時間は、左から右へと進むことで示される。
軍隊で訓練するヘソンや食堂に来るヘソンは、右から左に来る。
宿に来るアーサー、ドリンクをアーサーに運ぶノラは左から右へ来る。
別れのシーンは、二人は右から左に行き、ウーバーの車も右からやってくる。
ヘソンは左に行き、ノラは右へ行く。
最後、空港に向かう車内のヘソンは左から右へ進む。
これにより、ハッピーエンドであることが示される。

 

ネット撮影は、隣の部屋にセットを組んで、タイムラグなどを操作できる仕組みを間に挟んで撮影したそうです。

 

『ビフォア・サンライズ』シリーズからは影響を受けているかもしれない。

ロマンスもので定番のシーンをことごとく排除している。
そもそも、付き合ってないとさえいえるレベルなのよね。
三角関係を住む場所になっていて、そこにいるということが

セリーヌ・ソンのインタビューより。
「映画などで物語を定義することが多いのは、子供のようにふるまう大人です。今作は、それとは真逆で、大人になるために最善を尽くしている人々ン物語です。誰も、文句を言わず、叫んだりしません。お互いを尊重し、この緊張感ある時間をやり過ごすんです」

 

ラストシーンの展開の小さなサスペンスが素晴らしい。
ハグから先、車に乗るかもしれない、キスをするかしないか、なんの言葉を交わす(相手を傷つける言葉を言うのか)か、というギリギリの緊張感。
誰も踏み込んでいかない(ヘソンはNYまで行くけど)ことも美しさ。

 

12年の二つの字幕は、12の単位は、まさに時間の単位。

回る時間、過ぎていく時間を表すものが画面に配置している。
回転では、メリーゴーランド、船(サークル・オブ・スタテンアイランド)、自由の女神の裏に回る、など。
直線では、橋と階段、階段の前で別れる二人、階段の前で抱き合う二人が印象的に描かれる。
この背景が心情を見せる。
カップルがばっかりいたりする。
これが、実は冒頭の第三者の視線でもそれを見せている。
ある方向性で思っていると、周りもそればっかりがよく見えるかのようなことを映像化しているともいえ、ある意味で主観を客観化させているような映像演出。

 

アイデンティティの物語である。
アメリカの女性の韓国人、韓国の男性の韓国人、NYの男のユダヤ人、作家であること、夫婦であること。

この映画の素晴らしいのは、ドラマチックではない当たり前の人生のドラマ化であるという点。
誰かの人生の一部は、ドラマh度ドラマチックではないにしろ、ドラマチックに描くことができるということを示した。
アカデミー賞はこういう映画をたまに評価する。
作品賞を受賞した1955年の『マーティ』、2000年の『アメリカン・ビューティ』、1980年の『クレイマー・クレイマー』、1978年の『アニー・ホール』などがそう。
大きな社会問題ではない、人々の生活を描く物語。


<縁(イニョン)>を、対峙と点と直線と△で表現している。
袖すり合うも他生の縁。
日本語だと、<因縁>の方が近いらしい。響きも似ている。
加えて、ナヨンがヘソンとの人生を夢想している点は、マルチバースへの思いを馳せているともとれ、『エブエブ』などにも通じる感性がある。
そして、『エブエブ』がすべての可能性があるという肯定からでも今はここにいる自分しかいないという「いまここ」の人生へ対峙する希望を描いていたのに対して、こちらは「いまここ」はどこかへ置いてきた「かこあそこ」の積み重ねであるという郷愁による「いまここ」、自分の人生の再発見を描き出している。

前世がある問うことで、突き詰められないことにして、あきらめにつなげているようにも感じる。

『ララランド』が有りえた世界を見せるように、フィクションの価値を見せるが、今作は見せないことで現実の価値を見せる。
映画というのが物語の記憶が今作を刺激的にする。
見な、『卒業』の略奪愛を想像させてしまう。
それは、『めぐり逢わせのお弁当』とも呼応する。

いい人しか出てこないけど、スリルが起こるという現実の価値を描く。

 

ちゃんとしたお別れをする物語でもある。

 

この縁は人だけでなく、いろいろなものともあるもの。
特に通じているのが、才能=賞について、言及する。
ノーベル賞からトニー賞からピューリッツァ賞へと変わるのもそう。

 

 

 

 

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