菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

謎の視線と謎の言葉。 『No.10』

2024年04月19日 11時16分25秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2340回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

『No.10』

 

 

 

幼少に森に捨てられ記憶を失った天涯孤独の中年俳優が、謎の組織たちに監視され、不倫がばれ、謎の言葉「カマヒ」に囚われるシュール・コメディ・オカルト・ミステリー・サスペンス。

No.10 : 作品情報 - 映画.com

 

原題は、『Nr. 10』。
英語題は、『No.10』。
『10番』。

 

製作年:2021
製作国:オランダ・ベルギー
上映時間:101分
映倫:G

 

配給:フリークスムービー

 

 

物語。

少し前オランダの湾岸の町。
舞台の稽古中の俳優ギュンターは、幼い頃、森に捨てられて施設で育った。家族を求めたが今は妻は去ったものの娘リジーとはいい関係。
女優イザベルは、実力派演出家カールの若い妻。
脇の俳優マリウスは、妻が病気で心労と睡眠不足に加え、カールの演出が合わずボロボロ。
そんな彼らを謎の組織が監視中。
ある日、マリウスはギュンターとイザベルの不倫を見つけ、カールに告げ口。
カールはさっそく妻を尾行。
そんな中、ギュンターは橋で見知らぬ男から謎の言葉「カマヒ」と囁かれる。


監督・脚本・音楽は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門選出の『ボーグマン』など尖った作風のオランダの鬼才アレックス・ファン・バーメルダム。

主演は、トム・デュイスペレール。



スタッフ。

監督・脚本・音楽:アレックス・ファン・バーメルダム
製作:マルク・ファン・バーメルダム
ラインプロデューサー:バーナード・ツルプ

撮影:トム・エリスマン
プロダクションデザイン:ヘールト・パレディス
美術監督:ロージー・スタペル
衣装:カトリーヌ・ファン・ブリー
編集:ヨープ・テル・ブルフ

 

 

出演。

トム・デュイスペレール (ギュンター・アフターベルク/俳優)

フリーダ・バーンハード (リジー・アフターベルク/ギュンターの娘)
ピエール・ボクマ (マリウス/俳優)
キム・カイッセン (マリー=ルイーズ/マリウスの妻)
アニエック・フェイファー (イザベル/女優/カールの妻)
ハンス・ケスティング (カール/演出家)
リズ・スノイック (エルザ/演出助手)

ダーク・ベーリング (ヴァシンスキー/神父)
マンデラ・ウィーウィー (イノセンス/神父)
ジーン・ベルボーツ (ライツェンバッハ)
リチャード・ゴンラーグ (ペルツィグ)

 

 

 

『No.10』を観賞。
少し前オランダ、幼少に森に捨てられ記憶を失った天涯孤独の中年俳優が、謎の組織たちに監視され、不倫がばれ、謎の言葉「カマヒ」に囚われるシュール・コメディ・オカルト・ミステリー・サスペンス。
これだけジャンルを並べたのに、あるジャンルが隠されている。ただ、見ているとなんとなく予兆はある。
よくできた変な映画が好きなら見逃せないっていうヘンテコポップ。
ただ、実は内容はすごくまっとうなのよね。見た人は「え、どこが?」と言うかもしれませんが。
いっちゃえば、見やすいアピチャッポン・ウィーラセタクンみたいな話。
テーマも途中でかなり明確にわかりますし、実は原題も英語題も同じ『ナンバー10』は、実はかなりのヒント(アダムから数えて10代目)ですしね。早々に示される謎の組織の一つはカソリックですしね。(だからジャンルにオカルトが入れた)
通常の話法というか構成ずらしをしているだけで、ちょっとサブカルな漫画読んでれば何の混乱もないほどの入門レベルでしょうね。アート系に比べるとかなりエンターテインメントだけど、エンターテインメントと比べたらアート系というバランス。
なので、海外でも評価は割れてはいますが、総合評価はそこそこ高い。
テーマへのアプローチがかなり的確かつ多角的だし、映像も芝居もかなりいのよ。
監督・脚本は、カンヌ国際映画祭に出てた『ボーグマン』など尖った作風で知られているオランダの鬼才アレックス・ファン・バーメルダム。なんですが、おいらはこの作家作品はお初で、『ボーグマン』は知ってはいても観れてない。日本だと見にくいのよ。日本公開作も10本中4本ですしね。(ちなみにアニメ『超音戦士ボーグマン』は放送時に見てましたけどね)
ベテラン鬼才ならではの、美術の良さが圧倒的。部隊の演出もなかなか面白く、堂々たるものです。(内容もおいらはわかりませんでしたが、キリスト教的なものを扱っているようです)
前半のオフビートなコメディに、冷たいサスペンスは、主人公が誰かわからない群像劇。突然、主人公がピックアップされて復讐劇になっていくかと思わせて、シュール・コメディのままなことで、耐性がないとナニコレと思うことでしょう。でも、この後が、この映画の本編です。
ジャンルもストーリーも説明すればするほど意味をなさないし、野暮になるのよ。
だから、多くの宣伝で書いてるあらすじはだいたい間違えているし的外れ。
ただ、大きな引いた目線で見ると、すごくわかりやすい話だとわかります。
一本貫く強烈なメッセージ性があって、それをちゃんと前半から小出しにして、つなげているのよね。
がっつり台詞で言ってるくらいだし。
しかも、最後の最後で、もう一発、大きな謎をかましてくるのですが、そこに答えはないけど、そこがミソで、ちゃんと仕込まれているので考えれば意味は分かる。そこも含めて、全方向的にかなり広く強い視点の物語になっている。
ヒントは、『ドント・ルック・アップ』。あれが好きだったら、通じる世界。さらに強烈な皮肉をぶちかます。
後半のビジュアルはハリウッドもかくやの最高の出来の一つ。ここだけ見ても楽しいほど、特撮ファン必見の出来。
謎の言葉「カマヒ」とはなにかとか全然絡んでこないけど、映画の空気をつくってるのよね。
それがばらされるときに見る映像に含まれたあることが、前半ときっちり重なっているので、ここがわかる見巧者だと、特別じゃなくて、映画として楽しく観られるはず。気づけないことも含めて、こういう仕掛けを入れてくる映画がおいらは大好物。
実は、全体がすごくちゃんと構成されているのです。
オランダは無宗教者が多いことで知られており、「世界は神が造ったが、オランダはオランダ人が造った」という言葉も有名。
日本人は、オランダの陣の次に理解しやすい内容かもしれない。キリスト教もネタとして楽しんでいるし、有る状況はこの映画の描く部分に通ってもいるしね。


 

タイトルとチラシのデザインに、大好きなドラマシリーズ『プリズナー№6』(オリジナル)の匂いを感じるね。

 

 

24時間体制で不貞を監視…やつらが目を光らせる「No.10」アザービジュアル解禁 - ぴあ映画

Nr. 10 - Cineuropa

Nr. 10 (2021) - IMDb

N°10 - Film 2021 - AlloCiné

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

ノアは、アダムから数えて、10代目の人間(ナンバー10)で、神の言葉を聞く。
ノアの箱舟には、動物の男女のつがいを乗せた。
リジーは人間とのハーフなので、彼女こそが目的だったと言える。
マリウスの妻も殺したほどなので、リジーの母親を引き離したのも彼らの仕業かもしれない。

舞台は虚構。
ギュンターはキリスト教は白人の捏造だと言う無宗教者。
カソリック協力者にも嘘をついていたルナボー人は、ギュンターとリジーを引き込むために、母を捏造した。
ギュンターの母親のしゃべり方はプロンプターから言われたかのような、やや棒読みの発声になっている。何しろ知らない言葉で演技するから、世細野手練れでない芝居にならないし、地球人的な感情表現をする。ルナボー人は感情表現がかなり希薄なのが描かれているので、感情を入れずに、関j工t家になるという難しい芝居をしているので、うまくいっていないのがわかる。
映画では、全範囲、このうまく行っていない芝居を見せることで、ここのヒントにしている。
プロンプターにギュンターがなるシーンなど、プロンプトする状況が4回以上出てきて、ヒントになっている。
ルナボー人は演技をしているので、最後、カソリックの布教者たちは騙される。
母はルナボー人かもしれないので、そもそも棒読み気味になるし、加えて、言わされているセリフなのだろう。
キリスト教が捏造なら、ルナボー人の見せたギュンターへの映像も捏造。
リジーは証拠を見てしまうが、確信を持てないし、時すでに遅し。

ライツェンバッハのへたくそな女装もヒントの一つといえる。
弱っている人は、言葉と行動に簡単に騙される。
オレオレ詐欺とかそうでしょ。
マリウスからと言われて、妻は彼があからさまに怪しくても疑わない。

 

カソリックは、劇中でも他の宗教を排除しており、ルナボー人も協力はさせたけど、同じように排除した。

 

ギュンターは、語源から言うと「戦士」や「兵士」という意味。
10番目の実験体で、『スーパーマン』や『E.T.』も意識しているのかもしれない。
『スピーシーズ』など性的な宇宙人映画は他にもいくつもある。
『スーパーマン』はある種のキリスト誕生譚のアレンジであり、今作はそれを皮肉ってもいる。

 

「神は見ている」はまさに宗教でよく使われる文言だが、それを4つの視点で見せる。
娘の映像記録、カソリックの監視、ルナボー人の監視、周囲の人の目。
そして、どれも神のように機能する。
ギュンター一人だけだったと言うが、他は、イスラム教徒やユダヤ教徒、仏教徒など、いろんなところに実験体を派遣しているのではないか。
一人と言わないと来てくれない可能性がある。
無理やりではなく、望んできてもらうことで、新しい場所で暮らしてもらわないと困る。
母の映像も、急ごしらえなので、残っていた。つまり、前半の舞台を同じなのだ。

前半が舞台なのは、後半も現実もまた同じようにシナリオがあり、それを実際に行っているということが示される。
虚構も、知らせて見せるのは娯楽だが、病気だと思わせて薬を飲ませる虚構は罪だと訴える。

つまり、カールの行いとカソリックの行いとルナボー人の行いは同じようなものだが、それを受ける側の状況が違う。
すべて、ギュンターが受けている。
カールからの演出を受け、不倫の復讐をされる。
カソリックに、現実に、人生を演出され、社会と人生を操作される。
ルナボー人により、すべて演出され、娘さえも支配される。


神が自分で人間をつくり、悪魔にやられ、失敗したと自ら洪水で殺すけど、ノアにを操作し、生き残らせる、この園主tの不条理さを俳優と演出家とその家族にまで広げて描いて見せる直喩。

 

モーザの十戒で考えると、十戒目は、「あなたの隣人の家を欲しがってはならない。すなわち隣人の妻、あるいは、男奴隷、女奴隷、牛、ろば、すべてあなたの隣人のものを、欲しがってはならない。」
まさに、この映画の始まりと終わりの展開になる。

 

12使徒で考えると10番目はヨハネ。
ヨハネ(12使徒の10番目)
ガリラヤの漁師ゼベタイの子で大ヤコブの弟。最初にキリストに従った使徒の一人でペテロや大ヤコブと共にオリーブ山の祈りの時にもキリストと行動を共にした。洗礼者ヨハネとは別人で、区別するために「使徒ヨハネ」とも呼ばれる。黙示録を記した。12使徒で最も若く、12使徒で唯一殉教せず、天寿を全うした。

ヤコブ(大ヤコブ)(※12使徒では9番目)
ガリラヤの漁師ゼベダイの子。使徒ヨハネの兄。最初にキリストに従った使徒の一人。アルファイの子ヤコブと区別して「大ヤコブ」とも言われる。兄弟ともに「雷の子」とも呼ばれた。

死なないという点で、合致するかな。

 

 

オランダは無宗教者が多いことでも知られている。
「世界は神が造ったが、オランダはオランダ人が造った」という言葉も有名。

 

 

 

 

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