菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

継ぎ接ぎは次へ繋ぐ。   『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』

2010年05月20日 00時00分32秒 | 映画(公開映画)
 
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第138回。



「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』






これは、監督と原案のシェーン・アッカーの卒業制作の11分間の短編『9』を基にした長編作品。

その短編(youtubeで観られます。タイトルと監督名で検索)に惚れ込んだティム・バートンが製作を引き受けて、長編化。
他に、『ウォンテッド』のティムール・ベクマンベトフも参加している。

この独特のファンタジー感が、素晴らしい。
いわば、ピーター・ジャクソンがニール・ブロムカンプを後押しして、自分が観たい映画を作った『第9地区』。
それと同じように、ティム・バートンがシェーン・アッカーを後押しして、自分が観たい作品を作ったのがこの『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』といっていい。
同じく9の名前を持った兄弟のような作品なのだ。

本人監督の『アリス・イン・ワンダーランド』は、日本でも5週連続1位の大ヒットをとっている最中。
あれは実に真直ぐな成長譚になっていたし、ピーター・ジャクソンも『ラブリーボーン』では、大衆的な倫理感をまとっていた。
次に進まざるえない自分たちが、この世界に持ち込んだものを次世代の作家に引き継がせようとしているのあろう。
そう、自分たちのしづらくなったものを託して。




目が覚めたら、世界は滅びていた。
スチームパンクの世界が発展して、ある機械よって人類は滅びた。
小さな人形たちだけが残り、彼らは日々、機械から逃れ、生き延びることだけに命を削っていた。
今日生き残れれば、また次の今日を過ごせるという日々の中で、新たな仲間”9”が現れたことで、事態は一変する。

主人公たちは同じ科学者が作ったさまざまな布製の体を持つ9体の人形。

この布製の人形たちに代表される独特のダークなビジュアルがこの作品の命である。
そして、世界観を息づく映像スタイルがその魅力を倍増させている。

チームでは、デザインから、このジャンルを、スチームパンクになぞって、スティッチ(つぎはぎ)パンクと呼んでいたそうだ。
自分の布製の体の奥にモノを入れていく姿は、実に映画的だ。

だから、描かれるのも、まっすぐ童話的物語ではない。
失敗と生存競争、責任転嫁と背負わされた重い期待、複雑な決断と辛い別れがこれでもかと語られる。
だが、そこにあるのは、彼らの強い生存本能と探究心だ。
闇に射す光の眩しさだ。

キャラクター造詣が、まさにそれを象徴する。
その仲間キャラクターの造詣と関係も素晴らしい。
主人公の“9”は、世間知らずの無思慮のトラブルメーカー。
力自慢の”8”は、見張り中に磁石で快楽にふける始末だ。
リーダーは臆病だが、正しいと信じて残酷さの正当性を主張する。
知恵を持つ者は、失われる。
もっとも強いのが女性キャラというのは、最近の傾向なんだろうね。

声の出演もイライジャ・ウッドに、ジョン・C・ライリー、ジェニファー・コネリー、クリストファー・プラマー、マーティン・ランドーと曲者がそろっている。

そして、その動きの気持ちよさは、なかなかのもの。
巨大な世界を装置で移動し、飛び回る姿は特筆ものだ。



彼らはまさに科学者という神によって、目的を持って作られた存在だ。
だが、彼らは迷う。
目的は、生き続けることだからだ。
この廃墟と暴力と向かい風だらけの救いのない世界で、生きることだけを目的に生きていけるものだろうか?
それは、どの様に生きるかというもう一つの目的をつきつけるのだ。
何も持っていない“9”は、彼にしかないものを見つけたから。
もちろん、それは映画館で彼と一緒に見つけてもらいたい。





小さな人形のアニメという点では、小人を描くジブリの新作『借りぐらしのアリエッティ』と比較するのも一興ですぜ。





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