で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1252回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『シェイプ・オブ・ウォーター』
米ソ冷戦下の1962年のアメリカを舞台に、政府に捕らえられた謎の生き物と掃除婦として働く声の出せないヒロインの出会いを描くファンタジー・ラブストーリー。
米アカデミー賞にて、モンスタージャンルで作品賞と監督賞を受賞する史上初の快挙を成し遂げた歴史的作品。
主演は、『サブマリン』、『パディントン』シリーズ、『GODZILLA ゴジラ』(2014)のサリー・ホーキンスと『ヘルボーイ』のエイブ・サピエンや『バイバイマン』をはじめ数々の異形キャラクターを演じてきた第一人者ダグ・ジョーンズ。
監督は、『パンズ・ラビリンス』、『パシフィック・リム』のギレルモ・デル・トロ。
物語。
1962年、アメリカ。
口の利けない女性イライザは、政府の宇宙研究所で掃除婦として働いていた。
孤児で、心を許せるのは、隣人の老画家ジャイルズと同僚の黒人女性ゼルダだけだった。
彼女とゼルダは特別研究室の掃除をしていると、研究所の水槽で運ばれてきた不思議な生きものを見かける。
彼女らに水槽から離れるようエリート軍人ストリックランドは命令する。
ある日、彼女とゼルダは呼び出され、急遽、特別研究室の掃除を申し付けられる。そこには大量の血が零れていた。
原案は、ギレルモ・デル・トロ。
脚本は、ギレルモ・デル・トロ、ヴァネッサ・テイラー。
出演。
サリー・ホーキンスが、掃除婦のイライザ。
ダグ・ジョーンズが、アマゾンから来た水棲の生き物。
リチャード・ジェンキンス画家のジャイルズ。
オクタヴィア・スペンサーが、掃除婦のゼルダ。
マイケル・シャノンが、軍人のストリックランド。
マイケル・スタールバーグが、ホフステトラー博士。
デヴィッド・ヒューレットが、フレミング。
ニック・サーシーが、ホイト元帥。
ほかに、ナイジェル・ベネット、ローレン・リー・スミス、ジョン・カペロス、モーガン・ケリー、など。
スタッフ。
製作は、ギレルモ・デル・トロ、J・マイルズ・デイル。
撮影は、ダン・ローストセン。
素晴らしい色彩。
プロダクションデザインは、ポール・オースタベリー。
衣装デザインは、ルイス・セケイラ。
見所です。
編集は、シドニー・ウォリンスキー。
音楽は、アレクサンドル・デスプラ。
さすがの音作り。
60年代の米国の宇宙研究所で働く声の出ない女性が謎生物と出会う幻想恋愛譚。
ギレルモ・デル・トロの異形愛の表面張力。
口を塞がれた者たちの抵抗。冷戦の中で温泉のごとき触れ合いに琴線が震える。
青緑の中でほのかに灯る赤光。痛みと労わりの両面を抱えて泳ぐ。飛び抜けた色と美に蕩ける。
サリー・ホーキンスとダグ・ジョーンズの声無き鳴き声。取り囲む籠のような抱擁のようなキャスト陣。ファンタジーの定番の語りで夢物語に連れていき、共感に逃げず、共鳴を起こす。
心の具体的挿話はそこまで丁寧にではないが、恋は落ちるものという寓話の割り切りで電気を流す。
愛は藍より井出るトロだらけの鰓作。
おまけ。
原題は、『THE SHAPE OF WATER』。
『水の形』ですね。
この"水"とはなにを指すのか。
上映時間は、124分。
製作国は、アメリカ。
映倫は、R15+。
キャッチコピーは、「切なくも愛おしい愛の物語。」
画像が女性と水棲人が抱き合っているので、偏見やよけいな説明をしないで普遍的な愛の物語であると見せたかったのだろう。
受賞歴。
2017年の米アカデミー賞にて、作品賞、作曲賞をアレクサンドル・デスプラが、美術賞をポール・D・オースタベリーとShane VieauとJeffrey A. Melvinが、監督賞をギレルモ・デル・トロが、受賞。
2017年のヴェネチア国際映画祭にて、金獅子賞をギレルモ・デル・トロが、受賞。
2017年の全米批評家協会賞にて、主演女優賞をサリー・ホーキンスが、受賞。
2017年のLA批評家協会賞にて、女優賞をサリー・ホーキンスが、監督賞をギレルモ・デル・トロが、撮影賞をダン・ローストセンが、受賞。
2017年のゴールデン・グローブにて、監督賞をギレルモ・デル・トロが、音楽賞をアレクサンドル・デスプラが、受賞。
2017年の英国アカデミー賞にて、監督賞をギレルモ・デル・トロが、作曲賞をアレクサンドル・デスプラが、プロダクションデザイン賞を、Shane VieauとJeff Melvinとポール・D・オースタベリーが、受賞。
2017年の放送映画批評家協会賞にて、作品賞を、監督賞をギレルモ・デル・トロが、美術賞をShane VieauとJeff Melvinとポール・デナム・オースタベリーが、音楽賞をアレクサンドル・デスプラが、受賞。
字幕が黄色いのは、青緑が基調の映画なので、馴染んでいて、素晴らしい。
ややネタバレ。
ストリックランドが購入したキャデラックの車体色のティールとは、鴨の羽色(かものはいろ)のこと。青緑色の一種でマガモの頭の羽の色からとられた。英語では、単に「teal」や「teal green(ティールグリーン)」、「teal blue(ティールブルー)」などのように呼ばれる。
劇中で食べられるキーライムパイとは、Wikiによると・・・。
キーライム・パイ(英: key lime pie)とは、キーライム(Citrus aurantiifolia)果汁、卵黄、コンデンスミルクをパイクラストに入れて作るアメリカ合衆国のデザート。
伝統的なコンク(ヨーロッパ系バハマ移民)の製法では、卵黄を使用しメレンゲをトッピングする。このパイは、フロリダキーズ全域に自生する小さなキーライムから名付けられた。キーライムは、とげがあって扱いづらく、薄く黄色い皮は傷みやすい。酸味と香りが強い。スダチに近い。
キーライムの果汁は、通常のライム果汁と異なり、淡黄色である。キーライムパイのフィリングもまた、主に卵黄を使用することにより、黄色である。着色料でパイフィリングを緑にする場合もあるが、伝統的なキーライムパイ作りでは邪道とされる。
具材を混ぜる際、コンデンスミルクとライム果汁に含まれる酸が反応して凝固し、フィリングに火を通すことが不要になるほど固まる。キーライムパイの初期のレシピではパイを焼かずにこの化学反応でフィリングを固めていた。現在は、生卵の使用によるサルモネラ中毒の危険性のため、この種のパイには通常短時間の焼き工程がある。この焼き工程により、フィリングはさらに固まる。
キーライムパイはフロリダ州の公式な「州のパイ」である。
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』で主人公カップルが立ち寄ったダイナーで注文するのがキーライム・パイで鮮やかすぎる毒々しい緑色を放っていた。
アマゾンの守り神は、『ヘルボーイ』のエイブ・サピエンにも似ているが、『アトム・ビギニング』のA10にそっくりだったり。
『シェイプ・オブ・ウォーター』に入れられたボカシは、今の日本映画界に審美眼が欠け、偏見が尖っているのを示す例の一つ。
『シェイプ・オブ・ウォーター』の中国語題名三種。
『水底情深』(台湾版)、『忘形水』(香港版)、『水形物語(水形物语)』(中国大陸版)。
ネタバレ。
大人向けの『千と千尋の神隠し』ともいえるほど、ベースのイメージが似ている。
『シェイプ・オブ・ウォーター』=『千と千尋の神隠し』
ヒロインは掃除婦=ヒロインは雑用婦。
ハクは川の神様=彼は川の神様。
水=お湯。
お風呂=お風呂
バス=電車。
敵に惚れられる=カオナシに惚れられる
茹で玉子=塩むすび
水の色も似ているし、オクタヴィア・スペンサーやマイケル・シャノンやマイケル・スタールの顔も蛙顔だしね。
当然、『崖の上のポニョ』の大人版でもある。
構造としては、『アメリ』にも似ている。
変わった女性が恋に落ちるラブストーリー、友人が隣人の老人、性的にうまくいっていない、など。
『グラン・ブルー』も思い出さざるをえない。
グリーンは未来、赤は情熱や感情や愛を示しているそう。
数分に一回、いろいろな水が出てくる。
アマゾン川は海水と淡水が混じる場所があり、古代では海水の川があったことも確認されている。河口には1000キロにおよぶサンゴ礁もあり、海水の生態系があることが知られている。地下にも巨大な川の存在も発見されているが、まだ調査に及んでいない。
日本公開版はR15+に留めるためにベッドシーンでぼかしが入っていて、逆に恥ずかしい。
日本版とアメリカ版は同じ上映時間なので噂にあったシーンカットはないようです。
画家のジャイルズの語りで、最後の水の中はそうあって欲しいという夢ともとれる。イライザが水棲になったというのも。
それはストリックランドの家庭がジャイルズが描いたイラストと全く同じなのも含めて。
ジャイルズと上司は恋人同士だったのか?
『ドリーム』でオクタヴィア・スペンサーはNASAの前身のNACAから働いていたので、その時のエピソードとして、『ドリーム』をスピンオフの続編という風にも見ることが出来る。(一応、『ドリーム』は実話です)
ストリックランドの「小便の前に手を洗うか、小便の後に手を洗うか。それが男を決める」の元ネタはゴダールの映画だっけか? 「きれいな手でナニに触るか、汚い手でナニに触るか、だ」みたいなやつだった覚えがある。つまり、キレイな手で触ったチンコなんだからキレイで、俺のチンコはキレイだってこと。生活で汚れた手で俺のチンコに触るわけにはいかないってこと。
アマゾンの守り神とストリックランドは重ねられている。
青緑の中にいる、傷を負う、 居場所を奪われる、ジャイルズの画に投影される、イライザに恋をする、鎖と指輪、それを外される・・・。
半魚人(半漁人とも書く)または水棲人は知性の高い怪物として伝説では描かれることも多い。魚のアプカルルなど。
最近は、水棲人を扱った映画が増えてきている。『ゆれる人魚』、『人魚姫』、『ジャスティス・リーグ』、『アクアマン』、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、実写版『リトル・マーメイド』、今作など。
鮫映画も多いので、半鮫人シャークマンとかスーパーヒーローものでもモンスターホラーでもいける気がするし、もうすでにありそう。『太陽戦隊サンバルカン』にはバルシャークが『仮面ライダー オーズ』にはさサメヤミーという敵が出てきた。
水の形は器で決まる、つまり自由で決まっていない。愛の形でもある。
映画館でかかっているのは『砂漠の女王』(1960)、『恋愛候補生』(1958)の2本立て。どちらも女王(前者はダビデ王の祖母ルツ、後者はマルディグラの祭りの女王)がヒロインの恋愛もの。
『恋愛候補生』の原題は『Mardi Gras』なので"s"は一つでいい。
マルディグラ(仏: Mardi gras)とは、フランス語で「肥沃な火曜日」の意で、謝肉祭の最終日、灰の水曜日の前日のこと。
ギレルモ・デル・トロによると名作ではなく普通の娯楽映画にしたかったとのこと。一応、前者のルツとイライザには共通点があり、後者は玉子が出てくるシーンと1曲だけ歌うシーンがあることで選んだとのこと。
特別研究なのに、掃除婦が簡単に入れ過ぎという意見もあるが、彼女らには何もできないと舐められているということを示してもいるし、ジャイルズの語りのファンタジーでもある。
「人は中身」なんていう定番のメッセージだけではない。それは「外見を認めない」という逆説も発生させるから。だって、アマゾンの守り神、カッコいいし。
言うなれば、「相手を認める」ということだろうか。
語り部が登場人物として出てきた場合、基本、その人物の主観ということになる。つまり、この物語はジャイルズの主観の世界。
だから、彼の好み(ミュージカルやファンタジックな映画の愛好者で、知られざる役者を捨てず、肉感的なのを好み、現実的なのに幻想的な発想をする)が反映されている。彼が描いたイラストとストリックランドの家庭がそっくりでゼリーまで一緒なのもそこら辺を踏まえているわけだ。
深く読めば、あの二人の結末は川で飛び込んで終わりだったのを、彼がハッピーエンドに語り替えた。つまり、この物語は彼の彼女とあいつへの友情の物語でもある。
いっちゃえば、ゲイのおじいちゃんから不思議な恋愛話を聞いてるのだと変換してみてってこと。
『シザーハンズ』でも使ってたファンタジーのお約束の技法。(『シザーハンズ』では当事者が語り部なので聞き手に意味があるようにしている)
『ホビット』シリーズでも、フロドがおじいちゃんビルボの日記を読んでいる。(これには共同脚本にギレルモ・デル・トロもいるし、元は監督する予定だった。ファンタジーでのアカデミー作品賞受賞作はその前作『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』と今作のみ)
ジャイルズは、『ゴッド・アンド・モンスター』のジェームズ・ホエール(『フランケンシュタイン』の監督)をイメージしているそう。
『フランケンシュタイン』から魂を『ミツバチのささやき』は取り出したが、『シェイプ・オブ・ウォーター』はそのまま体も魂も引き継ぎ、愛にまで昇華させたのだ。
『美女と野獣』から『シュレック』が生まれたように。あれもグリーンの怪物だね。
好みの台詞。
「人間じゃないモンスターだぞ」「彼を助けなければ、私たちも人間でなくなってしまう」