で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2143回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『奈落のマイホーム』
巨大な陥没穴“シンクホール”によって地下深く落下したマンション住民がサバイバルするディザスター・パニック・ドラマ・コメディ・スリラー。
2021年の韓国映画興行収入第2位。
主演は、『悪いやつら』のキム・ソンギュン、『ハイヒールの男』のチャ・スンウォン。
共演は、イ・グァンス、キム・ヘジュン。
監督は、『第7鉱区』、『ザ・タワー 超高層ビル大火災』のキム・ジフン。
物語。
平凡なサラリーマンのドンウォンは妻と息子の3人暮らし。
11年間の節約生活の末に、ついにソウルにマンションを購入した。
夢のマイホームを手に入れた喜びに浸る彼だったが、ビー玉が床を転がる様子に不安を感じる。
しかも、引っ越し初日に住民マンスとちょっと衝突して、それも悩みの種。
同僚をマイホームに招いて開いた引っ越しパーティのさなか、巨大な地響きとともにシンクホールが出現し、マンション全体が地下深くへと飲み込まれてしまう。
脚本:チョン・チョルホン、キム・ジョンハン
出演。
キム・ソンギュン (パク・ドンウォン)
チャ・スンウォン (マンス)
イ・グァンス (キム代理)
キム・ヘジュン (ウンジュ/インターン社員)
ナム・ダルム (スンテ)
クォン・ソヒョン (ヨンイ/妻)
パク・オクチョル (ソンフンの母)
キム・ゴヌ (スチャン/息子)
オ・チャフン (ソンフン)
チョン・ヨンスク (オ氏おばあさん)
ナ・チョル (キョンフン)
キム・ジェファ (キョンミ)
ハン・ヘリン (ヒョジョン)
イ・ハクチュ (チョン代理)
コ・チャンソク (救助隊長)
キム・ホンパ (ソ局長)
チャン・グァン (洗濯男)
スタッフ。
PD:キム・ドヨプ
助監督:イ・ウニル、キム・ソニョン
撮影:シン・テホ(C.G.K)
照明:ファン・スヌク
美術:キム・テヨン
武術:キム・チョルジュン (9 Stunt House)
編集:シン・ミンギョン
音楽:キム・テソン(モノポール)
『奈落のマイホーム』を鑑賞。
現代ソウル、陥没で地下深く落下したマンション住民がサバイバルするディザスター・パニック・ドラマ・コメディ・スリラー。
2021年の韓国映画興行収入第2位。
前半はマイホーム引っ越しコメディ、後半が災害サバイバルとなる、二部構成で、往年のディザスターものの構成を踏襲し、韓国風味に仕上げている。災害ものも韓国映画は得意なのよね。監督は、ディザスターものをいくつか手掛ける『ザ・タワー 超高層ビル大火災』のキム・ジフンで、堂々とご都合主義と迫力あるトラブルを突きつける。
アジア的韓国的なミクスチャー。このコメディとシリアスのバランスはローカルなバランスでまったく印象が変わる。日本では受け入れづらい人が少なくない。おいらは好物なんだけど。けれど、アニメでは多く、『君の名は。』や『おおかみこどもの雨と雪』、『ハウルの動く城』など、このミクスチャーでの傑作ヒット作がいくつもある。
なので、日本版予告編ではコメディ要素はうっすらとだけ伝えている。
『悪いやつら』のキム・ソンギュンの平凡感がたまらない。ほかにも、イ・グァンス、キム・ヘジュン、クォン・ソヒョンといい顔を揃えて、リアリティを出す。きちんと美人度を落としており(メイクだけでなく体重増加など)、成熟した観客がいるという理解があることの証明となっている。つまり、物語に必要なこと、やるべきことをしている。プロの仕事を気づかずに見られる。これがどれだけ映画を豊かにするか。そこにスターの『ハイヒールの男』のチャ・スンウォンを置くことで、虚構の力を担保する。ただ、ここにはそのイメージや知識としてあることが重要だったりする。もちろん、前半で彼自身の芸は十分見られる。彼のコメディセンスが映画を牽引する。
ソウルは実際にシンクホールが多い。2010年代に直径120mのシンクホールも発生。しかも、半数以上は地下鉄沿線に存在したり、上下水道の不整備が原因と思われ、人災だとも言われる。陥没予測の<道路陥没管理システム>もあるほど。
実際に起こるのだから、悲劇もあるが、それを笑うことをどう考えるか。『すずめの戸締り』でも起きている現象だ。だが、それこそ自虐の笑いとして、賢首を把握する客観性があるとも言える。そして、話題に上がることで、その対処を促すこともできる。
きちんと大作だが、あえて小さくまとめているところに内容と予算が向き合ってるのがよくわかる。
よくできた美術が距離を縮め、光りの無い地下での光の演出などで心に手を伸ばしてくる。
『すずめの戸締り』の後で見ると見え方が変わります。
こちらはメッセージ性は希薄ですけどね。これもまた娯楽のパワー。
落ちとオチ、マイナス×マイナス=+作。
おまけ。
原題は、『싱크홀』。
英語題は、『Sinkhole』。
『シンクホール』
2021年の作品。
製作国:韓国
上映時間 :114分
映倫:G
観覧基準:12歳以上 観覧可
配給:ギャガ
受賞歴。
2021年の第41回 黄金撮影賞授賞式 撮影監督が選定した男子人気賞 (チャ・スンウォン)を受賞。
韓国も救急は119番なんですって。
ネタバレ。
悲しいシーンを引きずらないように、おばあさんの息子とソンフンの死を同時に描いている。しかも、その死をドンウォンとスチャンしか知らないので、生き残ったほとんど面子はその死を強く受け止めないようになっている。
ドンウォンはおばあさんを助けようとするが、彼女はロープを切ってしまう。それは娘への絶望があるのだろう。娘は事故後も姿を現さない。
そこには、現代社会の問題を潜ませているのだろう。
老人にはソウルで一人生きる希望はないと。
シンクホールを題材にした時点で、韓国の無理矢理な都市開発を批判しているのだから。
4組の親子関係がこの映画の軸になっている。
ドンウォン父母子、ソンフン母子、マンスとスンテの父子、おばあさんと息子と娘の親子。
そして、結婚式に行けないキム代理とウンジは新しく家族となる。だが、そこには、子供の姿はない。
最後の団らんに、子供がいないのが欧米的。(スンテは来たがらなかったかもしれないが)
あそこで献杯しててもよかった気もするが、ドンウォンしかその死を知らないので、気分を壊すから、やれないのだろうけど。
あそこに、スチャンがいたら、どうだったか。ハピーエンドの気分を壊しただろうか。コメディだしなぁ。
マンションは落下しても水平はある程度、保たれる。
水が出なくなることが、クライマックスの伏線になっていて、水がシンボル演出として用いられている。(モチーフというほどではない)
雨がまんまだが、ウンジが運ぶのも水のボトル、おばあさんは銭湯が楽しみ、引っ越しパーティの酒で酔って帰れない。
落ちる時も水を撒きながら落ちていく。
ビー玉のガラスも液体といえる。
上下水道の整備がシンクホールの原因とも言われているので、そこを意識したのではなかろうか。
水が悲劇で、対比として、火と光が希望として使われる。
スンテのたばこ(彼のストレスを緩和する)、地上の穴の光、ウンジの盆の贈り物は焼肉、助けはドローンのライトとヘッドライトで表現され、料理が彼らをつなげる。
最後は花火が飾る。
悲劇と喜劇は隣り合わせは、チキンの泥焼きに託される。