菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

サヨナラ人類、ヨウコソ甲殻類。   『第9地区』

2010年04月05日 00時01分46秒 | 映画(公開映画)
 
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第126回。



「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『第9地区』
 



80年代のハリウッドSF映画への愛にあふれ、21世紀の扉を叩き開けるミクスチャーSFの快作。


さまざまな映画の痕跡を発見できる。
どこかで観たようなのに、目の前に展開されるのはまったく観たことが無い世界という、不思議な感覚を味わしてくれる。
既存のものを混ぜ合わせて、そのごった煮のまま、世界観を作り上げている。
90年代のミクスチャーの影響下にあるのは、明らかだ。

ミクスチャーの作家では、マーティン・スコセッシ、押井守、クエンティーノ・タランティーノ、ロバート・ロドリゲス、庵野秀明、スパイク・ジョーンズ、ポン・ジュノ、エドガー・ライトなどが有名だが、監督のニール・ブロムカンプもその系譜に連なるわけだ。
しかし、ミクスチャーでありながら、観たことない世界を作り上げられたのは、CGを駆使した映像効果と、彼の出自の南アフリカという土地感覚であるかもしれない。
この映画の舞台も、南アフリカのヨハネスブルグであることも大きく、それは映画の冒頭でもわざと言及する。

宇宙船が訪れたのは、ワシントンでも、ロンドンでもなく、ヨハネスブルクだった、と。

これって、そう、ピーター・ジャクソンにとってのニュージランドと近い。
先のミクスチャーの系譜には、もちろん、ピーター・ジャクソンも入る。
そして、彼は、この映画のプロデューサーでもある。

これは、ピーター・ジャクソンが後押しした監督ニール・ブロムカンプのデビュー作。
ニール・ブロムカンプは、映像効果を駆使した短編映画やCMで評価を得ていた新鋭。
SF映画ファンから長編映画デビューを今か今かと待ちわびられていた逸材。
そして、デビュー作のSF作品で、米アカデミー賞作品賞にノミネートされた。
『アバター』がなければ、視覚効果賞もとっていただろうと言われている。
(一応、撮影したカメラはREDONEだそうです)

実は、『第9地区』は、ブロムカンプ自身の短編作品を基にしている。
(米アカデミー賞の脚色賞にもノミネートされた)

 
この映像効果がとにかく凄い。
空気感というか触感というか皮膚感があるのよね。
この目の前に展開されるリアルな映像に、疑いなくその世界へ連れて行かれてしまう。
特撮SF映画で言えば、60年代の『2001年 宇宙の旅』、70年代の『ブレードランナー』、『未知との遭遇』、『エイリアン』、80年代の『ロボコップ』、『E.T.』90年代の『ターミネーター2』、『マトリックス』、『インデペンデンス・デイ』という世代を代表する傑作群と同じく、2000年代の代表作となる作品と断言できる。
(2000年代には、『トゥモロー・ワールド』もある)
これらと同じく、世界観とビジュアルにおいて、確固たる唯一無二なものを作り出しているのだ。
 

個人的には近いと思われるのは、ポール・バーホーベンやデビッド・クローネンバーグの作風。
社会問題とスタイルの縦横無尽さ、特殊なギミック、暴力ときついユーモアといった部分が重なると観ている。
特にギミックの扱いは、ポール・バーホーベンに非常に似通っている。


 

ドキュメンタリーのスタイルを語り口に取り込んでおり、スタイルそのものもミクスチャーしている。
SF映画でこれをやっているのは、少ない。
ドキュメンタリーから、突然ドラマに入るスタイルは、ドキュメンタリー・スタイルのリアル・ドラマとも、フェイク・ドキュメンタリーのスタイルとも違い、これが新しい映画体験をつくっている。
無名のキャストの起用が、それを完璧にしている。
今後、彼らが有名になる前に観ておくのを勧めます。




なにより、宇宙人の人間性を描くのを逃げなかったことに惚れます。
えびと言われるはっきり言って、生理的にかなりきついビジュアルの宇宙人に、いつしか感情移入してしまう。
『アバター』でも、あの青いナヴィ族に、感情移入させることに成功しているが、はっきり言ってデザインのグロさでその難しさは『第9地区』のエビ宇宙人(プラウンことエビと邦訳される)の方がかなりハードルが高い。
『E.T.』より難しいと言える。
『エイリアン』のアレとか、『スターシップ・トルーパーズ』のバグに近いんだもの。
あれをメインにすえたセンスには、SF魂と、海老はカッコイイと言った、荒木飛呂彦的なデザイン魂を感じるんだよなぁ。
『アバター』を楽しめたあなたなら、『第9地区』もやっぱり観て欲しいのよ。
だって、コインで言えば裏表の裏だから。
なんていうか、“エビター”って感じなのです。
なに?って感じでしょうが、これは、観てもらえば、わかってもらえるかと。
 


難民宇宙人てのは、大設定は、『エイリアン・ネイション』や『V』、『エグザクソン』など、SFでは結構使われてきた設定なのですが、それを用いたストーリーはもっと親密に、もっと怒涛に迫ってくる。
ある意味では、映画版『ドラえもん』を彷彿とさせます。
そう、映像のリアルは、ストーリーの身近さとも結合しているのよ。
それは、ある男の思いを描き出すから。
それはスタイルやビジュアルの突出だけで終わらずに、心を描いているから、これだけ熱がこもるのよ。
大事なのは、キャラクターの動くストーリー。
それを支える映画センスで名作となるのを改めて実感する。
まぁ、SF作家の悪い癖とも言える、男のロマン補正で少々都合良さがあるのは否めないけどね。




とにかく、これだけ語りたくても、見る前に語ったら、もったいないと言わせる映画は久しぶりです。
ミステリーとかそういうのではなく、オマージュやインスパイア元、自分の好きな映画の話にどんどんドンドン飛び火したいから、早く観て欲しい、そして、語り合いたい。
ここには、書ききれないんですもの。
 

もうね、4月10日からの日本公開をワクワク期待しながら待ちわびていただきたい。
で、一緒に語らおうよ。


 








おまけ。
『第9地区』は試写で観賞しました。
普段、試写はなるべく行かないのです。
自分で劇場に足を運び、観てこそ映画の楽しみを味わえると思っているので。
ですが、この映画は予告編ですでに応援せざるえないと感じていたので、宣伝協力のために、試写に赴きました。
そうそう、わたなべりんたろうさんからのお誘いだったのも、影響大です。

そんで、観て、これは、やはり応援せねばと決意しました。
だって、おいら、ずっと、こういう映画が観たかったんだもの。

というわけで、応援web(http://district9jp.web.fc2.com/index.htm)に応援コメントを寄せさせていただきました。
全国公開の映画ですが、お子様や女性向けで無いとか、テレビの力が入っていないとか、そんな理由で、簡単に良作が埋もれる時代です。
だから、こういうおいらたちが本当に楽しめる映画を後押ししていきたい。

映画を観る楽しみは、話題に乗って、インスタントな喜びの享受だけでない、自分の少しみっともない部分を支えてくれるものでもあるってことを伝えていかないとね。
映画という媒体が持つ、公共の闇を失くしたら、たぶん世界は土を使わずに育てた野菜みたいな、漂白された白いネズミの棲家になっちまう気がします。
闇は光が強ければ、濃くなるのであって、消えはしないから。
それは、ぬめりとなって、トイレをつまらせて、あふれかえらせる。
あのトイレをカッポンさせるアレみたいな映画が、もっと受け入れられないと、窮屈で、息苦しくなるだけなんですもの。

公開されたら、でかいスクリーンで、もう一度観るつもりです。
ああ、4月10日が楽しみだわ。

 
 





おまけ、その2。
こりゃ、2010年代は、エイリアン・ブームが来るね。
『アバター』、『第9地区』とエイリアンものの傑作が生まれたからね。
70年代の傑作SFのラッシュが、80年代に大量生産を起こさせたように。
これで、『サイン』が復権されるかもしれん。





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2 コメント

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昨日見ました! (Squirrel)
2010-04-16 00:20:24
表アバターには大作のいやらしさを感じて興味がわかなかったのですが、裏アバターなるこの映画はツボでした!
グロイはずのエビ宇宙人の子供の可愛さよ。
お子様&女性&デート向けではないとは思いますが、こういう映画こそ皆に観てほしいですよね。(ちなみに私は40代の♀)
返信する
どうもです。 (ひし)
2010-04-16 07:10:05
Squirrelさんへ

楽しめたようでなにより。
女性にそういってもらえるのは嬉しいですね。

そうそう、ブロムカンプは、3Dをあまりいい傾向とは思ってないそうですよ。
返信する

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